Fab 16 | TSMC
台湾の半導体メーカーTSMC(台湾積体電路製造)が、日本への投資を強めている。
TSMCは熊本県での工場建設で注目を集めているが、米ウォール・ストリート・ジャーナルは2022年10月19日、同社が日本での生産能力の増強を検討していると報じた。
熊本県菊陽町で建設が進んでいる工場で同社は「最先端ではない」(同紙)半導体を製造すると見られているが、日本での生産能力の増強が決まった場合、「より先端的な」半導体も製造すると観測されている。
新工場の建設が明らかになった時点では、22/28nmのチップを製造するとされていたが、2022年2月には、新たに12/16nmのチップを製造する能力を備える方針が明らかにされた。今回の同紙の報道によれば、さらに生産能力が増強される可能性が出てきた。
同紙は生産拡大を検討する理由について、「地政学リスクを低減するため」と報じているが、日本企業への安定的な半導体の供給につながるとして、日本側からの期待も高い。
地元の熊本県での期待はさらに熱を帯びている。工場予定地周辺の道路整備や鉄道延伸計画、住宅建設など関連の事業が一斉に動き始めている。
建設の4割超を国が助成
熊本の新工場建設が発表されたのは、2021年11月のことだ。
1年近く前のことになるため、改めて工場建設の枠組みを確認しておきたい。
TSMC、ソニーグループの半導体メーカー「ソニーセミコンダクタソリューションズ」(SSS)とデンソーの3社が、新会社Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(JASM)を合弁で設立し、新工場で半導体を受託製造する。
SSSがソニーグループ、デンソーがトヨタグループであることを踏まえれば、熊本工場は主にソニーやトヨタ自動車向けの半導体の製造を受託することが見込まれる。
今回の新工場建設で重要だと思われるのは、日本政府が強力にバックアップしている点だ。
経済産業省が2022年6月17日に、新工場の建設計画に対して、最大で総額4760億円を助成することを決定した。
経産省が公表した「整備計画の概要」によれば、建設に必要な資金は「約86億ドル規模」とされる。
発表時点のレートで日本円に換算すると、約1兆1448億円になるが、新工場建設にかかる資金の4割超を国が支援することになる。
道路、鉄道、住宅建設……動き出した周辺開発
政府による支援は、新工場の建設だけにとどまらない。
新工場の建設地は、菊陽町と合志町に立地する工業団地「セミコンテクノパーク」の隣接地だ。
このセミコンテクノパークでは、朝夕の通勤時間帯に交通渋滞が慢性的に起き、新道路建設の必要性が熊本県議会などで議論されてきた。
交通渋滞はすでに起きている問題で、TSMCの新工場建設が直接の原因ではない。
しかし、新工場が操業を始めれば、渋滞がさらに悪化することが見込まれるとして、こうした新道路建設も進展する可能性が高そうだ。
さらに、セミコンテクノパークと熊本空港を結ぶ鉄道路線の整備計画もある。
熊本県は、熊本と大分を結ぶJR豊肥本線と阿蘇くまもと空港を結ぶ空港アクセス鉄道の建設を目指しているが、新工場建設の発表後まもなく、セミコンテクノパークと空港を結ぶルートへの変更について検討を始めている。
10月18日には、熊本県の蒲島郁夫知事が、斉藤鉄夫国土交通省に支援を求める要望書を手渡している。
大学には「半導体学部」
10月13日には、地元の熊本大学が、2024年春に半導体人材を育成する「情報基盤融合学環」(学部に相当)を設置すると発表した。
新しい学部は、半導体工場で製造管理の即戦力を要請することが目的とされる。さらに、地元では、台湾から技術者ら300人ほどが熊本に転勤してくることが見込まれるため、その子どもたちの教育環境の整備も議論されている。
10月18日には熊本市が、TSMCなど半導体関連の産業に従事する人たちの需要を見込み、マンション建設用地として市が所有する土地を民間企業に売却すると発表している。
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