月刊アスキー 2007年5月号掲載記事
名古屋大学大学院の長尾 確教授らは、マルチメディアコンテンツ配信・コミュニティ支援システム「Synvie」の開発を行っている。Synvieは、映像内のあるフレーム、あるいはフレーム内の任意の領域に、コメントとして文字情報を追加できる。この点では、話題の「ニコニコ動画」(3月上旬現在はクローズドな試験サービス中)に似ている。そもそも、ニコニコ動画は開発段階でSynvieを参考にしており、βサービス時のニコニコ動画の謝辞には、その旨が記載されていた。
だが、Synvieの背景にある思想は、エンターテイメントに特化したニコニコ動画とは大きく異なる。長尾教授らはこれまで、コンテンツへの「アノテーション」と、その応用技術を研究してきた。アノテーションとはコンテンツに対してメタデータ(関連するデータ)を付加することで、テキストにXMLタグを付ける作業などがこれに該当する。
アノテーションするということは、プログラムにも理解できる「意味」をコンテンツに与えるということだ。たとえばテキストコンテンツの場合、そのままではプログラムには理解できない。だが、語句や構造を説明するタグが付加されれば、文章がどんな構造で、語句にどのような意味があるのかがプログラムに判断できるようになる。そうなれば、高い精度でテキストを翻訳したり、要約・検索することが可能になる。これは映像コンテンツでも同様だ。
では、誰がアノテーションするのか。Synvieでは映像にコメントを付加でき、さらに映像をもとにブログを書くこともできる。この作業は、ユーザーは意識していないが、実は映像にアノテーションしているに等しい。Synvieは、「集合知」的に、誰もがアノテーションに参加できるフレームワークのひとつとして、具現化されたものなのだ。