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<シリーズ>「日本版SOX法後」の業務はどう変わるのか(3)

「正しい理解さえあれば大騒ぎすることではない」――公認会計士・内部統制コンサルタントの広川敬祐氏

2007年05月28日 00時00分更新

文● 江頭紀子

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内部統制とは「健康診断」のようなもの――すべてのリスクを挙げればキリがない


 ではなぜこのようになってしまったのか。そうならないためにはどうすべきか。広川氏は「文書化も業務分掌も、やろうとしていることが法制度で求められている範囲なのか、本当に必要なことなのか、現場の実情に合わせてよく考えるべき」と忠告する。このとき、内部統制を「健康診断」に例えて考えてみると分かりやすいという。

「人の健康維持のために健康診断が必要なように、企業が健全性を保つためには“定期的な検査”が必要だ。しかし、自分の健康を守ることは本来、自主的にすること。内部統制も同様に、もともとは自発的・主体的に取組むべきものだ」(広川氏)

 広川氏によれば、内部統制が「日本版SOX法」で制度化されたことは「これまで任意で行なっていた健康診断を国が義務化したようなものだ」という。そこで、内部統制を進める上での勘所は、自発的・主体的に進めていく“本来の内部統制”と、制度に対応するために“最低限やっていかねばならない内部統制”とのメリハリをつけることだ。広川氏は、「現場もこの点を踏まえておく必要がある」と話す。

 また、義務化された部分についても、実際には個人(企業)差があるので検査対象までは一律に法で決められない。金融庁の内部統制実施基準にも、「個々の組織が置かれた環境や事業の特性等によって異なるものであり、一律に示すことはできない」という文言がしつこいほど登場している。

 そのため、できるだけ対象範囲を合理的に決めることが、現場の負担を軽くするために重要となる。「健康診断にしろ内部統制にしろ、すべてを検査するのは無理な話。どこをどう検査するかはそれぞれの健康状態に応じて決め、“最低でも三大疾患などの重大な病気を予防できれば”という意識で検査をすればいい」と広川氏は話す。「『念のため』『心配だから』とリスクを挙げて、すべてに対応していればキリがない」(広川氏)からだ。


日本版SOX法は頭を抱える制度ではない――現場も正しい知識を得よう


 内部統制の“やりすぎ”を防ぐために、広川氏は「余計なことに翻弄されず、金融庁が求める内部統制をよく勉強して正しく理解すること」とアドバイスする。具体的には、金融庁のWebサイトに公開されている実施基準などの文書のほか、青山学院大学大学院の八田進二教授など、金融庁内部統制部会のメンバーが執筆・監修した雑誌記事や書籍を読むことを勧める。

「正しい知識を得れば、何も頭を抱えるような制度ではないと分かるはず。そもそも上場企業では、上場した時点できちんと内部統制は構築されているべきもの。そう考えれば、これまでやってきたことを第三者に分かるようにすればいいだけで、いまになって大騒ぎするようなことではない。義務化されている内容をきちんと理解し、法制化はミニマムスタンダードだと考えて取組むことだ」――広川氏は現場の心構えをこのように語ってくれた。


NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部
広川 敬祐氏

1983年公認会計士第2次試験合格。複数の大手外資系会計事務所で会計監査、株式公開コンサルティングなどを経験する。その後、SAPジャパンで連結会計システム導入プロジェクトに従事。2007年からNTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部に参画。



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