エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のアート散歩 第10回

北陸工芸とアートが融合する『GO FOR KOGEI2023』が富山市・富岩運河にやってきたぞ

文●玉置泰紀(一般社団法人メタ観光推進機構理事)

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 「北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI 2023 物質的想像力と物語の縁起−マテリアル、データ、ファンタジー」が2023年9月15日、富山県・富山市を舞台に始まった。「GO FOR KOGEI」は、富山、石川、福井の北陸3県を舞台に、工芸の魅力を今日的視点から発信するプラットホームとして2020年に始まった祭典。今回は、新たに、富山市の中心部から富山湾に続く富岩運河沿いの3エリアを会場に設定した。参加作家は26人。「工芸、現代アート、アール・ブリュットの運命的出会い」をテーマに、過去の開催よりさらにアートに踏み込み、来場者も巻き込みながら、アーティストと共に開催される富山の土地の新たな魅力を見出すサイトスペシフィックな視点も深めつつ、工芸を捉えなおす新たな機会を提案している。

 筆者は2015年に、文化庁メディア芸術祭・富山展「トヤマウォーカー」に関わり、総曲輪にある「グランドプラザ」でトークショーを行ったりしたものだが、それ以来、富山は、足繁く通う大好きな街である。会場は、富岩運河環水公園エリア、中島閘門エリア、岩瀬エリアの3エリアで、富岩運河で富山湾から環水公園までつながっていて、運河クルーズ「富岩水上ライン」で会場を水上移動できる。県の旅客船新艇「kansui」と「fugan」と「sora」、市の電気ボート「もみじ」の4隻があり、中島便(環水公園〜中島閘門)と岩瀬便(環水公園〜岩瀬)の定期運航が行われている。また、並行して「富山地方鉄道富山港線(旧富山ライトレール)」が走っており、「富山駅」から終点「岩瀬浜」の約8キロの区間を運行していて(所要時間約25分)、富山名物の路面電車でも移動ができる。

 9月14日のプレスツアーに参加したが、富岩運河環水公園の富岩水上ライン船着き場に集合し、船で重要文化財の中島閘門(なかじまこうもん)に移動し、このエリアを堪能、そこからはバスで岩瀬エリアに行き、更に富岩運河環水公園エリアに戻って、樂翠亭美術館、富山県美術館を巡った。変化に富んだ3エリアを水陸で移動し、風情ある空間を歩くのも楽しかった。

久保寛子『やまいぬ』(2023年。鉄、プラスチックメッシュ)。環水公園

オードリー・ガンビエ『Soft Vase』(2023年。中綿、メッシュ、布、フェルト、マイラー、メタリック生地、ビニール、ルべット)。富山県美術館。筆者(左)とガンビエ氏

運河クルーズ「富岩水上ライン」の「fugan」で、中島閘門へ

「物質的想像力」は水と夢を通して、工芸やアート、歴史、交通、酒など多層的な世界を見せてくれる

 2020年にスタートした「GO FOR KOGEI」の総合監修は、秋元雄史氏(東京藝術大学名誉教授)が務める。過去の2回では、延べ3万人以上が来場した。過去の2回では、アートやデザイン領域との接点を探ってきたが、今年は工芸の枠組みも取っ払って、アート的な展開と並べ、“場外乱闘的な”キュレーションに挑んだ、と言う。「ここまでの取り組みは今後できないかもしれない。いったん、工芸を溶解させて今日の目で見てやろう」という試みだ。

 タイトルの「物質的想像力」は、フランスの科学哲学者、ガストン・バシュラールが使った用語。物質をきっかけにする想像力について、バシュラールは論じている。運河沿いで展開されることにより、バシュラールの著書『水と夢:物質的想像力試論』のテーマでもある「水」もまた、今回の様々な作品に響き渡っている。

クルーズ船の中で解説をする秋元氏

 今回の大きな骨格になっている「富岩運河(ふがんうんが)」は、東岩瀬港から富山駅北まで約5kmの運河で、富山市と当時の東岩瀬町の両市町をつなぐことにより富岩運河と名付けられ、昭和5年(1930年)から建設を行い、昭和10年(1935年)に完成した。

 富岩運河の建設により、東岩瀬港と富山駅北が水路でつながり、舟による資材の運搬が非常に便利となり、運河沿岸は一大工業地帯を形成した。しかし、昭和30年代から高度経済成長期になると、トラック輸送への交通手段の変化や周辺の宅地化により環境問題が厳しくなり、工場の規模縮小や業種転換・撤退などが進み、運河本来の利用がされなくなった。昭和50年代には、運河を埋め立て、道路をつくる計画も作成されるなど、富岩運河は消滅の危機を迎えた。

 消滅の危機に瀕した富岩運河だったが、都市部の貴重な水面として見直され、昭和59年に、富岩運河は遺されることとなった。昭和60年以降には、都市の水辺空間として再生を目指し、富岩運河環水公園の整備や「ポートルネッサンス21計画」による遊歩道などの環境整備、中島閘門や牛島閘門の復元工事が行われ、富岩運河は、親水空間としてよみがえったのだ。

 こうした歴史を滲ませたロケーションを舞台に、際立った世界観を持つ26人のアーティストが、それぞれの場所と触れ合って作り上げた「重なり」「響きあい」「衝突」は類まれな富山の魅力をスパークさせている。以下は、各エリアの誌的で刺激的な想像の世界の様子を伝えていく。

【環水公園エリア】

環水公園エリアの会場
・富岩運河環水公園(富山市湊入船町1)
・樂翠亭美術館(富山市奥田新町2-27)チケット販売会場
・富山県美術館(富山市木場町3-20)
※樂翠亭美術館は水曜休、富山県美術館は水曜

 環水公園エリアは、富山市の中心部に位置し、富山駅から歩いても20分かからずに着く。遠くの立山連峰と、富岩運河のハーモニーが得難い。会場は樂翠亭美術館、富岩運河環水公園、富山県美術館の3ヵ所。樂翠亭美術館では土を素材とした表現を、環水公園では大型の立体作品による屋外インスタレーションを、富山県美術館では身につけることができるソフトスカルプチャーの作品を紹介する。環水公園では遊覧船に乗船することができ、中島閘門エリア、岩瀬エリアへ向けて運河を辿る展覧会のスタート地点となる。

・富岩(ふがん)運河環水公園

久保寛子『やまいぬ』(2023年。鉄、プラスチックメッシュ)

 久保氏はアメリカで彫刻を学び、一神教から生まれる芸術とは異なる、先史芸術や民族芸術、文化人類学の学説を手掛かりに、農耕や偶像への関心をテーマに、身近な素材を用いて作品制作を行っている。手や足のパーツを作品化することが多いが、今回は、やまいぬ2頭を水面に浮かべた。世界で一番美しいスターバックスとして有名になった店舗のすぐ前で、クルーズ船の航路からも見える。

●プロフィール 1987年広島県生まれ。2013年にテキサス・クリスチャン大学美術修士課程を修了。近年の主な展覧会に「高松コンテンポラリーアート・アニュアルvol.10 ここに境界線はない。/?」(2022年 高松市美術館、香川県)、「浪漫台三線藝術季」(2023年 台湾)などがある。

・樂翠亭(らくすいてい)美術館

 1950年代に建てられた日本建築をリノベーションして、「樂翠亭」を美術館として一般公開したのは、2011年5月。「樂翠(らくすい)」とは緑を楽しむという意味である。西本願寺の光照門主が以前訪れた際、庭園の東屋を樂翠亭と名付けたことを今に受け継いでいる。約900坪の回遊式日本庭園を持つ。

野村由香『Repetitive Activity in Toyama City』(2023年。富山市内の工事現場で出た残土、神通川の水、藁、土嚢袋、土管、鉄、台車、ラッシングベルト、油圧ジャッキ、鍬、手袋、トロ舟、テミ、木材)

 野村氏は土を素材に、生物にとって不可欠な営みである摂取や排泄の循環に関心を寄せて作品を制作してきた。押し出された土と押し出す行為、そのためのオリジナルの装置と道具。そうした状況全てが野村氏の作品と言える。今回の展覧会では会場周辺のリサーチに基づき、富山県の土木工事の際に出た残土を用いて、樂翠亭美術館の庭園で作品制作と展示を行っている。樂翠亭美術館の周辺には、かつて神通川が流れていたが、明治期の治水工事の際に埋め立てられた歴史がある。土地と人の営みの関係性をテーマに活動する野村の作品は、物質の循環や土地の歴史についての想像を掻き立てる。

●プロフィール 1994年岐阜県生まれ。2017年に金沢美術工芸大学美術工芸学部美術科彫刻専攻を卒業。2019年に京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了。

近藤高弘『Reduction −波動−』(2017年)など7点

 近藤氏は25歳で陶芸の世界に入り、陶器の表面に雫がこぼれ落ちる様子を銀を用いて表現した「銀滴彩」や、イギリス留学でガラスを学び、磁器とガラスを組み合わせた作品等を発表してきた。2011年に東日本大震災を経て、2012年から自身をかたどった「坐像」をつくり始める。「坐像」は、亡くなった方への鎮魂であり、現世に生きている人、時代を映す「現世身」でもある。近年は陶芸の原点である器に立ち返り、白磁の大壺の制作を行なっている。近藤にとって坐像も白磁も同じ「-空和(うつわ)-」(近藤氏の造語)だと言う。内側と外側から成り立ち、人体も器も水を蓄えることができ、両者は偶然の要素を受け入れる性質から成り立っていると言う。

●プロフィール 1958年京都府生まれ。1986年に京都市工業試験場を修了。2003年にエジンバラ・カレッジ・オブ・アート修士課程を修了。

写真の手前から『Reduction -波動-』(2017年。磁器錬込み、銀滴彩)、『白磁大壷』(2018年。磁器)、『Reduction/ リダクション』(2014年。楽土、天河護摩野焼き)、『白磁大壷』(2019年。磁器)、『Reduction/ リダクション』(2014年。磁器、銀滴彩)

『白磁大壷』(2020年。磁器)、『Redution/リダクション』(2014年。伊賀土、穴窯《天河火間》、自然灰釉)

金理有(キム・リヨオ)

 金氏は陶芸家で、アーティストとしても活動し、彫刻と茶碗の両方を制作する。2010年代に現代アートや漫画等に触発されて登場した一連の陶芸家の中の一人で、ファインアートとサブカル、工芸、漫画といった美術的なヒエラルキーやジャンルの枠を無視した美意識によって制作に取り組む。縄文文様の土俗性とバイクエンジンに刻まれる冷却フィンの現代性、それに日本のアニメに登場する戦闘用の巨大ロボットの空想性といったものが混合して、金氏のつくり出す悪魔的な一つ目のオブジェが生まれる。作品の中身は空洞になっていて、この暗闇こそが核心だという。今回は、初期から制作を続ける金の代表的なシリーズの一つ目のオブジェが、光と闇をつなぐように蔵の中に出現する。

●プロフィール 1980年大阪府生まれ。2006年に大阪芸術大学大学院芸術制作研究科修士課程を修了。兵庫陶芸美術館、浄土宗総本山増上寺宝物展示室等に作品が収蔵されている。

『青紫彩線刻閃冠梟入道』(2022年。陶)

金さんと作品。『煌金彩虚視線刻入道』(2023年。陶)

川井雄仁

 川井氏の作品は、陶製で形態が壺型ということもあり伝統的な焼物を踏襲しているように見えるが、同時に形態の自由さや表現に力点を置いていることから彫刻とも言え、アートと工芸の両義性が魅力である。作品はカラフルで、プラスチック製のおもちゃや人工的に着色されたアイスクリームや菓子を連想させる。焼物を学んだものの、川井氏のバックグラウンドは、現代アートであり、コンセプトを重視するタイプの作家である。今回は、作品の背景から作品に至るまでの工程を工場見学として捉え、懐中電灯を持って暗い部屋に入って川井氏の頭の中をのぞくようなインスタレーション等、川井氏の制作姿勢や制作プロセスを追体験できる展示構成を行う。今回の展示は美術館の2階を使って、様々な部屋を作り、一種のテーマパークとして築きあげている。 そこにはかつての流行りもの、アイドルなども入り混じる。

●プロフィール 1984年茨城県生まれ。2007年にチェルシー・カレッジ・オブ・アーツ(UAL)BA(Hons)ファインアート科を卒業。2018年に茨城県立笠間陶芸大学校研究科を卒業。近年の主な展覧会に「The Fourth Dimensionうつわの未来へ」(2022年 益子陶芸美術館、栃木県)、個展「粒の数だけ 抱きしめて」(2022年 KOTARO NUKAGA、東京都)、「FOOLISH FIRE」(2023年 Newchild Gallery、ベルギー)などがある。

川井さん

『Heart on Wave』(2023年。セラミック)。SWEET 39 BLUESと名付けられた部屋は明かりが消され懐中電灯で見て歩く

『王様のブランチ』(2022年。セラミック)、『The Fourth Sex』(2022年。セラミック)。楽屋と題された部屋にはルベッドがある

・富山県美術館

オードリー・ガンビエ『Soft Vase』(2023年。中綿、メッシュ、布、フェルト、マイラー、メタリック生地、ビニール、ルペット)

 オードリー・ガンビエ氏は、クラシックバレエを学び、演出やパフォーマンスの経験から、ユーモアを交えながら作品と観客の関係を問う作品をつくっている。「soft vase」(柔らかい花瓶)は、桑田卓郎の陶器に触発された、器の形態の中に入り込めるテキスタイル作品である。造形的なインスピレーションは、桑田の特徴である、鮮やかな色彩や見たことのない質感、そしてユーモラスでどのように創造されたかわからない造形を、さらにガンビエ風にアレンジし、人が被って移動することができる柔らかくて軽い存在へと変換したのである。テキスタイル製の作品は中に入って、自由に形を変えることができ、それはまるで陶芸家が土に形を与えるようなものでもある。今回は富山県美術館を会場に新作6点と既存4点の計10点が出展される。

●プロフィール 2004年フランス・カーン生まれ。8歳でクラシックバレエと出会う。身体とフォームを通じた表現に興味を抱き、高校では美術と視覚芸術を学ぶ。卒業後、織物や衣服に対する興味からパリ・カレッジ・オブ・アートでテキスタイルを学ぶ。現在、パリ・セルジー国立高等美術学校に在籍。生活とショー、観客と俳優、家具と衣服等二つの立場の間からパフォーマンスやインスタレーション作品を制作している。

【中島閘門エリア】

中島閘門エリアの会場
・電タク(富山市中島1-14-46)チケット販売会場
・中島閘門操作所+広場(富山市中島2-3-2)

 富岩運河の中間地点にある中島閘門。パナマ運河方式の閘門で、この地点には水面の高低差が2.5 mあり、その水位の調整で船の運航を支えている。昭和の土木構造物では全国で初めて国の重要文化財に指定された。会場は中島閘門操作室と芝生の広場、元タクシー会社社屋「電タク」の3ヵ所。絵画を含む二次元イメージとそこから派生する立体表現への展開を紹介する。運河を走る遊覧船からも鑑賞できる大型作品も展示する。

・中島閘門広場

上田バロン『夢幻の星屑』(2023年。アルミ蒸着シート、インク、PVCシート、アルミ複合板)

 上田バロン氏は、ゲームや出版、広告、アパレル等さまざまな分野を活動のフィールドにするイラストレーター、アーティストである。さまざまな企業とコラボレーションし、これまで数多くのキャラクターを生み出してきた。制作スタイルであるコンピューターを使った手法は、専門学校時代にさかのぼる。絵の具等のアナログな描き方に比べて、デジタル画は最後までつくり変えることができ、それが自分には自由に感じられたと言う。またデジタル画に魅了される一方で、アナログな質感等にも注意を向け、出力する際には何層かに印刷を重ねたり、紙の仕様では質感を大事にしている。バロン氏が生み出すキャラクターは、ゲームのユーザーや出版物の読者から高い支持を集め、二次元なイメージを超えた空想空間にまで広がっているのが特徴的である。筆者は、大阪でデジタルアートバトル「リミッツ」など、様々なプロジェクトでバロン氏と行動を共にしており、閘門の真横で浮き沈みする船から作品を楽しめる特別な場所の展示が嬉しい。

●プロフィール 1974年京都府生まれ。1996年に大阪コミュニケーションアート専門学校グラフィックデザイン科イラストレーションコースを卒業。2000年にグラフィックデザイナー兼イラストレーターとして独立。近年の主な個展に「GREEN SOUL」(2018年)、「上田バロン作品集『EYES』出版記念展」(2019年)、「Yogibo Presents 上田バロン20周年記念特別展-Eyes on the Future and Past」(2022年)などがある。

1枚目がバロン氏。2枚目は筆者とバロン氏。3枚目、4枚目は閘門に入る船からの写真

・中島閘門操作室

渡邊義紘『折り葉の動物たち』(2012年〜2022年。葉)

 幼い頃から昆虫や動物等あらゆる生き物に興味を持ち、10歳の頃に切り絵や折り紙に出会ってからは自然と生き物の造形をつくるようになる。今回出展する「折り葉」は、12歳の時に、渡邊氏が通っていた養護学校の校庭にあった一本のクヌギの木葉との出会いから始まる。11月の落葉時期に葉を拾い、ハサミで葉の周りのギザギザの部分を切り落とす。その後、息を吹きかけながら、接着剤もハサミも使うことなく、指先で折り上げていく。息を吹きかけるのは、葉の表面の水分量を調整しているのだという。ゾウ、トラ、ヒツジ、キリン、サルといったさまざまな動物を渡邊氏が考案したオリジナルの技法で制作する。小さな世界をのぞき込む楽しさがあり、細やかなディテールと、それぞれの動物の特徴を捉えた生き生きとした表現が魅力である。

●プロフィール 1989年熊本県生まれ。幼い頃から生き物全般に強い興味を持ち、さまざまな素材から動物をつくる。中学1年生で熊本市現代美術館の開館記念展「ATTITUDE 2002」に参加。以後、制作と発表を続けている。主な展覧会に「渡邊義紘個展−はさみで命が吹き込まれる動物たち−」(2016年 プラス株式会社ショールーム「+PLUS」、東京都)、「あるがままのアート−人知れず表現し続ける者たち−」(2020年 東京藝術大学大学美術館、東京都)などがある。

写真3枚目の右側が作者

・電タク

増田セバスチャン『Polychromatic Skin - Gender Tower - #北陸』(2023年。ミクストメディア)

 増田セバスチャン氏は、日本発の「KAWAII(カワイイ)カルチャー」の第一人者、かつ世界に広めたアーティストとして知られ、1995年から原宿を拠点に活動してきた。その文化的背景と独特な色彩感覚で、アートだけでなく、ファッションやエンタメを横断してつなぐアーティストとして異彩を放っている。現在はニューヨークに拠点を移し、さらに国際的に活躍中。今回は、「ポリクロマティック・スキン(ジェンダータワー)」と題するカラフルな塔を通称「電タク」と呼ばれる元タクシー会社の駐車場跡に出現させ、ポップで可愛く色鮮やかで、かつメッセージ性溢れる世界をつくり出す。筆者はセバスチャン氏とは大阪府の地域アート「おおさかカンヴァス」で共に審査をしたことがあり、親しくさせてもらっている。

●プロフィール 1970年千葉県生まれ。ニューヨーク在住。1990年代より演劇や現代美術に関わる。主な仕事に、きゃりーぱみゅぱみゅ「PONPONPON」MV美術、「KAWAII MONSTER CAFE」プロデュース等。主な個展に「Colorful Rebellion –Seventh Nightmare-」(2014年 ニューヨーク、マイアミ)、「Yes, Kawaii Is Art」(2021年 東京都、大阪府)、主なグループ展に「THE ドラえもん展」(2017年 森アーツギャラリー等各地巡回)などがある。

横野明日香

 横野氏は、架空の風景や場面を独自の視点で油彩によって表現する。見ることの不確かさを自覚し、絵画を利用してどのようにそれを乗り越えていくのかがテーマである。ダムをモチーフにした作品は、大学生の時に黒部ダムを訪れたことがきっかけで描き出した。日常のスケールを超えた大きなダムを見た時に、一つの風景として把握することができなかった経験による。この時に視界をつなぎ合わせるように、想像した体験が風景絵画を描くきっかけになった。今回はダムシリーズの新作1点を加えた6点を、壁面にかけず自立した絵画として設置する。視線をたどるようなストロークと、絵画空間の中に身を置くような大きな画面、自然と人工物が組み合わさった世界等、横野の描く作品の特徴がより身体的に感じられる。

●プロフィール 1987年愛知県生まれ。2013年に愛知県立芸術大学大学院美術研究科博士前期課程油画版画領域を修了。主な個展に「組み合わせ」(2018年 See Saw gallery+hibit、愛知県)、「花と灯台」(2022年 GALLERY ZERO、大阪府)等がある。主なグループ展に「STILL ALIVE 国際芸術祭あいち2022」(2022年 愛知県美術館、愛知県)、「現代美術のポジション2021-2022」(2021-2022年 名古屋市美術館、愛知県)などがある。

作者と『2023 のダム』(2023年。油彩、キャンバス)

『トンネル』(2013年。油彩、キャンバス)

『Curve』(2014年。油彩、キャンバス)

定村瑶子(じょうむらようこ)

 定村氏は、映画で見た外国の風景や自分の身の回りにはない景色に憧れを抱き、絵を描いてきた。2018年から自ら模型をつくり、模型自体を描く、より空想性が強い制作スタイルで行なっている。絵を描く前に、紙粘土や小枝、インターネットで見つけた画像を組み合わせて部屋の模型をつくる。その後、それを描いていく。当初から描かれたモチーフは実在しないが、それをあたかも実在するかのように描いていくという幻想性が定村の特徴である。今回は「電タク」と呼ばれるタクシー会社跡地の2階で絵画作品に入り込むような部屋を使った新作を発表する。新型コロナウイルス感染症によって会社が存続できなくなり、突如閉鎖された執務室や会議室が今回の展示場になる。残された部屋が定村の空想世界の舞台となる。元々あったものに、定村氏の持ちこんだものが織り込まれていて、不思議な空間が出来上がっている。

●プロフィール 1988年富山県生まれ。2020年に金沢美術工芸大学大学院修士課程を修了。主な個展に「縦と横のキーワード」(2023年 カフェ&ギャラリーミュゼ、石川県)、「いらっしゃい、さようなら」(2023年 金沢アートグミ、石川県)がある。主なグループ展に「密室、風通しの良い窓、ぎこちないモンタージュ」(2022年 名古屋市民ギャラリー矢田、愛知県)などがある。受賞歴として、第5回星乃珈琲店絵画コンテスト優秀賞(2020年)がある。

『ありがたいおめでたさ』(2023年。キャンバス、油彩)

『並木と車庫』(2022年。キャンバス、油彩)

定村さん

右側の壁の絵。『太陽のまち』(2023年。キャンバス、油彩)

棚の上の絵。『曇天2』(2019年。キャンバス、油彩)

河部樹誠『首かり200余人』(2022年〜2023年。油彩、アクリル、キャンバス、パネル、シナ合板、和紙、ベニヤ板)

 著名人、偉人の似顔絵シリーズの206点余りからなる肖像画作品を、アトリエでの展示風景を再現するように展示構成する。肖像画は、河部氏が任意で選んだ歴史上の人物たちで、プーチン大統領、安倍晋三元首相といった政治家から、ゴッホ、草間彌生といった芸術家、また美輪明宏等の芸能人や大谷翔平といったスポーツ選手、さらにはゴルゴ13といった空想上の漫画のキャラクター等、河部の生きた時代を代表する人物たちであり、現代の世相を切り取ったものだ。「首かり」シリーズのきっかけはロシアによるウクライナ侵攻で、その怒りが動機となっている。「首かり」は、かつて画家の岸田劉生が友人、知人を「首かり」と称して肖像画を描いたことに関連している。

●プロフィール 1955年愛媛県生まれ。1968年から独学で油絵を描き始める。17歳で手指の力が弱くなる「若年性一側上肢筋萎縮症(平山病)」の診断を受ける。1980年に多摩美術大学・大学院を修了。愛媛県高等学校美術教員、愛媛県立美術館で勤務しながら、創作活動を続け個展を開催。2001年に、障害のある人の創作活動を支援するNPO法人アトリエ素心居を設立。2015年に退職し、以降、各地で個展を開催。2022年より著名人や偉人の似顔絵シリーズ「首かり200余人」を描き始める。

【岩瀬エリア】

岩瀬エリアの会場
・桝田酒造店 満寿泉(富山市東岩瀬町269)チケット販売会場
・桝田酒造店 寿蔵(富山市東岩瀬町123-2)
・北陸銀行 岩瀬支店(富山市東岩瀬町110)
・酒蕎楽くちいわ 青蔵(富山市東岩瀬町135番地 裏)
・馬場家(富山市東岩瀬町107-2)
・KOBO Brew Pub(富山市岩瀬大町107-2)
・酒商 田尻本店(富山市東岩瀬町102)
・桝田酒造店 沙石(富山市岩瀬大町93)
※KOBO Brew Pubは、11:00-18:00(入場17:30まで)。営業時間内での展示で、ビールも楽しめる

 富岩運河の終着地であり、美しい街並みが特徴的な岩瀬地区。江戸時代から明治時代、日本海を北海道から大阪にかけて交易しながら行き交った北前船の寄港地として栄えた。北前船の北陸五大船主であった馬場家や、酒蔵 桝田酒造店をはじめとする8か所が会場となる。廻船問屋が軒を連ねた旧北国街道沿いにある明治期の建物群を現代アートの多様な表現が彩り、新しい風景をつくり出す。

・桝田酒造店 満寿泉

葉山有樹『双竜』(2023年。アルミ複合板)

 葉山氏は陶芸家であり、伝統的な紋様を漫画やアニメといった視点から独自の美意識でアレンジして、これまで見たことのない、細密な描写で人々を魅了してきた。大皿や壺等に代表作があり、陶磁における細密の世界に生きてきた。近年は、それらの細密の世界を大きな作品へと展開している。自らが磁器の紋様として描いてきた図柄をデータ化して、高精細の大型プリンターで拡大し、それをアルミ板に転写して、建築のスケール感でより大きな空間へと展開しようとしている。技術的に大きさに限界がある磁器から、より自由度が増す大型の壁画やインスタレーション展開を可能にして、葉山の独創性あふれる物語の世界を空間に展開している。今回は、その技術を使って、要所要所に龍を祀る日本酒の蔵元・桝田酒造の酒蔵の大きな扉を葉山の作品で飾る。

 桝田酒造は明治三十八年 富山市東岩瀬町で創業。銘柄は蔵本名の一字「桝」に縁起良く「寿が満ちる泉」と当て字し、長寿の酒を意味する「満寿泉」と命名した。 吟醸酒が一般市場であまり認められていなかった昭和四十年代半ばから取り組み、「吟醸酒といえば満寿泉」と認知されるようになった。 筆者も取材の日の夜は満寿泉で、富山の魚を食した。

●プロフィール 1961年佐賀県生まれ。主な個展に「A Pattern Odyssey YUKI HAYAMA展」(2007年 スパイラル、東京都)、「YUKI HAYAMA BEAUTY OF LIFE」(2016年 Joseph Carini Carpets、アメリカ)などがある。主なグループ展に「工芸未来派」(2012年 金沢21世紀美術館、石川県)、「明日への眼差し三人展肥前さが幕末維新博覧会」(2018年 佐賀県立美術館、佐賀県)等がある。金沢21世紀美術館に作品が収蔵されている。

コムロタカヒロ

 コムロ氏の彫刻作品は、まるでソフビのような軽いイメージを放つ。このような作品を制作したのは子供の頃から親しんできたアメコミやフィギュアの影響だと本人はいう。それに独自の彫刻的なリアリティの「らしさ」を生み出すのは、コムロ氏の技術力によるもの。子供時代には、近所に金属加工工場があり、職人の仕事を眺めていた。それがコムロ氏にものづくりへの興味を醸成していった。“つくる”という作業そのものが「神聖だ」とコムロ氏は考えている。今回は、コムロ氏が空想上で生み出した大きな木製のドラゴンが、日本酒の醸造を行う仕込み蔵の空間を占拠する。

●プロフィール 1985年東京都生まれ。2011年に東京藝術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻を修了。主な個展として「Vortex」(2019年 銀座蔦屋書店 GINZA ATRIUM、東京都)、「WHITE HOLE」(2021年 THE ANZAI GALLERY、東京都)などがある。

『Dog dragon』(2023年。木《桂》に彩色)、『Bat dragon』(2023年。木《桂》に彩色)、『Savage dragon』(2023年。木《桂》に彩色)、『Demonic dragon』(2023年。木《桂》に彩色)

岩崎貴宏

 岩崎氏は、歯ブラシ、タオル、文庫本のしおり、ダクトテープ等身の回りの日用品から、繊細で儚い風景をつくり出す。床に積み上げられたタオルに鉄塔が建つ作品や、文庫本のしおりにクレーンが建つ作品等、見慣れた日用品がスケールを変えて別の風景となって出現する。それは時に幻想的ですらある。視点の転換、スケールの変換等、視覚イメージにまつわる問題をテーマにしている。今回出展する《Out of Disorder(Layer and Folding)》は、日本列島にエネルギーが流れていく様子を表した作品である。日本海から太平洋に至る地層の断面が垂直に現れ、その上に送電線や鉄塔が水平に立ち並んでいる。地層がつくられる長い歴史と現代の文明の脆弱さが同居しているかのようである。

●プロフィール 1975年広島県生まれ。2003年に広島市立大学芸術学研究科を修了。2005年にエジンバラ・カレッジ・オブ・アート大学院修了。主な個展に「Takahiro Iwasaki:In Focus」(2015年 アジアソサエティ、アメリカ)、「第57回 ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 逆さにすれば、森」(2017年 カステッロ公園内日本館、イタリア)などがある。

・桝田酒造店 寿蔵

 瓶貯蔵庫で、年ごとに綺麗に並べられ、瓶の中で熟成される。満寿泉のお酒の色がほんのり黄金色なのはこの蔵でしっかりと熟成させているから。ひんやりとした特別な空間の奥に鎮座する葉山氏の作品が美しい。

葉山有樹『龍孫皇帝図鉢』(2010年。陶磁器)

平子雄一『Lost in Thought/Toyama』(2023年。木製パネル、アクリル)

 平子氏は、作家自身の日常感覚と世界に対する独特の見方の両方が無理なく反映された絵画や彫刻を制作する。一見、にぎやかで、脱力したかのような、それでいて明るい印象を受ける作品だが、その背景にある世界への眼差しは、自らの生を反映しつつ、自然環境や人間社会の問題、それらの奇妙な関係性等について向けられる。一筋縄ではいかない、解釈の湾曲や屈折があり、ディストピア的な視点も多分に含まれている。今回は、岩瀬地区に残る伝統的な家屋の外観を活用して、美しくデザインされた窓枠に作品をはめ込み、実際の街並みを平子氏の世界を物語る装置にしていく。現実の風景の中に、平子の絵画や彫刻が要所要所に差し込まれていき、現実と空想を行き来する世界を形作る。

●プロフィール 1982年岡山県生まれ。2006年にウィンブルドン・カレッジ・オブ・アートの絵画専攻を卒業。近年の主な個展に「平子雄一 × 練馬区立美術館コレクション inheritance, metamorphosis, rebirth [遺産、変形、再生]」(2022年 練馬区立美術館、東京都)、「THE NATURE」(2023年 The Modern Institute, Aird's Lane Bricks Space、イギリス)などがある。Long Museum、Powerlong Museumなどに作品が収蔵されている。

・酒蕎楽くちいわ 青蔵

村山悟郎『自己組織化する絵画〈過剰に〉』(2016年。織った麻紐にアクリリック)

 村山氏は、チリの神経科学者マトゥラーナ/ヴァレラが発案した生命システムの自己組織化と恒常性をとらえる理論「オートポイエーシス」を作品に応用し、生態学的視点から絵画やビデオインスタレーション、パフォーマンス等を幅広く制作している。代表的な作品として、麻紐からカンバスを織り上げ、そこに下地を加え、さらにドローイングを施すプロセスを連綿と続けながら、次第に作品構造が成長していく織物絵画がある。ハイテク時代における人間の創造性とは何かを問いながら、ドローイングの新しい制作スタイルを展開している。今回は岩瀬地区にある古い二つの蔵で、織物絵画とインフォマティック・テキスタイルや生体資料等複合的な展示構成から、有機的な組織生成が生まれる絵画表現の可能性を展開する。

●プロフィール 1983年東京都生まれ。2015年に東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻油画(壁画)研究領域を修了。近年の主な個展に「Painting Folding」(2022年 Takuro Someya Contemporary Art、東京都)、主なグループ展に「瀬戸内国際芸術祭」(2019、2022年 男木島、香川県)、「ICC アニュアル2022 生命的なものたち」(2022年 NTTインターコミュニケーションセンター、東京都)などがある。東京都現代美術館、クンストハレ ビーレフェルトに作品が収蔵されている。

・馬場家

 北前船で成功した後も、明治中頃には汽船経営に舵を切り、事業の近代化に成功した。また、馬場家9代当主道久の妻はるは、旧制富山高等学校設立のために多額の寄附をしたことで知られている。当住宅は明治6年の東岩瀬の大火の後、以前の部材を用いて建てられたといわれている。東岩瀬町の中でも最大規模の住宅になる。

桜井旭『馬場家を描くプロジェクト』(2023年)

 桜井氏は現場に赴き、その場でイーゼルを立て、絵を描く。それまでは写真を撮って、その画像をもとに描く手法を用いていたが、対象と直に向かい合うことでしか得られないリアリティーを探求するために現場での制作を行うようになる。これはいわゆる「近代絵画の制作方法」であり、「写生」の再発見とも言える行為だ。多くの印象派の画家はイーゼルとキャンバスを担いで目の前の風景を描いてきた。もはや誰も行わなくなった「写実の方法」を桜井は再検討する。今回の作品は、北陸の「五大北前船主」の一つに数えられる国の登録有形文化財「馬場家」を会場とする。会期前から馬場家に赴き、気に入った場所を描いていく。会期中にも制作は続き、そのプロセスも含めて制作であり、作品と言える。現場のさまざまな変化や、他者との対話も含めて、雑多な情報を自らの身体を通して捉えようとする。

●プロフィール 1996年兵庫県生まれ。2022年に金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科修士課程絵画専攻油画コースを修了。現在、同大学院同研究科博士後期課程美術領域絵画分野に在籍。主な展覧会に、個展「うみのいえにて」(2023年 LIGHT HOUSE GALLERY、東京都)、「内灘闘争―風と砂の記憶―二〇二二」(2022年 内灘町歴史民俗資料館・内灘町文化会館、石川県)などがある。

・KOBO Brew Pub

ささきなつみ

 ささき氏は、東北芸術工科大学で日本画を学び、長い耳を持ったうさぎのような自画像を日本画の手法で描いていた。それは、以前より「別の生き物としてありたい」という思いの反映であり、今回紹介する人類とは別の生物をテーマにしたシリーズへとつながる。「人も異星人のように多様な生き物であっても良いのではないか」という考えのもと、 動植物や虫と人体が融合した未知の生物「リンジン」と、「リンジン」を発掘・研究するN 氏という人物を探求している。今回の展示は、N氏の調査によって判明した未知生物「リンジン」が制作した標本や、N氏が開発したテラコッタ等の陶製のボディスーツ、そしてN氏の手記を展示する。「生物としての人間存在の開放」をテーマにする、ささき氏の創作世界が体験できる。

●プロフィール 1999年岩手県生まれ。2023年に東北芸術工科大学芸術文化専攻複合芸術領域修士課程を修了。主な個展に「土(ど)は外(そと)へ」(2023年 太郎平画廊、東京都)。主なグループ展に「第8回トリエンナーレ豊橋 星野眞吾賞展」(2021年 豊橋市美術博物館、愛知県)、「KUMA experiment vol.9『pneuma-息衝く-』」(2023年 クマ財団ギャラリー、東京都」などがある。

一枚目の写真は、『リンジンの標本Ⅰ「土(ど)」』(2023年。皮、染料、顔料、他)、『リンジンの標本Ⅱ「天(てん)」』(2023年。皮、染料、顔料、他)、『リンジンの標本Ⅲ「開(かい)」』(2023年。皮、染料、顔料、他)。二枚目の写真は『リンジンスーツ』(2023年。陶、革、顔料)。三枚目はささき氏

・桝田酒造店 沙石

古川流雄

 1980年前半から1990年代後半にかけて、色彩と形態というモダニズム絵画を語る上で欠かせない造形上のフォーマットを引用して、それを吟味、探求するように制作してきた。色彩と形態、イメージと物質、絵画的イリュージョンと三次元的な空間等、モダニズムの造形で欠かせない要素を求道的な姿勢で探求してきた。その後、休止期間を経て、2005年より再び制作を開始した。それまでのフォーマリズム的な造形姿勢に、環境、空間、時間等の要素が加わり、より自然に、造形物としての可能性を探求している。風景の中でのインスタレーションや立体造形物としての存在の魅力等、よりおおらかな物体として、時間と空間の中で働く作品を探求して、さらなる実験を試みている。

●プロフィール 1955年千葉県生まれ。1982年に東京藝術大学大学院美術研究科修士課程を修了。近年の主な個展に「光と気」(2022年 HIGURE 17-15 cas、東京都)、「Awakening 1981-2012」(2022年 GALLRY KTO、東京都)、「あらわれ」(2019年 人形町ヴィジョンズ、東京都)などがある。

作者と『正午の灼熱』(2015年。布、ガラス繊維、顔料、木、ポリエステル樹脂)

『午後の焦熱』(2015年。布、ガラス繊維、顔料、木、ポリエステル樹脂)

O33『Inner』(2023年。羊腸)

 O33氏の作品は、羊の腸を主な素材に使用している。内モンゴル出身のO33氏にとって、羊は遊牧で飼養されてきた身近な存在である。モンゴルでは羊を含む家畜のほぼ全ての部位は、衣食住に用いられ生活を支えていると言う。作品制作の動機は、モンゴル人であり中国国籍を持つ作家の出自に原点があり、生まれた時から二つの文化の中で育ってきたことに起因する。作品は内と外や生と死等曖昧な境界を探求するというテーマのもと、テキスタイルや彫刻、インスタレーションを制作している。今回の作品は、屋外と屋内を結ぶ通路に、無数の羊の腸を吊ったインスタレーションになる。鑑賞者が通路を通ることで、生と死や内と外の二重性を、空間全体で体験できる展示になる。

●プロフィール 1993年内モンゴル生まれ。2015年に内モンゴル大学芸術学院を卒業。2023年に金沢美術工芸大学大学院工芸専攻染織コースを修了。現在、同大学院彫刻専攻博士課程に在籍。主な展覧会に「輪廻―033・YULING LIN二人展」(2022年 アートベース石引、石川県)、「工芸2022」(2022年 雪梁舎美術館、新潟県)などがある。

【開催概要】
会期|2023年9月15日~10月29日
時間|10:00~16:30(入場16:00まで)
会場|富山県富山市 富岩運河沿い(環水公園エリア、中島閘門エリア、岩瀬エリア)
休場日|樂翠亭美術館(水曜)、富山県美術館(水曜)、ほか会期中無休 ※臨 時休館・開館する場合もあるので、Webサイトなどでの要確認
料金|ガイドブック付き。⼀般 2500円/⾼校⽣ 1500円
※オンライン購入/公式Webサイト
会場購入/樂翠亭美術館、電タク、桝田酒造店 満寿泉
チケット1枚につき一人限り、全ての有料会場に1回のみ入場可能。
障害者手帳所持者と同伴者1名、中学生以下は無料。
公式サイトhttps://goforkogei.com/

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