コンパクトデジタルカメラでも光学7~10倍クラスの望遠レンズを搭載した製品が増えてきた。キヤノン(株)の望遠機としては、やや大きめのボディーに光学10倍ズームレンズと光学式手ぶれ補正を搭載した“PowerShot S”シリーズがあるが、本機『PowerShot TX1』は同社としては新シリーズとなるコンパクトな望遠機だ(関連記事)。
フラットな面で構成された直方体に近いボディーは前面に沈胴式レンズ、側面に可変アングル液晶、背面に操作系が配置されている。いわゆる縦型ビデオカメラで一般的なスタイルだ。コンパクトさを追求したボディーは手の平にすっぽりと収まるほどで、同社によると“初代IXY DIGITALと同サイズを目標に設計した”とのこと。実際には幅奥行き高さがそれぞれ数mmほど大きいのだが、液晶パネルを閉じて横にして持ってみると確かにIXYシリーズらしい直方体ボディーという印象を受ける。
側面にある液晶パネルを開いて電源スイッチを押せば電源が入り、本体前面の金属シャッターが開いて沈胴式レンズが伸長する。光学10倍という高倍率レンズを搭載しているにもかかわらず、レンズの一部が側方にスライドするといった小型化のための機構を採用せずレンズが直線的に伸長/沈胴するのは、「高い光学精度を維持するため」という。さらに、通常はズームや沈胴をモーター1個とカムによって駆動するところを、本機では小さなモーターを複数用意してレンズごとに直接駆動する方式を採用し、高速な沈胴/伸張、ズーム動作とコンパクトなボディーを実現している。
右側面のモードダイヤル部は背面に延長された円筒形のふくらみとなり、上下に動かすズームレバーが配置されている。その下の動画撮影用ボタンと、上のスティック状カーソルが基本となる操作部だ。静止画用シャッターボタンは本体の上面に配置されている。一見すると使いにくそうな配置で、動画撮影同様に背面に配置するか前面のレンズ下にトリガー式で配置したほうが押しやすい気もするが、実際に使ってみると本機のシャッターボタン配置は非常に使いやすく、理にかなっていることが分かる。ボディーの上に人差し指を掛けて押すスタイルは普通のカメラのシャッターと同様なわけで、カメラをグリップする手の使い方(握り方)こそ若干異なるものの、一般的なカメラと比べて大きな違和感なく利用できるためだ。
スティックカーソルの上には“MENU/DISP”ボタンが並び、スティック自体を押し込むことで“FUNCメニュー”を呼び出せるようになっている。スイッチ類の配置こそやや異なるものの、各種ボタン/スイッチの役目そのものは一般的な“IXY DIGITAL/PowerShot”シリーズとほぼ同様だ。メニューシステムもほとんど変わりなく、撮影時の操作はカーソルの上下左右にアサインされたフラッシュやマクロ設定、FUNCボタンで呼び出すワンタッチメニューだけで済むなど、基本的に右手だけで操作できるようになっている。
撮影機能もIXY DIGITALを継承しており、撮影モードはオート(フルオート撮影)/マニュアル(露出補正やホワイトバランス指定ができるプログラムオート)/各種シーンプログラムの3つで、“PowerShot A”シリーズや“PowerShot S”シリーズのような、シャッター速度や絞りを個別に指定する“マニュアル露出”機能は持っていない。動画撮影機能はHDサイズ(1280×720ドット)、30fpsのAVI記録が可能なほか、AV出力にD端子を装備しておりHD動画の出力に対応している。コンパクトサイズながら、本機はUSB、ビデオ(RCA端子)に加えてD端子も備え、付属ケーブルを用いることでクレードル不要でテレビに接続できるのも、地味ではあるがうれしい点だ。
また、最近のIXY DIGITAL/PowerShotシリーズが装備している“ISOブースター”にも対応している。ISO感度を低く設定して薄暗いシーンでシャッターを半押しにし、手ぶれしやすいシャッター速度であることが分かると本体上面にある“イージーダイレクトボタン”のLEDが点滅する。ここでイージーダイレクトボタンを押せば手ぶれが抑えられる最小限の感度アップがなされる。普段は低いISO感度設定で撮る習慣がある人にはなかなか重宝する機能だ。さらに、このイージーダイレクトボタンにはホワイトバランスや露出補正などの設定機能を割り付けることもでき、瞬時に各機能を呼び出すことも可能だ。ISOブースターはシャッターを半押しにした状態でイージーダイレクトボタンを押すことでのみ作動するため、このボタンにほかの機能を設定していても併用できる。どの機能を割り当てるかは自由だが、本機には“PowerShot A/S”シリーズのような“露出補正用ボタン”がないため、露出補正を割り付けておくと便利だろう。