一貫した世界観を描きだすソフト技術
iPhoneの製品としての質感の高さは、画面の中の世界にも貫かれている。
これまでの携帯電話は、メニュー画面だけはきれいに作り込んでいても、通信中や通話中、設定画面などを呼び出した瞬間に文字だけの無機質な画面が現れてユーザーをシラケさせてしまっていた。一方、iPhoneはまるでよくできた映画(ピクサー社の映画?)のように、破綻なくひとつの世界観で貫き通している。だからこそモノとしても高い愛着がわいてきて、「信じて使ってみよう」という気が湧いてくる。
iPhoneとユーザーの信頼の絆をさらに深めるのが、アップルが創業から30年強の歳月をかけてたどり着いた究極の入力機器“指”を使っての操作だろう。iPhoneの操作の基本は、
- タップ──軽く叩く
- ホールド──しばらく押し続ける
- ドラッグ&スライド──指で押さえたまま移動する
- ピンチ──指2本を画面の上に置いて、間隔を狭めたり広げたりする
の4つ。
ただしiPhoneの液晶ディスプレーは、複数の指のタッチを認識できるマルチタッチ仕様となっている。そのため、本当は上記4点に加えて、指を2本平行移動させる操作や、画面に置いた複数の指を回転させるジェスチャーなど、まだまださまざまな入力方法が考えられる。
しかし、新しい操作体系を広げるためには、まずは操作方法を絞って少しづつ広げていくことが大事で、スティーブ・ジョブズはそのことを何よりも分かっている人物だ。
彼は初代Macにおいても、ユーザーがマウスを使う機会が増えるようにと、キーボードから矢印キー(カーソルキー)を取払い、メニューからキーボードショートカット操作を(すでに発明されていたにも関わらず)取り払った。初期のMacはドラッグ操作ができる範囲も限られていて、アイコンをポイント(指して)してクリック、メニュー項目をポイントしてクリック、という操作が基本だった。そしてその後、さまざまな操作の応用が発明され、意味が拡張されて今に至っている。
ユーザーの声も聞いて、ケータイの操作を再定義
今のiPhoneは、初代Macと同じ状態にあるといっていい。
おそらくどういったマルチタッチの操作をするかについても、社内ではいろいろ提案があったが、とりあえず最初のうちは慎重にユーザーの様子を見て、操作体系を設計していこうとしているのだろう。まだ発表されていない操作を追加するのは簡単だが、一度、発表してしまった操作を後から取り消すのはずっと難しいからだ。
アップルはスティーブ・ジョブズのビジョンとひらめきだけに率いられているワンマン企業だと思っている人も多いようだが、今日のアップルにおいては、ユーザーの意見に耳を傾ける力を持っていることも大きな強さの秘訣になっている。
ただし、ユーザーの意見に片っ端から耳を傾ける、というのではなく、ジョブズ自身の美学があり、考えがあった上で、その微調整や最終判断をあおぐための手段としてユーザーの声を聞き入れる体制がある。アップル直営店などは、まさにそういう役割を果たしているだろう。
*中編に続く