Supra、Hayesと初期のモデムメーカーはいずれも消えてしまったが、唯一まだブランドが存続しているのがU.S.Roboticsである。というわけで今回はそのU.S.Roboticsをご紹介したい。
学生時代のマニアが集まり
わずか200ドルで起業
U.S.Roboticsは1976年にイリノイ州のシカゴで生まれた。創業者はCasey Cowell氏。Cowell氏は1975年にシカゴ大で経済学の学士を取得した後、ロチェスター大で修士課程に進むものの1年で断念し、1976年に再びシカゴに戻ってくる。
ここでシカゴ大在学中の友人だったPaul Collard氏やStephen Muka氏の3人と、コンピューター関係の会社を興すことを計画する。というのはたまたま3人ともコンピューターマニアだったからということだ。
その後、やはり大学時代の友人であるStan Metcalf氏とTom Rossen氏も合流して、この5人が創業者ということになった。ちなみに当初の資金は5人が持ち寄った200ドルだったそうで、いくらベンチャーといってもこれはなかなか大変だったようだ。
ちなみに社名は、アイザック・アシモフの傑作のひとつ、“I Robot”(邦題:「私はロボット」)にちなんで“U.S. Robot and Mechanical Men”にしようとしたが、あまりに長いので後半を削って“U.S.Robotics”としたそうだ。もっとも知名度が上がるまでは、本当にロボット関係の会社と思われたようで、それで要らぬ誤解を招いたこともあったらしい。
さてそのU.S.Roboticsが最初に手がけたのは音響カプラーだった。なぜいきなりモデムでないかというと、1976年当時、電話線に直接接続できるのはAT&Tの機械に限られていたからだ。これはFCC(米連邦通信委員会)が、そういう規則を作っていたからだ。
これは日本も同じようなもので、電話回線を購入する場合、かつては電電公社(現NTT)がもっていた電話に限られていた。
家の中に切替器を設けるなどして2台目以上を接続するケースで自由に電話機を選べるようになったのは1957年、モデムなどの非通話端末設備を自分で接続しても良くなったのは1972年、技術基準等に適合する電話機を自由に接続できるようになったのはなんと1985年のことである。
アメリカの方がこのあたりの自由化は早かったのだが、それでも1976年はまだ自由にできる環境になかった。つまり電話機を引き抜いて、そこにモデムを差すというのは(技術的にはともかく)法的な問題でできなかった。
それがゆえに、受話器をセットして、そこでアナログ的に送受信を行う音響カプラー、という形になったわけである。
幸いなことに1976年当時、シカゴにはさまざまな業者や工場がたくさん存在した。プラスチック部品の製造や真空成型、電子部品といった「製品を形成するために必要な生産技術」は全部手近でまかなうことが可能であったという。
同社の最初の音響カプラーは、マホガニー製の鋳型を使って製造され、最終組み立てラインはシカゴのハイドパークにほど近いCowell氏が当時住んでいたアパートの台所だったそうだ。
当初は口コミで少しづつ売れているに過ぎなかった同社の音響カプラーだが、そのうちこれを手にした顧客が「どの端末で使えるか」の情報を共有するようになり、次第に多くの端末と接続できるようになっていったことで、売上も次第に伸ばしていった。
1976年末までに、DEC、Teletype、GE(General Electric)、ADDT(Applied Digital Data Television)、Perkin-Elmerといったメーカーの端末に対応した製品も追加することで、初年度の売上は5万ドルを超えることになった。
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