月刊アスキー 2007年5月号掲載記事
神奈川県に本店のある横浜銀行は、マグロ卸売業の丸文水産加工(神奈川県三浦市)に対し、在庫の「冷凍マグロ」だけを担保に5億円の融資枠を設定した。丸文水産加工は、捕れたマグロを一括して買い取る「一船買い」取引が特徴。マグロ漁船の水揚げがあると一度に大量の買い付け代金が必要になるため、機動的な資金調達方法を希望していたという。
また、島根県に本店のある山陰合同銀行と政府系金融機関の商工組合中央金庫は、水産加工食品の製造販売などを手がける北陽冷蔵(鳥取県境港市)の「ベニズワイガニ」を担保に1億円の協調融資枠を設定した。同社は、カニの買い付けなどの運転資金として活用する。
冷凍マグロ、ベニズワイガニを担保にした融資手法は、流動資産担保融資(ABL:Asset Based Lending)と呼ばれるものだ。
ABLとは、「在庫を販売→売掛金(相手に商品を売り渡したが、まだ回収していないお金)→売掛金を回収→流動預金」という企業が収益を上げる一連の流れを担保にする融資手法。金融機関は融資先に対して、定期的に担保の精査をしたり、業績を把握し、融資先をモニタリングする。
米国では、ABLが中小企業への融資手法として導入されており、事業性融資のなかで約2割を占めているという。日本で米国同様にABLが活用された場合、約78兆円の融資規模になると考えられている。
日本では、中小企業に対する融資は、大企業に比べて貸し倒れリスクが高いというのが一般的な認識。そのため、中小企業への事業性融資は、大企業よりも高い金利や不動産担保、経営者の個人保証などに依存していた。在庫については、金融機関が差し押さえても換金するルートがなかったため、担保としては敬遠されていた。
しかし、バブル崩壊以降、不動産価値は低下し、土地を担保にした伝統的な融資に限界が見え始めてきた。過度な不動産への依存から脱却するために、ABLは普及しつつある。また、2005年に「動産譲渡登記制度」が施行され、動産の担保権の登記が可能になった。仮に、動産を譲渡する場合、第三者に対抗できるなど法制面でも後押しした。
商工中金組織金融部・審査第一部の中村廉平担当部長は、「ABLは、在庫そのものの価値ではなく、その先にある得意先との取引から生まれる価値、いわば、事業のライフサイクルを評価して融資するスキーム」と語る。