8年近くの知見、ソリューションをソラコムの二人が語り尽くす
見える化、監視の次は? ソラコムが考える製造業IoTのメリットと課題
提供: ソラコム
外に出せない、ラインがつながらない 少量多品種でデータがとれない
大谷:ここまでで可視化を前提とした製造業IoTをどうやって実現してきたかを見てきましたが、これまでにプロジェクトをこなす中で、現状の製造業IoTの課題ってどうお考えでしょうか?
松下:まず「データを外に出したくない」という意見は、製造業には長らくありますね。例えば単位あたりの生産データは、いわばその工場の実力値とも言えるので、外に出すことにセンシティブというのはよくわかりますが。
大谷:ここで言う「外」とはクラウドのことですか?
松下:イメージ的には「社外」ですかね。結果的にインターネットを通過させたくないとか、クラウドということかもしれませんけど。こういうセキュリティに関する懸念はどの製造業でもいまだに強いです。
あと、ソラコムへのご相談をまとめてみると、現場でのデータ活用が遅れている気がするんですよ。製造業の現場って、FAという概念自体が以前から浸透しているので、工場では高価な機械が動いていて、データも容易にとれそうな気がします。生産数や歩留まりなど簡単に可視化できそうなんですが、そういうわけでもない。そこらへん、元製造業の井出さん、どうですかね?
井出:製造業も大別すると、半導体や電子デバイスのように、ほぼ完全に自動化されたライン生産の量産工場と、フライスで金属を削ったあとに、次のラインで加工して、次のラインで研磨してみたいな手作業のつなぎ合わせみたいな準量産・小ロット生産の工場に分けられます。
前者のようなライン生産の量産工場は、時間あたりの生産量がビジネスそのものなので、可視化や自動化が前提だと思います。大量生産前提なので、コストもかけられます。問題なのは後者の方で、ある加工機にPLCが取り付けられていて、データが出力されても、他のラインや機械と連携してない。
松下:前職でアセンブリの工程は見てきましたが、今から思えば、わりと職人技なんですよね。数字化しにくいし、量産というほどではない小ロットでの生産でした。生産依頼をして、ようやく使えそうなデータが取れたと思ったら、そのロットの生産が終わってしまうんですよね(笑)。製造業が少量多品種化したために、結果的にデータ活用が難しくなっているという側面はあると思います。
井出:そういう工場が多いだろうし、すべてデジタルにしていくのはけっこう大変です。
松下:以前、画像認識を用いて不良品を検知するというソリューションのために、不良品の画像を学習させようと思ったら、日本の製造業って優秀なので、不良品がなかなか出ないんです。不良品の画像がようやく集まったと思ったら、製造自体が終わってしまった(笑)。少量多品種がIoTやAIでのデータ活用を難しくしている要因の1つかもしれません。
可視化とデータ活用はつながっていそうで、実はつながっていない
大谷:なるほど。比較的中小規模の製造業では、手作業がけっこう多いために、ラインが分断されており、少量多品種の弊害でデータが取れないというのが、IT化の課題ということですかね。
井出:製造業の現場を見える化する目的ってなんだっけ? と考えると、製造業では、単位時間あたりの生産性を上げるために、どこに無駄があるか知ることが目的なんですよね。要はどこがダブついている時間なのか? 作れるのに作ってないのは、無駄なコストになります。見える化の効果は、その無駄を見ているのか、見ていないのかで、成否が分かれる気がします。無駄を見つけて、次のアクションにつなげないと価値は生まれないと思います。
松下:もう少し掘り下げると、たとえば経営指標として利益が増えたとか、必要な人員が減ったまでいくと、価値になります。逆にここまでやりきらないと、価値までは到達しません。「可視化」と「データ活用」って、一見するとつながっているのですが、実はつながっていないというのは、われわれが製造業のお客さまから得た学びだと思います。
大谷:なぜデータがビジネス上の価値につながらないんでしょう。
松下:見える化やデータによって、どのようなアクションをとるべきか。これを考えるのは、今のところ人間なんです。しかも、データサイエンティストのような専門家が見ないと、経営や利益にインパクトをもたらす具体的な行動に至らないんです。
本来ならば、このデータを見れば誰しもがわかるみたいなところまで行けたらいいのですが、データの解釈という部分までまだ足りてないのが実情です。たとえば、振動センサーのデータを見て、機械が大きく振動していることは見える化でわかっても、どうすればいいかのアクションにつながりにくい。これが見える化とデータ活用がつながっていない要因だと思っています。
デジタル化のコストが大きい だからこそスモールスタートしやすく
大谷:たとえば、農業IoTの場合、温度や湿度を計測することにより、なんらかのアクションにつなげています。過去に取材したSORACOM UGでのすいか栽培の事例は、ビニールトンネルの開閉や水やりの時期をIoTで見極めるようになったという話でした(関連記事:すいか栽培の温度管理や土壌測定にSORACOMを使ってみたら?)。製造業でアクションにつながりにくいのはなぜでしょうか?
松下:製造業では「とりうるアクションの選択肢が多すぎる」のかもしれません。農業の場合、収穫するとか、水をやるとか、アクションがあまり多くない。だから、データから導き出されるアクションがある程度決まってくるような気がします。
井出:製造業って、ガントチャートで管理するように、工程が複雑に入り組んでいます。だから、ボトルネックが生じている工程でない限り、一工程を最適化しても、全体のパフォーマンスにはあまり影響がない。製造業のカイゼンで一番難しいのはここです。個別最適を追求しても、全体最適につながらない。トータルのリードタイムを短くする施策をいかに組んでいくかが重要なんです。
大谷:そうなると、IoTだけで解消できる問題ではないということですね。理想的には、製造業の工程管理をトータルでコンサルティングして、その中でデータを収集したり、データを活かす方法を考える立場のパートナーが必要なのかもしれません。
井出:あとは、工程を最適化するために、ラインを変えられる権限を持った担当がお客さまの中にきちんといることですね。
大谷:なかなか一筋縄ではいかないんですね。
松下:現状、デジタル化のためのコストの方が大きくて、生産で得られる利益でまかなえない。つまり、投資額に対して、得られるメリットがまだ大きくないというのが、製造業IoTの根本的な課題です。
現状、FA機器をデジタル化するにも、追加の投資が不可欠です。しかし、コストがかかるからデジタル化をあきらめるというのは避けたい。そこに対してのわれわれの方法論が、今あるPLCを流用できるとか、既存の設備に後付けできるとか、とにかくコストを極力抑えつつ、できることをなるべく増やしていこうというものです。
大谷:スモールスタートしやすくするということですね。
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