ワイン醸造家・須合美智子さん/信頼する仲間たちと働く!パート従業員から45歳で挑戦

文●児玉澄子

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 人生100年時代といわれる昨今、自分らしい働き方や暮らし方を模索する女性たちが増えている。そんな女性たちに役立つ情報を発信するムック『brand new ME! ブランニューミー 40代・50代から選ぶ新しい生き方BOOK vol.1』(KADOKAWA刊)から抜粋してお届けするインタビューシリーズ。今回は、都内の人気ワイナリー「葡蔵人~BookRoad~」で醸造を担当する須合美智子さんのライフシフト体験談をお聞きした。

飲食店のパート従業員から45歳でワイン醸造家に転身した須合美智子さん。山梨県のワイナリーで修行を経て、2017年に都市型ワイナリー「葡蔵人~BookRoad~」をオープンした。

勢いのまま飛び込んだ知識ゼロからのワイン造り

 下町風情の漂う東京・御徒町に佇む小さなワイナリー「葡蔵人~BookRoad~」。優れた品質のワインを生み出すとして、日本ワイナリーアワードの三つ星を2年連続で獲得した注目のワイナリーだ。2017年にオープンしたこのワイナリーで、ワイン造りの責任者を務めるのが須合さん。それ以前まで「葡蔵人」の母体である会社が運営する飲食店で、パートスタッフとして働いていた須合さんが醸造家に転身したのは45歳のときだった。

「会社がワイナリー事業を立ち上げるにあたって、醸造の担当者を募っていたんです。ワインの知識はまったくなかったのですが、ものづくりに興味があったのと、何より『この会社のみんなともっと深く働きたい』という思いから、あまり深く考えずに立候補してしまいました(笑)」

 ゼロからワイン醸造を学ぶために約1年間、東京から山梨のワイナリーに車で通った。覚えるべきことは多く、メモを取りながらビデオを回し、さらに手作業もするというマルチタスクの毎日だった。

「ワイン造りは力仕事も多いので、1日が終わるとヘトヘトでしたね。とはいえ、会社を代表して来ている以上は音を上げるわけにはいきません。学びの成果を持ち帰り、葡蔵人を予定日までにオープンさせるという責任感だけで、なんとか気力と体力を保っていた記憶があります」

時間は有限だから心から信頼する人たちと働きたい

 怒涛の修業の日々を経て、葡蔵人をオープンして6年。「食事と一緒に気軽にワインを楽しんでほしい」という思いから、ラベルにおすすめの食材を描いた葡蔵人のワインは今では全国にファンが広がっている。

「小さなワイナリーですので、醸造担当者は私1人です。ワイン酵母は生き物なので、特に醸造シーズンには休みがありません。毎日いろんなことが起こるので1年があっという間なんです。ただ50歳を過ぎた頃から『時間は有限』ということも考えるようになりました」

 18歳で信用金庫に就職し、23歳で結婚・退職。その後は義実家の家業の飲食店を手伝いながら、2人の子どもにも恵まれた。「ごく普通の主婦でした」と須合さんは振り返る。

「自分がワインを造っているなんて、若い頃には想像したこともなかったですね。もともと(葡蔵人の母体が運営する飲食店に)パートに出たのは、お客さんとしてお店に足を運ぶうちにスタッフの生き生きとした雰囲気や新しいことに挑戦し続ける社風に惹かれたからでした。自分が心から『好きだ』と思った人たちと働けるのは、年齢を重ねたからこその特権だと思うんです。18歳で就職したときは、職場にどんな人たちがいるかなんてわからなかったですから」

 もしも会社がチーズ造り担当者を募っていたら?  それでも手を挙げていただろうと須合さんは微笑む。もちろん今は「飲む人を笑顔にするワイン造り」に邁進している。

「ただやはり時間は有限。葡蔵人という場所を大切に思えば思うほど、醸造の担当者もいつかは次の世代に受け渡さなければいけないと少しずつ意識し始めているところなんです」

 そう語る須合さん、数年後にはまた新たな転身をしているかもしれない。

「実は昨年から八王子の畑でブドウ栽培を始めまして、5年後にはオール葡蔵人メイドのワインが完成する予定です。醸造を引退したらそちらを手伝いたいなと思っているんです。もちろん畑仕事も大変ですが、ブドウ農家さんたちのペースってどこかゆったりしているんですよ。朝ご飯の前に畑に出て、10時にお茶休憩。暑い夏の盛りはお昼までに仕事を終えるという高齢の方もたくさんいて。東京では考えられない働き方ですよね。今は別のスタッフが畑を担当していますが、この会社のメンバーとならどこでも楽しく働けるんじゃないかなと感じています」

「葡蔵人~BookRoad~」ではワインの購入や立ち飲みのほか、タップから生詰めしたフレッシュなスパークリングを持ち帰ることもできる。毎週土日には予約制でワイナリー見学を開催。JR山手線・御徒町駅から徒歩5分。水曜定休。

Profile:須合美智子

すごう・みちこ/ワイン醸造家。1970年、岩手県生まれ。高校卒業後に信用金庫に就職。94年に結婚・退職し、家業の中華料理店で接客を担当。同店の閉店に伴い、(有)K'sプロジェクトが運営する飲食店でパートを始める。2016年、K'sプロジェクトがワイン事業を開始するにあたり醸造家に立候補し、同社の正社員に。山梨県のワイナリーで約1年間の修行を経て、2017年11月に都市型ワイナリー「葡蔵人~BookRoad~」をオープン。

「葡蔵人~BookRoad~」ホームページ https://www.bookroad.tokyo/

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