業務を変えるkintoneユーザー事例 第87回
大阪の鍼灸院・整骨院が挑んだkintoneを根付かせるまでのストーリー
壁があるからがんばれる!ポジティブ広報が挑んだkintone定着への道
2020年08月21日 09時00分更新
5月に行なわれたkintone hive osakaのセッションの前半は、3社中2社が鍼灸院・整骨院だった。最初に登壇した大阪のあい・メディカル前田景子氏は、広報というユニークな立場でkintoneの利用拡大と定着に取り組んできた経験を披露した。
「kintoneをもっと活用したい」という社長の声に応える
あい・メディカルは、手の施術にこだわった「あい鍼灸院・整骨院」という鍼灸院・整骨院を大阪市内中心に運営している。登壇した前田景子氏の役職は広報だが、WebサイトやSNSの管理、グッズ制作、店舗ののぼり旗やポスター、名刺のデザインまでなんでも手がけており、今回のkintone導入も業務の一環だという。「広報以外の仕事をすることで、会社をいろいろな面で見られるので、kintoneアプリも作りやすいと思っています」とポジティブなコメントには驚かされる。
前田氏が入社したとき、kintoneはすでに導入されていたが、申請系アプリしかなく、ほぼ寝かされていた状態だった。入社後、社長から「kintoneをもっと活用したいんだけど、どうしたらよいか?」と相談を持ちかけられ、前田氏は旗振り役としてkintone導入を推進することになったという。
最初に立ちはだかったのは「知識の壁」だ。kintoneすら知らなかった前田氏はまずネットでいろいろ調べてみたが、結局よくわからなかった。そんなとき大阪のkintone hiveを知り、とりあえず参加したところ、多くの企業でkintoneをデータベースとして使っていることがわかったという。あい・メディカルでもスプレッドシートで情報を管理していることも多かったので、まずは社員データベースを作ってみることにした。
前田氏が作った社員名簿アプリには社員の顔写真も入れたため、顔と名前が一致するようになった。一覧で「在籍中」「休職中」「退職済」などをソートすることも可能で、申請系アプリとも連携するようにした。また、複数のスプレッドシートにまたがっていた店舗情報もデータベース化し、kintoneでつねに最新の店舗情報を得られるようになった。
情報の一元管理で超える必要があった「技術の壁」
続いて前田氏が進めたのは、情報の一元管理だ。社員名簿アプリにはパスワードを付け、給与情報や資格情報も追加。また、店舗情報に物件情報を追加したところ、移転やリニューアル時期の検討といった経営面での判断材料にも使えるようになったという。
ただし、社員名簿の情報をリッチ化したことで、申請系アプリから社員名簿アプリをルックアップすると、給与情報や資格情報など他の人から見えてしまうという問題が出てしまった。情報は一元管理したいが、見えてはいけない情報をアプリからどのように使うかで「技術の壁が立ちはだかった」(前田氏)というわけだ。
「技術の壁をどのように越えるか?」。ヒントは自身が執筆したkintone hiveの参加レポートにあった。「サイボウズの遠隔支援サービスは技術面で助けてくれると自分が書いていました。これはよいぞと思い、すぐに電話して使ってみました」(前田氏)。
kintoneアプリの画面を共有しながら、アドバイスを得られるとのことで、さっそく聞いてみたところ、レコードの閲覧ユーザーを別途で作成し、見えなければいけない情報に関してはフィールドごとのアクセス権を設定すればいいことがわかった。「一元管理もでき、ルックアップもできという素晴らしい社員名簿のアプリができました。社内でもかなり使われているので、がんばってよかったなと思いました」と前田氏は振り返る。
自己満足だったアプリにマニュアルを付け、管理も複数で
サイボウズの遠隔支援サービスで技術の壁を越えた前田氏はアプリ作りに邁進する。申請業務であれば承認、捺印、有給、発注、データベースであれば社員名簿と店舗に加え、備品、新規物件、自賠責患者、返戻、アカウントリストなど。電話業務の負荷を減らすために問い合わせ業務もkintoneで管理し始めた。
しかし、前田氏は、使われていないアプリがけっこうあることに気がついた。「見やすいようにポータルを整備して、アイコンも入れて、わかりやすくしたやろと思ったんですが、使われていなかった」(前田氏)。そこではたと気づいたのは前田氏が壁を越えて作り手側になったが、ユーザー自身は以前から変わってないということだ。
当時、前田氏が作ったアプリは使いやすかろうということで、ルックアップやアクションボタン、ドロップダウンが駆使されていたが、ユーザーには活用されていなかった。「自己満足だった」と反省した前田氏は、以降アプリとマニュアルをセットでリリースすることにし、ビジュアルで使い方を理解できるように工夫。ユーザーも少しずつ使い始めるようになり、引き継ぎ当初5個だったアプリは60個にまで拡大したという。
とはいえ、60個のアプリを一人で運用・管理するのは大変だ。「アプリは作って終わりではありません。人事異動で申請経路の変更が必要になったり、フィールド追加や数式変更の依頼も来るようになりました」とのことで、久々の壁である「管理の壁」に出会たという。
管理の壁を越えるため、前田氏は各所にサポーターを配置することにした。「総務部に一人、鍼灸接骨部に一人、請求代行部に一人ずつ、勝手に任命しました。でも、みなさん勉強熱心で、いろいろやっていただき、助かっています」とのこと。風通しのいい会社組織を広報として見渡したことで、kintone仲間も増やせたという。kintoneではアプリの更新者がきちんと表示されるので、複数の管理者がいても、問題なく運用できているという。
60個のアプリをどのように整理するか そして衝撃の一言
そして今、前田氏の目の前にあるのは、60個のアプリをどのように使いやすくするかという「整理の壁」だ。すでにポータルもあり、アイコンも作られているのだが、部署ごとに作られていたスペースが有効活用されていないことに最近気づいたという。ただ、kintoneではスペース間でのアプリの移動が難しく、いったんアプリをコピーして、データの移行をエクスポート・インポートを手作業で行なわなければならないため、躊躇しているという。今後はkintone hiveでの知見を元に、スペースの管理だけではなく、アプリによる管理も検討していきたいという。
kintoneの展開を任されて以来、前田氏は「知識の壁」「技術の壁」「管理の壁」「整理の壁」などさまざまな壁にぶち当たってきた。しかし、壁を越えたときの達成感は半端なかった。前田氏は、「kintoneはとても好き。なんなら、壁があるから、がんばれるくらいの感じ」と語る。
終始淡々としたリズムで話をしてきた前田氏は、最後に「いろいろやりたいことはあるのですが、今はライトコースなので、来期はスタンダードコースの予算を取りに行けるようにがんばります」と衝撃の一言。APIやプラグインを使わずにここまで使い込んでいる前田氏もすごいが、ここまでできてしまうkintoneもすごい。視聴者も同じ感想だったようで、画面横に張られたTwitterでも驚きの声があふれた。kintoneでぶち当たる壁の越え方のヒントを得られたポジティブ広報によるセッションだった。
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