韓国科学技術院と著作権保護のためのツールを開発
── 発表後の反響はどう受け止めましたか。
チャン 反発は想定していましたが、「こういうチャレンジもあっていいんじゃないか」ということで応援の意見をいただくことが想像以上に多かったです。作家の方々からも応援のメッセージがあり、「反対の声ばかりではない」ということは感じました。
── まだ一般人には開放してませんが、たとえば新人漫画家が利用しようと思ったときはどうすればいいんでしょうか?
ジェームズ 個人の新人作家の場合は現実的にはまだ厳しいと思います。想定以上にコストと時間がかかるので、耐えうる状況でないと。KAIST(韓国科学技術院)と一緒に取り組んでいるプロジェクトもあり、技術的には新人作家も使えるところまではいくと思います。ただ、まだコスト高なので、ある程度落ち着いてからの方がいいかなと。
── KAISTの話が出ましたが、研究機関との協力の上でやっているプロジェクトなんですか?
ジェームズ KAISTはアジアでもAI研究で上位の大学です。弊社と色々と技術協力もしていますが、KAISTでは著作権を守るためのツールを開発しているんです。その名も「Validator(検証ツール)」という、絵柄を検証する技術です。たとえば新人さんが絵を持ってきた場合、それが他人の絵であることがあるかもしれない。その段階でValidatorにかけると「Aさんの絵が何パーセント、Bさんの絵が何パーセント」とわかるというものです。この技術は近い未来、アメリカも日本も欲しがるものだと思います。
── いま韓国政府は生成AIにどんなスタンスを取っているんでしょうか?
チャン 政府(文化体育観光部)は2023年12月、「生成AI著作権案内書」を発行しています。主力で推したい産業がウェブトゥーンと、著作権周辺領域。著作権に関する認識はほぼ日本と変わらないと思います。
作品は「季節をまたぎすぎない範囲」で披露予定
── 今後、生成AIをめぐる状況は落ち着いてくるでしょうか。
ジェームズ 個人的な意見ですが、私はインターネットブーム、モバイルブーム、ソーシャルブームをすべて経験していて、AIも似たことになると思います。大事なのは方向性です。作家と競合するのではなく、作家のために著作権を守れる、そういうモデルを作るべきだと考えていて、そういう方向で開発しているということは言えます。
── 手順を踏んでやっていくということですね。ウェブトゥーンが日本で読まれるようになっていますが、AIが定着するまでどれくらいかかるでしょう。
チャン 私もわからないというのが率直な意見ですが、ウェブトゥーンは既存の漫画に比べても負荷がかなり高い領域なので、今のまま制作をしていくとコストに耐えられる会社は多くありません。この問題を解決するうえで大きなものはAIです。いまは賛否両論あり、課題も多いですが、ゆくゆくは定着していくのではないかと思います。
── 読者の理解を得られるでしょうか。
チャン これまでは、(生成AIを使っていることを)隠していたから問題が起きていたのではないかと思います。今回、話を進めるにあたって思ったのですが、経験を積んでいる方は前向きにとらえている人が多く、逆に、そうでない方が取り組みについて反対の意見をいうケースが多いというような印象を受けました。アナログからデジタルに変わったときも、ベテランの方からは意外と「これはこれで新しい作り方なのでは」という話をしていましたが、それと同じような状況なのではないかと思います。
── この方式で作った漫画が読めるのはいつごろですか?
チャン 里中満智子先生と進めているものは、季節をまたぎすぎない範囲でお見せできればと思っています。
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