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坂村健が日本に提言 「あなたはイノベーションの意味を知るべき」(後編)

2007年03月21日 22時00分更新

文● 遠藤諭 写真●吉田 武

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 東大・坂村健教授が、『変われる国・日本へ/イノベート・ニッポン』(アスキー新書)を上梓した。前編に引き続き、坂村氏の日本への提言をお伝えしよう。

坂村さん写真

坂村 健(さかむら けん)

1951年東京都生まれ。東京大学大学院情報学環学際情報学府教授。工学博士。専攻はコンピュータ・アーキテクチャー(電脳建築学)。1984年からTRONプロジェクトのリーダーとして、まったく新しい概念によるコンピュータ体系を構築して世界の注目を集める。現在、TRONは世界でもっとも使われ、ユビキタスコンピューティング環境を実現する組込OSとなっている。




ライフスタイルも変えないといけない


『大変化時代のキーワード/ネット社会とビジネスを語る術語集』

『大変化時代のキーワード/ネット社会とビジネスを語る術語集』 著:2011年を考える会 価格:790円(税別)

── 『大変化時代のキーワード』という本を同じ発売日で出しました。ネットの普及やグローバル化など日本の置かれている環境もどんどん変化してきています。変わらないとやっていけない。

【坂村氏】 日本人は変わりたいと考えていると思いますよ。だからそれができないもどかしさみたいなものもあって、それが凄いストレスになっている。

 だけど日本というのは、“改善・改良の国”と言われている。製品の改善・改良をして世界一の製品を作るくらいなんだから、考え方とかやり方に関しても改善・改良していけるんじゃないかと思います。今、何が課題になっているかと言えば、問題点をきちっと抑えていないことなんですよ。


── この本を読んで1つ感じたのは、日本人がここ15年くらいで忘れてしまったのは、“競争”じゃないかと感じました。世界は競争という方法で活性化しているのに、それを忘れてしまったみたいなところがあると思います。

【坂村氏】 そこも変わらないといけないところでね。競争しなかったら、まず勝てない。ゆとりというのもいいですけど、世界はそれほど甘くない


── 「日本はアニメとマンガで食べていく」と言う人がいます。それもいいと思いますけど、日本のアニメやマンガが強くなったのは国が豊かだったからですよ。

 ものには順序があって、1人1人の生活はともかく、国に余裕がないとコンテンツを生み出すところまで手は回らない。いい意味での競争は絶対に必要なのに。

【坂村氏】 で、競争が残っている家電や自動車の分野では日本は強い。ただ、それはそれで、どのレベルで競争し、どのレベルはインフラとして標準化するかといった、さらに高度なレベルでの切り分けが下手。ネットワーク時代には、競争も単純でなくなっているから。

 あと、極端な人がいてね。競争というのは24時間働かないといけないとか、もの凄い話になる。話の一面だけ見てすぐ単純化することはよくない。よく西洋の人は1ヵ月もバケーションを取るとかいうけど、その1ヵ月以外は働いているんですよ。

 外国に行ってみてビックリしたのは、夕方まで7時、8時まで会議をやって、それからご飯を食べて12時まで仕事をやる。1時くらいまでお酒を飲んで、次の日は7時半から会議というようなスケジュールの人もいます。

 マネージャークラスだと、土曜も日曜もけっこう関係なかったりもしますが、その代わりプロジェクトが終わると、数ヵ月の休みを取る。日本人はこうしたメリハリを付けるのが下手ですよね。


── そういうのは、日本にはほとんどない。

「常にいいものをクリエーションしようとか、人と違うことをやろうとか、新しいことをやろうというのは、とても重要」

【坂村氏】 やっぱり、人間というのはいい仕事をしたり、人と違うことを達成したときというのは、全世界どこへ行っても尊敬されるんです。常にいいものをクリエーションしようとか、人と違うことをやろうとか、新しいことをやろうというのは、とても重要だと思うのですよ。

 仕事だけじゃなくて、誰かを招いて料理を食べさせるときとか、何か工夫してあったり、スタイルがちょっと変わっていたり、それだけでも感心する。凄いなっ、となる。そういう独創に対しては、もの凄くみんな好きなんですよ。

 人間というのは、そういう新しいものへの出会いの期待があるからずっと長く生きて行こうとか、人生って面白いなんてことになる。洋服でもそうだし、食べ物もそうだし、コンピュータなんか相当にそうだし、あらゆるものが、そこが実は面白いんですよね。

 そして、常に1人の人間だけが新しいことをやり続けるわけにはいかないから、そこに“お休み”ってのが出てくるわけですよ。人のやるのを見て喜ぶというのは、クリエーションという観点では“休んでいる”


── おーっ、それは凄い見方ですね。

【坂村氏】 美味しいものを何日がかりで作っても、食べるのは瞬間ですよね。ワインは、作るのはすごく大変だけど、飲むのは一瞬です。それを、素晴らしいといって楽しむ。他の人が新しいことや独創的なことをやるのを見るのは、うれしいし楽しいし、休まります。

 日本人は、ダラダラなのですよ。それがいけないんじゃないかと思います。ライフスタイルも変えないといけないですね。


── それなら、“ユビキタスID”で変えたらどうですか?

【坂村氏】 はっはっはっはっ(笑)

── どうですか(笑)


※ユビキタスID:モノや場所を認識するための基盤技術で、坂村教授が会長をつとめるT-Engineフォーラムに設けられたユビキタスIDセンターで、技術の確立や普及活動が行なわれている。

(次ページに続く)

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