ASCIシリーズの第2弾は、ASCI Bule Mountainを解説しよう。話は再び1995年に戻る。1995年1月のBishop's LodgeでのミーティングでASCI Redの方針は決まったが、これに続くプラットフォームの話はまだこの時点では決まってなかった。
そこから2ヵ月後の1995年3月9日、LLNLのIBEXルームという巨大(らしい)会議室で再び戦略ミーティングが開催された。
このときの議題はもちろんロスアラモス国立研究所とローレンス・リバモア国立研究所がどんなシステムを構築するべきかという話であったが、もっと広義に、ASCIがMPP(Massively Parallel Processing:超並列コンピューター)のアーキテクチャーのみに頼ってよいのか? という議論も同時に行なわれた。
MPPはコネクションマシンやiPSC/Paragon、あるいはここまで紹介してはこなかったが、いくつかその他の試みである程度検証されたアーキテクチャーではあったものの、それがASCIの目的である「核実験のシミュレーション」に利用できるかという点ではまだこの時点で不明だったからだ。
この時ローレンス・リバモア国立研究所のBill McCurdy博士は、Clustered SMP(クラスター構成のマルチプロセッサー)マシンを強力に推した。
この時の理由を、2005年にJohn Morrison博士(*1)は「確かにMPPは効果的なアーキテクチャーであることは全員が認めていたが、市場がMPPをサポートしていくとは想像できなかった。そこで、我々はもっとマーケットで一般的に広く利用されていた、SMPのクラスター構成を利用するという決断を下した」と説明している。(*2)
(*1) 当時はロスアラモス国立研究所のディレクターだったHassel Dayem博士のスタッフとしてこのミーティングに参加していた。
(*2) “Delivering Insight:The History of the Accelerated Strategic Computing Initiative (ASCI)” P81より。
ちなみにこの時、IBEXルームにあったホワイトボードを使い、先にMPPで行くと決断されたASCI Redのロードマップを赤いペンで、次いでSMPクラスター構成の製品のロードマップを青いペンでそれぞれ書き込みながら議論した。
結果、ASCIはMPPとSMPクラスターの両方のシステムを構築するという決断が下された。また、この際にMPP構成のマシンはASCI Red、SMPクラスター構成はASCI Blueという名前がついたのは、要するにペンの色である。
IBMとSGI/CRAYが候補に残り
2つのASCI Blueが誕生
ASCI Blueに関する提案依頼書は1996年2月20日に公開されたが、これに先んじて1995年8月14日には告知されており、ここで3TFLOPS/systemを実現できるSMPクラスター構成という要求が明らかにされた。
面白いのはこの提案依頼書がこれまでより柔軟だったことである。いきなり最終システムの要求が求められるのではなく、複数の段階を踏んでのシステム提供が可能だった。
最低でもID(Initial Delivery:初期提供)とTR(Technology Refresh:技術更新)の2つのステージが要求され、必要ならさらに段階を踏むことも可能だった。
IDではコンセプトの検証とアプリケーションの早期開発を目的としている。一方TRはIDから2年以内に実施され、IDで提供された機材を最新のものに更新することでシステム要求を満たすという形だ。
提案依頼書の期限は1996年3月26日とされ、多数の応募があった。最終的にIBMとSGI/CRAYの2社の提案が候補に残ることになった。
IBMは同社のSP-2をベースに3TFLOPSを実現するとしており、IDでは既存のSP-2をそのまま提供、RFではSP-2をスケールアップとスケールアウトの両方で拡張するというものだった。
こちらは次回もう少し細かく説明するとして、問題はSGI/CRAYの案だった。SGIがCRAY(正確に書けばCRI:Cray Research Inc.)を買収した前後の経緯は連載279回 で詳しく記している。
買収が行なわれたのは1996年2月のことで、そもそもSGIとCRIはどちらもASCI Blueの提案依頼書に応募すると見られていたから、この合併により新しい提案がなされるとエネルギー省は期待していたようだ。
提案の内容は、まずIDには同社のOrigin 2000という32wayのマルチプロセッサーシステムを、HIPPI(High-Performance Peripheral Interface)を利用してクラスタリングするというものである。TRでは、各々のSMPを4096プロセッサーまで増強するという凄まじいものだった。
技術的にみれば、IBMの側はTRにあたってまったく新しい高性能なインターコネクトを開発する必要があり、これは相応に難易度が高いと見られた。
他方SGI/CRAYの方は、4096wayものSMPが本当に構成できるのかという、これまた技術的な課題を抱えたものであり、両社の提案はどちらも相応に技術的にアグレッシブかつ難易度が高いということで甲乙つけがたかった。
結局エネルギー省の決断は、当初の予算を大幅に増額し、2つのシステムをロスアラモス国立研究所とローレンス・リバモア国立研究所にそれぞれ1台づつ設置するというものになった。
ここでロスアラモス国立研究所にはSGI/CRAYのシステムが設置され、これはASCI Blue Mountainと、一方ローレンス・リバモア国立研究所にはIBMのシステムが設置され、これはASCI Blue Pacificという名前が付く。ASCI Blue Pacificの話は次回するとして、ここからはASCI Blue Mountainの話に絞る。
(→次ページヘ続く 「Power Challangeの後継となるOrigin」)
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