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ビスタの窓からのぞく、マイクロソフトの2007年

64bit化が進むために必要な条件は

2007年01月30日 00時00分更新

文● 野口岳郎(月刊アスキー)

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 ふた月ほど前、友人に「Vistaのメリットを一言で説明してくれよ」「Windows 3.1はGUI、Windows 95は、インターネット、Windows 98はUSB、Windows XPは安定性という、大きなメリットがあっただろう」「Vistaは何なんだ?」と詰め寄られた。



ちょっと口ごもるVista導入の意義


筆者近影。「Ultimate版では、フランス語版のGUIが使えるのではないか」と密かに期待している。

 実はWindows 2000ユーザーにとっては、Windows XPが出たときにも同じような乗り換えへの躊躇があった。コンシューマOSとしての使い勝手と安定性の両立は2000であらかた成し遂げられていて、2000ユーザーにとってのXPの魅力は、あの賑やかな“Luna GUI”だけだったからだ。2000のときの悩みは一部のハイエンドユーザーにとどまったが、今回は大多数のユーザーが乗り換えの意味を考えさせられるという点で、問題はより深刻と言える。

 ただ、乗り換えに“決定的な差別化”が必ずしも必要ということもない。まだ十分に走る車でも、最新の装備(衝突安全性、燃費など)のために買い換えたり、あるいは、まだ使える眼鏡でも、デザインの流行や、近視の度合いの変化に合わせて新調したりするのと同様だ。OSにしても、それなりに細部の使い勝手が上がり、画面も目新しく、新しいデバイスに対応してくれるなら「バージョンアップしてもいいんじゃないか」と個人的には思っている。

 そもそも、Windows XPが登場したのは5年前(2001年10月)と相当に古い。先日マシンを新調した際、XPをクリーンインストールしようとしたら、手元にあるのが、(SP2でもSP1でもない)初代XPだったため、“BigDrive”(137GB以上のHDD)に対応しておらず、困った。250GBの新品HDDが認識されないのである。手を尽くしてなんとか動かしているが、ワークアラウンドに貴重な時間を費やすくらいなら、今Vistaがあれば乗り換えたい、と思ったものである。



Vistaは32bitと64bitのギャップを埋める


 それではVistaに“決定的な何か”はないのだろうか?

 私は上の質問に対し、ちょっと悩んだ末、「64bitじゃない?」と答えた。

 いや、64bit化はすでにWindows XPで成し遂げられているけれども、Itanium用は個人が使うものではないし、x64 editionはOEM版しか入手できないマイナーな存在だ。だが、Vistaでは、Ultimateのパッケージ版には32bitと64bitの両バージョンが入ってくるし、それ以外のエディションにも64bit版は用意され、メディア代金と送料だけでDVDを入手できる。

 「64bit版ももちろんあります、欲しい人はいつでもどうぞ」という、すでに一部のLinuxでは当たり前になっている環境がようやく整うことになる。DSP版(優待アップグレードクーポン付きのWindows XP)からアップグレードするのでなければ、とりあえず32bit版を入れておいて、アプリやドライバの対応が確認できたところで64bit版に切り替えることもできそうだ。これはまさしく、32bitと64bitの間に広がる互換性というギャップを埋める仕組みと言えよう。

 ただ、問題は64bit化する必要性のほうだ。「互換性の問題はいつ解決するかわからない。しかも、乗り換えたからといってメリットがたいしてないのでは」と指摘されそうだ。

 確かに、自宅に入れているRC1の64bit Vistaでは、プリンタ^とサウンドカードのドライバーがない。今まで使ってきたDVDの書き込みソフトとDVDプレーヤーソフトもインストールできなかった。プリンターはドライバーがもうじき出るようだし、DVDの書き込みとDVD再生は別に動くソフトを見つけた。しかし、サウンドカードはドライバがいつ出るかがアナウンスされていない状況だ。確かにこういう苦労や心配は、32bitのVistaならあまりしなくてすむ。

 それでもできる限り早く64bitにしたいと思うのは、先日から利用している『Hauptwerk』という“パイプオルガンシミュレータ”における“64bit効果”の大きさだ。



すでに手が届く64bit環境だが……


 今更の話だが、64bit環境(x64環境)のメリットは、

  • アプリが2GBを超えるメモリーを扱える
  • ネイティブアプリは、同じソースから作られた32bit版アプリに比べ、より高速に動作する(場合がある)
という2点だ。

 「4GBでは?」と言われそうだが、32bitのWindowsは、アプリケーションが使える空間は手前の2GBに限られていて、64bitのWindowsにするとこの制約が外れる。つまり“2GBの壁を越えられる”のがポイントだ。(32bit Windowsで3GBまで扱わせる裏技もあるが)。

Hauptwerk

筆者愛用のパイプオルガンシミュレーター『Hauptwerk』

 後者はアプリによって効果が違うようだが、Hauptwerkに関して言えば、作者の精力的な64bit最適化も効を奏しているのだろう、本人のテストによればCore 2 Duoの場合で32bitコードより64bitコードが25%ほども性能が上がるそうだ(最大同自発音数が増える)。

 また、このソフトはメモリー上にパイプオルガンの音のサンプリングデータを置き、オルガンの構造に基づいた風の計算を行って最終的な音を作るため、オンメモリーにオルガンからサンプリングした音のデータを持つ必要がある。音データは2GBを超えるものも珍しくなく、大きなものは4GBに達する。こうした音色を使いたければ、2GBの壁を越えられる64bit Windowsがどうしても必要なのだ。

 「そんなものは特殊なソフトだ」と言えばそれまでだが、こんなソフトが登場してくる背景には、すでに64bit版のWindowsがあり、メモリー4GBのマシンくらい作って作れなくはない、という環境があるからだ。今後「このソフトを快適に使うのに必要だから64bit Windowsを入れる」というケースも続々と出てくるだろう。

 32bitアプリだけを使う前提でも、「フォトレタッチなど、重いアプリを複数起動して作業していたら、メモリーが足りなくなってHDDにスワップアウトが起こり、反応が極端に低下していらいらした」という経験は、かなりの方がお持ちではないだろうか。OSもアプリのサイズも大きくなる一方なので、いずれは2GBでも対応できなくなるだろう。



大規模なパーソナルデータベースが必要になる日


 もっと積極的にメモリーが求められるようになる可能性もある。過去、64bit化(4GBを超すメモリーの搭載)が、切実に求められたのは大規模なデータベースサーバーだった。データをディスクにスワップアウトしていては、性能が大幅にダウンするからだ。

 個人が使うパソコン上では、大規模なデータベースを使う機会はこれまであまりなかった。これが、64bit CPU(Athlon 64)登場後、3年半にもなるにもかかわらず、OSの64bit化が進まない理由だろう。しかし、最近ではMac OS Xの“Spotlight”や“Google Desktop Search”といった“PC内検索”に、まさしく“スポットライト”が当たるようになってきた。個人が格納するデータの量が飛躍的に増え、記憶による整理だけでは追いつかなくなりつつあるからだ。仰々しい名前はないが、Vistaも検索については機能・速度ともに強化されている。

 HDD内のデータにたいしてたまにファイル検索をする、というくらいの使い方なら、メモリーの必要量はそれほどではないかもしれない。しかし、今後ファイルシステムがデータベース的(WinFS的)に進化し、アプリのファイルアクセスが、よりデータベースアクセス的になれば、オンメモリーで必要なデータ量も増えていくのではないだろうか? あるいは、画像や動画に対して、単なるテキストのタグではなく、特徴を抽出して探せるようにしようとしたら、これもメモリーを使いはしないだろうか。高速で高機能な検索の必要性が、OSの64bit化を後押しするのではないだろうか。

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