佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第208回
高いノイズキャンセル性能の裏にある、イヤーチップの独自性
ソニー渾身の完全ワイヤレス「WF-1000XM5」ファーストインプレッション
2023年07月30日 17時00分更新
7月25日にソニーの完全ワイヤレスイヤホンWF-1000Xシリーズに、待望の新モデル「WF-1000XM5」が追加された。東京・六本木の“Billboard Live TOKYO”においてプレス向けイベントも開催された。
まずは技術的なポイントをおさらい
イベントの冒頭では、ソニーマーケティングの麥谷周一部長が商品概要を説明した。
麥谷 「WF-1000Xシリーズは初号機から国内累計で200万台を販売し、ご愛顧をいただいているロングランのシリーズ。WF-1000XM5においては、完全ワイヤレスイヤホンとしては世界最高のノイズキャンセリング性能(4月10日時点、JEITA基準)で、ハイレゾ対応ながら小型軽量化を果たしたほか、はじめからマルチポイントに対応することでプライベートと仕事の両立を図った」
設計に携わったエンジニアもトークセッションに登壇し、開発の背景を語った。
音質設計を担当した菊池浩平氏は「いま我々が持つ技術を惜しみなく入れ込むことができた製品」と強調した。
菊池 「(ノイズキャンセリングについては)プロセッサーを2種類に分けて搭載し、フィードバックマイクも増やしている。片側のプロセッサーでは複数のフィードバックマイクを制御し、もう一方のプロセッサーでは周囲の環境に合わせた最適化制御をする。この組み合わせで性能の向上ができた」
ノイズキャンセルの性能は、WF-1000XM4に比べて全域で向上したが、特に乗り物に乗った際、電車の車輪がこすれる“キーッ”という高い音や走行時のゴーという低い騒音の低減を実感できると思うとしている。
音質面では「高音質の実現には、広い周波数帯を低歪みで再生することが重要。そのために専用のドライバーを完全新規に設計した。口径が従来の6mmから8.4mmに大口径化しただけでなく、構造そのものが変わっている。ドーム部とエッジ部で異なる素材を組み合わせることで、高域から低域まで歪みのない再生を実現できた」とする。
目指した音についてはこう語る。
菊池 「1000Xシリーズではジャンルにこだわらず、音楽の持つ魅力を素直に引き出すことを目指している。M5ではM4に比べて低域の余韻や声の伸び、空間の奥行き表現を向上できた。さまざまな時代の音楽を参考にして音作りをしたが、シングル盤とアルバム盤でマスタリングを変えたような音源でも細かな違いがわかるほど高いレベルの音質にできた」
メカ設計を担当した松原大氏は、小型化を実現するための工夫ついて語った。
松原 「M5は単純な小型化を追究するのではなく、装着感の向上に重きを置いた。音楽再生だけでなく、動画再生やビジネス(ウェブ会議)などさまざまなシーンで使え、長時間装着しても負担にならない」
M5はM4に対して体積で25%、重量で20%の小型軽量化した。1000Xシリーズは音に妥協があってはならないので、音響設計チームやデバイス開発チームと協力して、部品レイアウトの効率を上げたそうだ。デバイス面では、LinkBuds Sと同様、SIP(システム・イン・パッケージ)を採用して、小型化を図っているそうだ。
デザイン面はトップ部はマット、側面部は光沢処理にしている。耳に沿う部分と、指でタッチする操作部を分けることで、どこをタッチすればいいか感触でわかるようにしたという。また、M4ではマイク部を別パーツにして際立たせていたが、M5では一体化させている。「凹凸のないデザインは、風切りノイズの低減にも寄与する」とデザインに隠されたポイントを述べた。
スペシャルゲストとしてコメントしたジャズピアニストの山中千尋さんは、事前に「WF-1000XM5」を使用した感想を述べた。
山中 「(音楽を聴くよりも先に)曲と曲の間を聞いてみた。真空状態というよりは、森の中やコンサートが始まる前のホールのような静かさを感じた。もちろん自分の演奏も聞いてみたが、クラシック曲も聴いた。マーラーの交響曲第5番の第4楽章のような、小さな音から大きな音まで出るダイナミックレンジの広い楽曲では、ピアニッシシモが聞けた。小さな音から始まり、大きな音でも割れずに、天井の高いコンサートホールにいるような空間が楽しめた。誇張された帯域はなく、包まれるように聞こえた」
これを受けて菊池氏は「基礎能力の再現性が上がったのでそう聞こえたと思う。空間の奥行き表現にこだわっている。空気感やライブ感が再現できたのではないか」と答えていた。私はLE Audio対応に興味があったので、「WF-1000XM5はLE Audioに対応するのか」と聞いたのだが、答えは「発売時点のファームウェアで対応している」とのことだった。
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