Tangible User Interface
現在のGUIは、世界をスクリーン上のピクセルとして模擬し、それを汎用的なリモコンであるマウスやキーボードなどの入力デバイスにより操作する。入力と出力の間には空間的乖離がある。その乖離ゆえ、ピクセルは何にでも化けることができ、汎用リモコンの制約にもかかわらず偉大な表現の自由度と汎用性を手に入れて、大きな商業的成功を収めた。しかし、入力と出力の分離は、直接性を犠牲にした。
10年前、私はMITで研究を始めるにあたり、メインストリームとは対極となる新しい流れを創り出すことを目標にした。メインストリームとは、もちろんGUIである。そのポイントは、
- ビジュアルな表現(ピクセル)
- リモートコントローラー(マウス、キーボード)
- 汎用
の3点にまとめられる。
私はそれに真っ向から逆らう道をとることにした。すなわち、
- タンジブルな表現(物理的実体とデジタル情報の結合)
- 入力と出力の一体化による直接操作
- 特定アプリケーション専用インターフェース
といった特徴を持つ新しい流れ、「Tangible User Interface(TUI、タンジブル・ユーザー・インターフェース)」を創ることにしたのだ。
デジタル情報に物理的な実体を与え、直接手で操作できるようにしよう、複数の人が自分の身体空間の中で、自然な形で同時並行的に操作できるインターフェースを実現しようというのが、TUIの基本アイデアである。
この連載では、このTUI研究の軌跡を横軸に、人とテクノロジーの関わり方を縦軸に、学術的ではなく日々考えていることをエッセイとして書いていきたいと思う。
(MacPeople 2005年7月号より転載)
筆者紹介─石井裕

米マサチューセッツ工科大学メディア・ラボ教授。人とデジタル情報、物理環境のシームレスなインターフェースを探求する「Tangible Media Group」を設立・指導するとともに、学内最大のコンソーシアム「Things That Think」の共同ディレクターを務める。'01年には日本人として初めてメディア・ラボの「テニュア」を取得。'06年「CHI Academy」選出。「人生の9割が詰まった」というPowerBook G4を片手に、世界中をエネルギッシュに飛び回る。

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