HEDTがゲームに弱い時代は終わり……?
ThreadripperのようなCPUでゲームというのは、あまり現実的ではない。3D V-Cacheを載せたRyzen 70003DXが最強なのは、これまでの検証から明らかだからだ。だがゲームのパフォーマンスも見たいという方のために、いくつかゲームを絞って結果をお見せしよう。
ここでの検証は全て解像度フルHD、画質は最低設定とし、GPU側にボトルネックが極力出ないようにした。また、ベンチマーク中の実フレームレートは「CapFrameX」で計測するとともに、GPU/CPU/システム全体の消費電力(平均値)を「Powenetics v2」を通じて取得するとともに、10Wあたりフレームレート(=ワットパフォーマンス)も比較する。
まずは「Overwatch 2」で試そう。画質は“低”とし、マップ“Eichenwalde”におけるbotマッチを観戦した際のフレームレートを計測した。
Zen 2世代のThreadripper 3000シリーズに比べると、今回のThreadripper 7000シリーズはゲーム性能も格段に向上しており、特にThreadripper 7980Xは3990Xに対して平均fpsにおいて倍増させているどころか、Core i9-14900Kと肩を並べてしまった。
無論この上には3D V-Cacheを搭載した「Ryzen 7 7800X3D」が控えているためゲーミング最強と言う訳にはいかないが、ことOverwatch 2に関してThreadripper 7000シリーズは劇的なパフォーマンスアップを果たしている。ただコア数で考えると、物理コア16基のRyzen 9 7950Xに物理コア32基のThreadripper 7970Xが負けているという現実もある。
上の2つのグラフはOverwatch 2のベンチマーク中に観測された各部の消費電力と、10Wあたりのフレームレートとなる。TDP 350WのThreadripper 7980Xといえど、CPUそのものの消費電力はそれほど高くない。しかし、システム全体で考えると新しいThreadripper、特に7980Xの消費電力が抜きん出て高い。これまで我々はCore i9-14900Kの消費電力で驚いていたが、HEDTではさらにその上を行く存在があるということだ。
ただワットパフォーマンスで見ると、フレームレートが今ひとつ伸びきらなかったThreadripper 7970Xですら、実はRyzen 9 7950XやCore i9-14900Kと大差ない結果になっている点に注目したい。そして、旧世代のThreadripperから見ると明らかに消費電力は増えてしまったが、ことこのゲームにおいては、増えたなりにパフォーマンスが向上していることを示している。
続いては「Cyberpunk 2077」だ。画質は“低”とし、FSR 2は明示的に無効に設定。ゲーム内ベンチマーク再生中のフレームレートを計測した。
Cyberpunk 2077のベンチマークは特にインテル製CPUとの相性が良いのか、Core i9-14900Kがトップ。Ryzen 9 7950Xはそこから平均30fps程度下、Threadripperはさらにそこから10fps程度下がったところに位置取った。
Threadripper 7970Xと7980Xの平均fpsが大して変わっていない点から、Cyberpunk 2077といえどコア数多すぎて扱いきれない(そもそもプロセッサーグループの壁がある)ことを示している。ただOverwatch 2同様、Threadripper 3000シリーズから見ると30%程度のフレームレート向上を果たしているので、その点はアーキテクチャーの勝利と言ってよいだろう。
Overwatch 2ではThreadripper 7980Xの消費電力(システム全体)の大きさに驚いたが、Cyberpunk 2077ではCore i9-14900Kの消費電力が激増。CPU単体で見てもThreadripper 7980Xを越える電力を消費している。ただその分Core i9-14900Kはフレームレートを出せているので、ワットパフォーマンス的には劣悪という訳でなく、システム全体からすると第2位。CPUのワットパフォーマンスではRyzen 9 7950Xがダントツのトップに立った。
最後に試すゲームは「The Riftbreaker」だ。画質は最低設定とし、無数のモンスターに襲撃される“CPU Benchmark”再生中におけるフレームレートを検証した。
平均フレームレートでThreadripperが現行メインストリームCPUには遠く及ばない。ただThreadripper 3000シリーズに対しては、アーキテクチャーの進化により大幅なフレームレート向上を果たしている。Threadripper 7970Xの方が7980Xよりも平均・最低フレームレートの両方において優れているのが興味深い。
電力という点で見ると、ここでもCore i9-14900KがThreadripper 7980Xの電力消費(システム全体)を越えているが、CPUだけで見ると7980Xの方が多い点が興味深い。
動作するCCDが8基あるThreadripper 7970XではCCD4基+4基で2つのプロセッサーグループが構成されるが、ゲームとOSその他の処理は片方のプロセッサーグループだけで十分である。ほとんど負荷のかからないCCD(2つめのプロセッサーグループ)を余分に持つことが、消費電力的にかなりの負債になっていると考えられる。
アイドル時の消費電力が非常に大きい
では最後に消費電力系の検証といこう。筆者はここしばらくHandBrakeによるエンコード時の消費電力を見てきたが、Threadripperの場合コアの利用率が低く、かつプロセッサーグループの壁があるためこの手法は適切ではない。そこで「CINEBENCH 2024」のマルチスレッドテストを実施した際の消費電力をPowenetics v2を利用して取得した。
マルチスレッドテストを実行し、約3分間の消費電力(平均値・99パーセンタイル点・最大値)を比較する。3分とした理由は、Core i9-14900Kは短期的にはブーストが効く分消費電力が見かけ上大きくなるが、長時間回すほど消費電力の平均値が低くなるためである。また、アイドル時も3分間の計測(こちらは平均値のみ)とした。
Core i9-14900Kの消費が最大550W近くまで上昇しているが、それと肩を並べるのがThreadripper 7970X(HEDT向けCPUと肩を並べるメインストリームCPU……)。Threadripper 7980Xはそこからさらに消費電力が上積みされている。
ただし、平均値や99パーセンタイル点を見ると、Threadripper 7970Xと7980Xの間に大きな差はない。つまりCPU側のパワー制限が強く効いていることを示している。マルチスレッドが効く状況でThreadripper 7980Xの結果がコア数対し伸び悩むのはこれが理由だ。
だがそれ以上に驚くのはアイドル時の消費電力の大きさだ。Threadripper 7980Xともなると250W近くとなり、Ryzen 9 7950Xなどのアイドル時消費電力の2倍以上となる。HEDT向けマザーを使い、CCD数の多いCPUを使っているのだから当然といえる。今回CPUとGPUの両方を全力で回すようなテストはしなかったが、もし実施していたら1000Wの電源ユニットでは足りなかった(あるいはギリギリか)可能性がある。
まとめ
以上でThreadripper 7000シリーズの検証は終了だ。Zen 2世代のThreadripperからすると大幅なパフォーマンス向上を果たしており、マルチスレッド性能が重要な処理では比類無き強さを発揮することは間違いない。
ただその一方で、コア数をそれほど必要としない処理では、メインストリームCPUに負けるという側面もある。これはHEDT向けCPUの宿命ではあるが、Zen 4採用によってパフォーマンスが上がり、以前のThreadripperより性能のハンデが軽減されたと言うべきだろう。
しかし、新ThreadripperはZen 4化により消費電力の大きいDDR5メモリーを採用したため、システム全体の消費電力は大幅に増大してしまった。少々電気代が増えても、マルチスレッド性能向上で貴重な時間を買いたい、という人のためのCPUといえるだろう。
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