月刊アスキー 2007年7月号掲載記事
サントリーや竹中工務店と同様、売上高が3兆円を超える巨大企業としては珍しく非上場だった出光興産だが、資金調達の多様化を目的に昨年秋、東証1部に上場して話題となった。
同社の主力事業は、もちろん石油関連だ。売り上げの4分の3はガソリン等の石油製品が占め、残りの大半も石油化学製品や石油開発事業で構成される。そんな出光が、実は次世代のディスプレイ技術「有機EL」に関して数多くの特許を保有しており、有機EL材料の開発・製造も行っていることをご存じだろうか。
有機ELとは、電圧を加えると自ら発光する有機材料(ベンゼン等の有機化合物)を画素に利用するディスプレイだ。有機ELは使用する有機材料の種類によって、様々な色で発光する。このため、赤緑青の色を発する有機EL材料を並べることで、カラー映像を表示できる。画素自体が発光するため、構造が簡単で、発光の効率がよく消費電力も少ない。
石油から精製・合成した材料による燃料以外の事業展開を研究していた出光は、'80年代の中ごろから同社中央研究所で有機ELの研究に着手。LEDと同様、有機ELも青色を発光させるのが難しかったが、同社は'97年、世界に先駆けて青色材料を1万時間発光させることに成功。現在では発光寿命を2万3000時間(※)にまで延ばしている。他の色の材料や周辺技術も研究・開発しており、青色材料に関する高い技術力と、発光材料以外の様々な有機ELに必要な材料も一社で供給できることが、出光の強みとなっている。
ソニーが有機ELテレビの年内発売を表明したことで、有機ELはいま、俄然注目を集めている。このソニーのテレビにも、出光の有機EL材料が使用されている。現在の出光の有機EL事業は、各種電子材料を扱う事業のなかのひとつに過ぎない。だが、同社はこの4月、静岡県・御前崎市に生産工場を建設して、有機EL材料の大量生産を開始するなど、いよいよ本腰を入れつつある。
電子材料部 三輪徳昭氏は「有機ELは今後、大型・小型のディスプレイだけでなく、(蛍光灯に替わる)照明用途も考えられ、将来的には非常に大きな市場になる」と見込んでいる。
※出光による、常に点灯した状態での評価。一般的に、PDPの発光寿命は6万時間程度、液晶のバックライトの寿命も同程度と言われる。それに比べると短いように感じられるが、実装の手法によってテレビとしての寿命は変わるため、単純な比較はできない。
出光興産株式会社
本社:東京都千代田区丸の内3-1-1
創業:1911年6月20日
代表者:代表取締役社長 天坊昭彦
資本金:1086億円(2006年10月末、東証1部上場)
従業員数:4447名(2006年3月31日現在)