このページの本文へ

新清士の「メタバース・プレゼンス」 第62回

動画生成AI、映像制作の“民主化”目指して研究進む

2024年05月06日 07時00分更新

文● 新清士 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

Sora「YouTube」学習疑惑

 一方で、大きな問題になっているのは、SoraがYouTubeなどを学習素材に使っているのかもしれないという疑いです。

 きっかけのひとつは、3月のウォール・ストリート・ジャーナルのOpen AIのミラ・ムラティCTOへのインタビューです。Soraのトレーニングのためにどのようなデータが使われたという質問に、「公開されているデータとライセンスされているデータを使用した」とムラティ氏は答えました。追加で「YouTubeは?」と問われ、「実際にはわかりません」と言葉を濁しました。これはスクレイピングによってデータを収集して学習に使っていると受け止められました。グーグルはYouTubeの規約でスクレイピングや他の商用利用を禁じているため、規約違反に該当することもあり、批判が起こりました。

ミラ・ムラティCTOが「(Soraの学習データは)YouTube?」と問われ、顔をしかめて沈黙した場面。XなどSNSで広く拡散された(OpenAI's Sora Made Me Crazy AI Videos—Then the CTO Answered (Most of) My Questions | WSJ より )

 4月、ブルームバーグがグーグルのニール・モハンCEOへのインタビューでこの件について突っ込みました。ニール・モハンCEOは「YouTubeが使われたかもしれないという報告を見たことがある」と述べたうえで、もし使っている場合には違反行為であるとしました。ただ、すぐに問題として追求するという姿勢は見せていません。一方で、グーグルは自社の規約上認められていることから、自社の動画AIへの学習に、YouTubeの動画を使っていることが明らかにされています。

 Open AIの立場はまだはっきりしていませんが、サービス開始に向けて、今後の焦点の一つとなってくるでしょう。

グーグルのニール・モハンCEOが、目線をそらし気味にSoraの件について返答する場面(YouTube Says Using Videos to Train OpenAI's Sora Breaks Rulesより)

 その一方で、アドビは4月16日、動画編集ソフト「Adobe Premier Pro」で動画生成AIを利用できるようにすると発表しました。RunwayやPikaといった動画生成AIの代表格のサービスとともに、Soraも利用可能になるとしています。

 原理的には、Adobe Premier Proから各サービスのAPIを叩いているだけなので、それほど難しい仕組みではないと考えられます。サービス開始時期は「Coming soon」となっているのでいつから開始なのかはわかりませんが、結構攻めたことをやってきたなという印象です。アドビもまた、動画生成AIを開発中であると見られており、有力な動画データを1分3ドルで買い上げているという報道もありました(ブルームバーグ)。そのなかでの生成AIへの早めの対応ですから、Premier Proの市場での優位性を維持したいということなのでしょう。

アドビのPremier Proのプロモーション動画の中で、動画を生成するパート。使用モデルがOpenAI(Sora)になっている(Generative AI in Premiere Pro powered by Adobe Firefly | Adobe Videoより)

 また、4月27日には、中国のAIカンファレンスで、ShengShu-AIと精華大学が開発した「Vidu」という新しいSoraフォロワーの技術が発表されました。テキスト入力で、16秒間の1080pの動画が作成できるというもので、動画はSoraを意識したようなものばかりです。まだ、トレイラー的な動画のみで、技術的な詳細はまだほとんど明らかにされていませんが、急激にキャッチアップが進んでいる様子が伺えます。

カテゴリートップへ

この連載の記事
ピックアップ