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<シリーズ>「日本版SOX法後」の業務はどう変わるのか(2)

「現場改善なくして内部統制なし」――弁護士の牧野二郎氏

2007年05月21日 00時00分更新

文● 江頭紀子

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内部統制とは「業務改善」――現場から「提案」していこう


 牧野氏が主張するように、内部統制を整備するためには、意図的な不正も故意でないミスも、「なぜそれが起こってしまったか」原因を究明し、それを克服できる仕組み作り、すなわち「業務改善」をすることが必要だ。仕事に満足できるように環境を整えるのも、結局のところ、業務改善がともなう。「内部統制の一番の課題は業務改善」(牧野氏)なのだ。

 では具体的にどのように業務改善を進めればいいのか。牧野氏は、まずはあらゆる業務の記録をつけることを勧める。

「記録がないと、業務改善をしてきちんとルールづくりをしても、それが本当に守られているか、点検ができない。点検ができないと、対応策が練れないので、また同じようなミスや不正が繰り返される。改善の方向性が見えなければ、失敗も含め、すべてを記録すること。これは一見ムダにみえるが、積み上げていけば、データとして蓄積される。すると、何が危険か何がムダか、さまざまなことが見えてくる」(牧野氏)

 そこで必要になるのが、現場の力だ。業務の記録は、そこで働く人たちしかつけられない。どこがマズイのか、危険が潜む部分も現場でしか分からない。不正やミスが発生しないシステムをつくりあげるには、現場の力がないと不可能だ。

 「現場を知らない人たちが業務改善をし、きれいなルールをつくっても、実際にはフィットしないので意味がない。現場の人たちが、『あの人はルールを守っていないが、それはシステム上、ここがおかしいからでは』『ここでミスを起こしやすいので、こう変えた方がいい』など提案していくことが重要で、現場の智恵を使わずして改善はありえない」と牧野氏は断言する。トップダウンではなく、ボトムアップの改善こそが、本物の改善であり、内部統制を整えることにつながるのだという。

 こうしたボトムアップの改善を支える環境も、徐々に整いつつある。「最近では内部統制専門の部署を設置したり、トップに直接意見できる制度を導入している会社もある。直属の上司に言えなければ、そうしたルートで経営側に提案するといい」(牧野氏)

 また、仮に明らかに違反行為だと思っても社内に意見することが難しいなら、行政機関などに通報する、いわゆる「内部告発」という手もある。日本版SOX法の実施に先駆けて2006年の4月1日からは、従業員が不正を告発しても解雇など不当な利益を被らないようにする「公益通報者保護法」が施行されている。

「業務改善は会社の利益アップのためだけではなく、自分が働きやすい環境をつくるためのもの。内部統制が求めらているいまをおいて会社が変わるチャンスはない。会社を変えるのは、現場の本気度だ。『いまさら言っても変わらない』と諦めないでほしい」。牧野氏は現場の人たちに力強くエールを送ってくれた。

弁護士 牧野二郎氏

東京弁護士会所属、牧野総合法律事務所弁護士法人代表。中央大学法学部卒業。1983年弁護士登録。インターネットでの市民の権利や、商取引での個人保護や認証問題などにネット創成期から関わる。情報セキュリティ問題や個人情報保護対策に積極的に取り組み、さらに企業の組織改善を視野に入れた内部統制対策を推進。著書に、「新会社法の核心― 日本型「内部統制」問題 ―」「個人情報保護はこう変わる~逆発想の情報セキュリティ」(ともに岩波書店)など多数。

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