エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のアート散歩番外編

「アートをつなげる、深める、拡げる」国立アートリサーチセンター設立を発表

文●玉置泰紀(一般社団法人メタ観光推進機構理事)

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 独立行政法人国立美術館は2023年3月8日、アート振興を持続的かつ国際的に展開するための日本初の総合的な拠点として「国立アートリサーチセンター」(片岡真実・センター長)設立を六本木の国立新美術館で発表した(活動開始は2023年3月28日)。同センターは、「アートをつなげる、深める、拡げる」をキーワードに、国内外の美術館、研究機関をはじめ社会のさまざまな人々をつなぐ新たな拠点として専門領域の調査研究(リサーチ)に留まらず、情報収集と国内外への発信、コレクションの活用促進、人的ネットワークの構築、ラーニングの拡充、アーティストの支援などに取り組み、日本の美術館活動全体の充実を目指す、という。

 日頃、東京国立近代美術館や国立西洋美術館、国立国際美術館、京都国立近代美術館、そしてもちろん国立新美術館などに足繫く通っている筆者だが、これらの施設を横串に連携し、さらに新しい形でのアートの可能性を探る試みに強く惹かれ、記者会見に行ってみた。国立美術館としては、まだ行けていない石川県・金沢市の国立工芸館(2020年10月25日にオープン)、国立映画アーカイブもあり、これらの7施設を一体的に考えることは、日本のアート施策に大きな刺激になるだろう。

記者会見にて。右から、文化庁の都倉俊一長官、センター長に就任する森美術館の片岡真実館長、独立行政法人国立美術館の逢坂恵理子理事長(国立新美術館館長)

コレクションの活用、アーカイブの確率・国内外への情報発信、ラーニングの充実など4本柱が描くアートのこれから

 具体的には、国立アートリサーチセンターの事業は四つの柱からなる。

■『国立アートリサーチセンター』の事業~4つの柱~

 国立アートリサーチセンターは、広く社会と連携しながら、以下の活動に取り組む。

1. 美術館コレクションの活用促進

 国立美術館と国内美術館の協働によるコレクションを活用した展覧会の開催推進・発信により、日本におけるアートの認知や評価の向上、国内美術館の連携強化等の役割を果たす。また、将来的に国民的資産となりうる作品の修復、保存を推進する。

2. 情報資源の集約・発信

 ナショナルセンターとして日本全国の情報を包括的に集約・発信し、世界のアート分野における日本の存在感を高め、日本のアーティストや作品に関する国際的な調査研究拠点の機能を確立する。

3. 海外への発信・国際ネットワーク

 国際的な情報発信拠点として、国際的なネットワークの構築、効果的な情報発信及び連携を推進するとともに、アーティストの支援を行うことで、日本のアートの国際的な価値・評価の向上に注力する。

4. ラーニングの充実

 これからの美術館に求められる、社会包摂・多様性・対話などの社会的課題やSDGsを意識しつつ、質の高いラーニングプログラムを研究開発・実践し、アートの社会的価値の向上を目指す。

 筆者は、アートのデジタル・アーカイブ、個人・商用での利活用に興味があり、様々な関係者とワーキングをしてきたが、今回の取り組みの柱の中でも、「情報資源の集約・発信」に強く惹かれた。詳細な説明では、以下の計画が発表された。

 「全国の美術館収蔵品に関する情報集約と発信」として、日本全国の美術館の収蔵品情報の可視化と国際共有化を目指し、文化庁アートプラットフォーム事業により構築されたデータベース「全国美術館収蔵品サーチ(SHŪZŌ)」を継承する。

・2021年3月 文化庁アートプラットフォーム事業により「全国美術館収蔵品サーチ(SHŪZŌ)」が公開。データ数:85館、約7万件
・2022年4月 事業継承。データ数:150館、約14万3千件
・2023年4月 持続的運用体制を整備。データ数:163館、約16万件(予定)

 また、「国際的リサーチセンター機能確立に向けた活動」として、日本のアートについて、国内外の調査研究に資する情報の集積と日英二か国語での提供。

「日本のアーティスト事典(仮称)」(新規)
・日本のアーティストについて、基本データのみならず、国内外の調査・研究に資するよう主要な展覧会・所蔵先・文献等の情報も収録
・2023年9月頃公開に向けて準備中

 そして、文化庁アートプラットフォーム事業のウェブサイトからのコンテンツを2023年度から継承。

・文化庁が2010年度から取り組んできた「メディア芸術データベース」を、2023年度からの継承に向けて準備中

 これらの施策を一元的に実施することで、世界中の文化遺産をオンラインで紹介することを目的にしたGoogle Arts & Cultureや、文化遺産のためのEUのデジタルプラットフォームであるヨーロピアナ(Europeana)にあたる日本のアートのアーカイブが期待できそうだ。

 このほかにも、「国立美術館連携事業」では、地域におけるアートの鑑賞機会の充実と美術館の展示・調査研究活動の活性化に貢献することを目的として、全国の美術館等と協働し、国立美術館のコレクションを活用した2つの連携事業を準備中。

国立美術館 コレクション・ダイアローグ
・国立美術館のコレクションと、展覧会を開催する国内美術館のコレクションとで構成した展覧会を実施
・全国の美術館から企画を公募し開催館を選定
・2023年3月28日に募集の詳細を公表予定

国立美術館 コレクション・プラス
・開催館コレクションに国立美術館の所蔵作品1~数点を加えて構成したテーマ展示を実施
・全国の美術館から企画を公募し開催館を選定
・ 2023年3月28日に募集の詳細を公表予定

 「健康とウェルビーイング事業」として、人々の健康や幸福に関わるアートの機能に注目し、福祉・医療分野の機関や大学等と連携して調査研究を実施。

超高齢社会に向けての美術館プロジェクト
・英国の美術館などにおける先進事例の調査
・認知症の方に対応した鑑賞デジタルツールの開発とこれを用いた介護者対象プログラムの検討
・JST「共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点」による、福祉・医療分野の機関や大学等と連携した取り組み

健康とウェルビーイングに関する国際シンポジウム
・主に英国より美術館関係者を招いてシンポジウムの開催を検討中(2023年4月頃、詳細を公表予定)

 「アクセシビリティ向上にむけた取り組み」では、だれもが美術館やアートとの関わりができるよう現状の課題を調査し、アクセシビリティを向上する資料やツールなどを開発。

ソーシャルストーリー
(主に発達障害のある方と家族に向けた美術館案内)
・2022年度に全国立美術館7館分を制作
・2023年度は、国立美術館での活用を進めるとともに、全国の美術館への普及のために関係者向けのオンライン講座を検討中

 片岡真実・国立アートリサーチセンター長のコメントは以下の通り。

「世界の政治、経済、社会が複雑さや不確実性を増し、包摂性、ダイバーシティ、サステナビリティなどの追求が分野を超えた地球規模の喫緊の課題となっています。美術や美術館を取り巻くグローバルな動向を踏まえ、我が国のアートが持続的に発展していくために、アートを社会にますます広く浸透させ、同時に専門性を深めるためのプラットフォームとして、国立アートリサーチセンターの活動はこれから始まるところです。さまざまな声を反映し、学びと議論を重ねながら、日本のアート振興のために何ができるのか、みなさんとともに考えて参りたいと思います」

■組織概要

名称
 独立行政法人国立美術館国立アートリサーチセンター
英語名称
 National Center for Art Research
略称
 NCAR
沿革
 2021年3月5日 「アート・コミュニケーションセンター」(仮称)設置準備室開設
 2022年6月22日 組織名称を「国立アートリサーチセンター」(仮称)に変更
 2023年3月28日 「国立アートリサーチセンター」設立(予定)

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