生成AIを使っていようがいまいが、著作権上はクリエイターとして区別をしていない
文化庁の議論に関連するトピックとして、AIと著作権に関連して、29日に東京大学主催の「AIの知財とガバナンスの論点」というセミナーで面白い議論がありました。生成AIで作成したデータの著作権をどの程度の複雑さであれば認めるかというものです。
慶應大学の奥邨弘司教授は、「どこまで人間が関われば著作性が発生するのか」を議論しました。中国の裁判事例では、プロンプトを入力した程度での「弱い関与」であっても著作権が認められる裁判事例が登場しています。しかし、アメリカでは、その程度では著作権が認められないと、行政機関である著作権局が判断しています。著作権性が認められるためにはかなり人間が関与する必要があると考えられています。
素案では、「創作的寄与」があった場合には認められることがまとめられています。著作権性が認められる要素として、指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、生成の試行回数、複数の生成物からの選択、といったものが上げられていますが、個別での判断になるとされています。奥邨教授は、中国とアメリカと日本を比較する中で、その中間地点のいずれかに素案が当たるのではないかと述べています。
興味深かったのが、東京大学の田村善之教授は、生成AIの登場で、著作権の保護範囲を拡大するべきではないと述べられた点です。「高品質の創作物の出現を、プロのクリエイターなどの少数の卓越した者に大きく依存した創作の文化から、アマのクリエイターなどの多数の者が高品質の創作物を作出しうる以上、従来以上に保護範囲を拡げて、創作者にインセンティブを付与する必要はないのではないか」と話しました。「少なくとも保護範囲は従前のままとしておいたほうが、AIを活用した新たな創作が促され、著作権法の究極の目的であるはずの文化の発展に資するのではないか」としました。現在は過渡期でもあり、将来的にはほとんどの創作者がAIを活用する時代の到来が見込まれるため、それを見越した法制度の設計の必要性も述べられていました。
パブコメに対する文化庁の返答で、非常に重要に感じた文言があります。「本考え方では、新たな著作物などのコンテンツを創作する活動を行うものとして、クリエイターの用語を用いています」という表現です。生成AIを利用していようがいまいが、著作権上はクリエイターとして区別をしていないという姿勢が感じ取れるところがあります。
一方で、審議会の最後には文化庁という行政が、法律の改正と言った具体的な事案がないにも関わらず、ここまで前面に出るケースはまれであることが説明されました。次年度の審議会が同じような形で継続される予定はないようです。今後は、文化庁がリードしていくというよりも、民間での議論に基本的にゆだねていくと姿勢が垣間見える発言もありました。
それは、パブコメ結果の中でも説明されていました。当事者間でのコミュニケーションの重要性が強調され、「生成AIとこれに関わる事業者、またクリエイターとの間で、新たなコンテンツの創作と文化の発展に向けた共創の関係が実現されていくことが望まれます」と述べています。
文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第7回)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_07/
共同シンポジウム「AIの知財とガバナンスの論点」 資料
https://ablp.j.u-tokyo.ac.jp/event.html
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