アップルはエッチングを飛び出せるか!?
iPodもそうだが、アップルの製品のすごさは、それまでの慣習や業態、常識といったものに縛られず、ゼロからベストなカタチを探す姿勢にある。
スティーブ・ジョブズCEOは、初代Macを発表して間もない1985年に、米プレイボーイ誌のインタビューでこう語っている。
「人の心は電気化学じかけのコンピュータのようなもの。思考が心の中に足場となるパターンをつくりだす。事実、科学的なパターンをエッチングで刻み付けている。たいていの人は、そのパターンから抜け出せなくなる。針がレコードの溝をなぞるように、二度と抜け出せなくなるんだ。だが、ごくまれに、型にはまったものの見方や紋切り型の問題提起とはまったく違う形の溝を刻める奴がいる」
このエッチングの溝こそが、多くの平凡なメーカーの足を捕まえて進歩を足止めしている。
例えば1997年当時、「パソコンはコモディティー化しており、もはや『速い』か『安い』かのどっちかでなければ売れない」というのが世のマスコミや識者たちの意見だった。
コストを抑えるためにパーツを共通化し、無個性で安いパソコンが大量につくられた。今では名前(たいていは型番のみ)どころか、外観すら思い出すのも難しい製品が乱造されていた時代だ。
そこにアップルは、新しい時代のパソコン像を描き、iMacを投入した。多くの人は、これをデザイナーパソコンとしてしか見ていないが、iMacは人々にパソコンのデザインへの関心を引き起こすだけにとどまらず、レガシーフリーというパソコンアーキテクチャーの大転換を押し進める役割も担った。パソコンが80年代以降心のよりどころとしてきたフロッピーディスクを真っ先に切り捨てたのも、このiMacだった。
アップルの製品設計、いや「製品創造」ですごいのは、非常に「Holistic」 (全方位的)なアプローチを取っているということ。iMacは製品自体も凄かったが、それだけではなく製品のパッケージデザインや流通網のあり方、販売店の在庫の持ち方、製品サポートのあり方についても、いい悪いは別としてさまざまな影響を与えた。
いくら、製品だけがよくても、それだけでは後が見えている。「機能の追加」「スピードアップ」といった進化しかさせることができない。
だが、アップルは例えば第3世代のiPodになって、ヘッドフォンを抜くと自動的に再生が一時停止になる機能をひっそりと追加したりできる会社だ。
顧客との接点になるApple Storeから、そこにある修理サービス、ジーニアスバーといったものがすべてつながり顧客が抱えている問題や洞察といったものが、将来の製品の計画にもちゃんと反映できる体制まで整えている。