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排卵時の脳内のキスペプチン・ニューロンが活性化する仕組み=名大

2023年03月14日 10時48分更新

文● MIT Technology Review Japan

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名古屋大学の研究チームは、哺乳類の排卵時に脳内のキスペプチン・ニューロンが活性化する仕組みを初めて解明した。哺乳類が排卵に至る過程の中で、キスペプチン・ニューロンが活性化し、性腺刺激ホルモン放出ホルモンと、黄体形成ホルモンの大量分泌を引き起こすことは分かっている。だが、キスペプチン・ニューロンが活性化する仕組みは分かっていなかった。

名古屋大学の研究チームは、哺乳類の排卵時に脳内のキスペプチン・ニューロンが活性化する仕組みを初めて解明した。哺乳類が排卵に至る過程の中で、キスペプチン・ニューロンが活性化し、性腺刺激ホルモン放出ホルモンと、黄体形成ホルモンの大量分泌を引き起こすことは分かっている。だが、キスペプチン・ニューロンが活性化する仕組みは分かっていなかった。 研究チームは今回、キスペプチン・ニューロンにアデノシン三リン酸(ATP:adenosine triphosphate)の受容体(P2X2受容体)が発現することと、ATPがP2X2受容体を介してキスペプチン・ニューロンを活性化し、黄体形成ホルモンの大量分泌を引き起こして、排卵を誘発することを明らかにした。ATPは一般に、細胞内のエネルギーの貯蔵と利用に関係する物質だが、今回の発見で脳内では神経伝達物質として働いていることが分かった。 ラットを使った実験では、視床下部前方に位置する前腹側室周囲核にATP受容体拮抗剤を投与し、黄体形成ホルモンの大量分泌が阻害され、排卵数が減少することを確認した。一方で前腹側室周囲核にATPを投与すると、黄体形成ホルモンが大量に分泌された。そして、キスペプチン遺伝子欠損ラットの前腹側室周囲核にATPを投与しても、黄体形成ホルモンの大量分泌を誘起できなかった。 卵巣を除去した雌ラットに排卵前と同等レベルのエストロジェンを投与すると、キスペプチン・ニューロンのP2X2受容体の発現が増加し、前腹側室周囲核のキスペプチン・ニューロン近傍に投射するプリン作動性ニューロン(ATPを放出する神経)の線維が増加した。また、ラット後脳の延髄A1、A2領域のプリン作動性ニューロンの一部が、前腹側室周囲核のキスペプチン・ニューロン近傍に投射してることも分かった。以上の発見から、エストロジェンが後脳由来のATP放出ニューロンを刺激してATPを放出させ、前腹側室周囲核のキスペプチン・ニューロンを活性化させることで、黄体形成ホルモンの大量分泌を引き起こし、排卵を誘発していることが明らかになった。 研究成果は2月22日、ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス(Journal of Neuroscience)誌にオンライン掲載された。今回の発見は家畜の排卵障害の治療や、ヒトの不妊治療などへの応用が期待できるという。

(笹田)

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