自動走行ロボット実証実験

自動走行ロボット「プレ実験」ソフトウェア開発担当者に話を聞いた!

文●鈴木ケンイチ 編集●ASCII STARTUP

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この記事は、国土交通省による歩行空間データの活用を推進する「バリアフリー・ナビプロジェクト」に掲載されている記事の転載です。

 6月に実施された自動走行ロボットとの連携の実証実験で、プログラム開発の担当者に採用されている技術や今後の展望などを聞いた。

 2022年6月、東京の赤羽を舞台に、自動走行ロボットを使う実証実験の「プレ実験」が実施された。国土交通省が主導する『バリアフリー・ナビプロジェクト』の中で、配送を行う自動走行ロボットに「歩行空間ネットワークデータ」を利用しようという試みだ。秋には「本実験」が予定され、今回は、その準備となる。実験での自動走行ロボットのソフトウェア開発を担当した株式会社ティアフォーの岡崎慎一郎氏に話を聞いた。

クルマと同じソフトウェアでロボットを動かす

――今回の実証実験プロジェクトの体制は、どのようなものなのでしょうか?

ティアフォー・岡崎氏(以下、岡崎):プロジェクトは、国土交通省の委託を、株式会社パスコとYRPユビキタス・ネットワーク研究所が受けています。そして、その下で、私たち株式会社ティアフォーがロボットのオペレーションを担当しています。

株式会社ティアフォー 事業本部 Vice President 岡崎慎一郎氏
ティアフォーは、自動運転のためのオープンソースソフトウェア「Autoware」を手掛ける日本発のベンチャー。

――ティアフォーは、クルマの自動運転ソフトウェア開発で知られる会社ですよね。今回の配達用の自動走行ロボットにも同じ技術を使っているのですか?

岡崎:そうです。クルマと同じソフトウェアを使っています。

――ちなみに、自動運転に必要な要件には、どのようなものがありますか?

岡崎:ティアフォーの場合、高精度の3次元地図と、それとマッチングさせるためのLiDAR(レーザー検知のセンサー)が必要です。逆に言えば、その2つがあれば、自動運転ができます。自動運転自体は、「認知」「判断」「操作」という機能に分かれており、センサーの情報等から、ソフトウェアが障害物等の「認知」、車両の走行方法を「判断」し、そして車両の「操作」をソフトウェアが指示します。

自動走行ロボットは、センサーで周囲の障害物などの認知を行う

――LiDARはクルマにも使われる高性能で高額なセンサーです。こうした低速で動く自動走行ロボットにはオーバースペックすぎるのではないでしょうか?

岡崎:もちろん、自動運転にもいろいろな方法があります。LiDARを使わない方法もあります。我々としては無人のレベル4自動運転をしようというときには、LiDARをベースに使うのが一番適していると考えています。現時点では価格が課題ですが、LiDARの価格はこれからさらに下がっていくと考えており、私たちは基本的にLiDARをベースにしています。

――今回行われた「プレ実験」の目的は何になりますか?

岡崎:秋の「本実験」のために必要な、高精度の3次元地図を作ることが目的のひとつとなります。実際のコースを、ロボットを走らせながらLiDARで周囲を計測しました。そのデータを元に高精度の3次元地図を作ります。また、走行の途中に周囲を実測していたのは、歩道の幅の余裕などを確認するためです。具体的に歩道のどのあたりを、自動走行ロボットに走らせるのかを検討するには、より正確なデータが必要だったためです。また、段差などを、実際にロボットが走れるのかの確認も含まれています。

――実験はうまくいきましたか?

岡崎:はい。必要なデータを取れましたし、ロボット自体も走れないところはありませんでしたので、満足できるものとなりました。

今回のプレ実験では、URヌーヴェル赤羽台団地内で実施。実際に住民が暮らす生活圏内で、どのような地形や勾配、段差などがあるかを調べた

秋の「本実験」では、ロボットが自動でエレベーターを利用!

<――今回は人が操作を行っていましたが、秋の「本実験」では、ロボットを実際に自動走行させると聞いています。それに向けた課題はどのようなものになるのでしょうか?/p>

岡崎:ルートが駅の近くということで、歩行者や自転車の方が多くいらっしゃいますが、安全に、円滑に走行できるように調整をしていく必要があります。また、このルートではエレベーターを利用します。エレベーターを使って自動走行ロボットを走らせるのは、弊社ではあまり多くないケースなので、本番までにオペレーション方法を含めて検討していきたいと思います。

――どうやってロボットがエレベーターを使うのでしょうか?

岡崎:具体的には、エレベーターをクラウドから制御する予定です。ロボットがエレベーター前に着いたら、制御システムが自動でエレベーターを呼ぶことになります。そのためのエレベーターの改造も予定しています。

今回は人がエレベーターの制御を行ったが、秋までにエレベーターを改造して本番実験ではロボットの走行と連携した自動制御を行うという

――こうした自動走行ロボットを使ったサービスの将来像はどのようなものなのでしょうか?

岡崎:なぜ、ここ赤羽のUR団地で実験を行うのかということそのものが答えになっています。今、URとINIAD(東洋大学情報連携学部)は「2030年に団地はどうあるべきか」をOpen Smart UR研究会で検討しています。そのコンセプトに「AIが同居人」というアイデアがあります。URの団地に住んでいる方が、コンビニエンスストアに水を注文する。するとロボットが自動で運んでくる。そんな将来像を描いているんです。それを見据え、我々は技術的にどのようにしたらいいのかを考えています。

――それはここ赤羽だけに限った話ではないですよね?

岡崎:その通りです。ここ(赤羽のUR団地)だけでなく、全国あちこちに似たような場所が存在しています。そういった場所でも運用ができるようになります。もともとの発想として、車いすが通れるところなら自動走行ロボットも走れるだろうということもありました。その意味で、バリアフリーが進んでいるUR団地は実験の場所として適しているんです。

――なるほど。赤羽で実現できるなら全国展開できるというわけですね。今日の「プレ実験」の様子は、街中を行く方に非常に注目されていました。そういう方々としては、きっと「いつ実装されるのか?」が気になっているはずです。

岡崎:難しいところですが、まず、法的なルールという点では2023年ごろにはだいぶ整って、自動走行ロボットが走らせやすくなっていると考えています。もちろん技術的には、まだクリアすべき課題があります。実際に街に自動走行ロボットが走って皆さんが利用できるようになるのは、社会のニーズの高まり次第かなと思います。フードデリバリーや小売りの配達のニーズが一番大きいと思いますが、そのニーズが高まったときに、必要な自動運転技術を提供できるように準備しておくのが大事だと考えています。そのためにも秋の「本実験」には、しっかりと用意していきたいと思います。

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