Samsungが7月末、初のTizenスマートフォンとなるはずの「Samsung Z」のロシアでのローンチ延期を発表した。理由は「アプリエコシステム強化のため」とのことだが、Tizen Associationの主要メンバーであるSamsungがアプリエコシステムの状況を把握していないはずはない。
それだけが原因ではないのではと勘ぐりたくなるが、ともかくもTizenのイメージがまた悪くなったことは誰もが認めるところだろう。
ロシアでも延期となったTizenスマートフォン
スマートフォンの短い歴史の中でも、ここまで端末ローンチが延期したOSはないだろう。Samsungは6月に明らかにしていた「Samsung Z」のロシアローンチを延期すると7月28日に発表した。当初の予定では、第3四半期にロシア市場で発売となっていたが、これが無期限に後伸ばしになる。SamsungはTizenエコシステムを理由に挙げ、「Tizen Associationのメンバーと積極的に協力してTizen OSとTizenエコシステムの両方の開発を進めていく」との公式コメントを出している。
予兆はあった。発表の場となるはずだった7月前半開催のモスクワでの「Tizen Developer Summit」でSamsung Zは登場せず、「スマートフォンは、ユーザーに完全なアプリのポートフォリオを提供できる段階になったら、ロシア市場に登場する」と語っていた。
イベントでは当然ながら集まった約150人の開発者にアプリ開発を奨励したようだが、Samsungのロシアの幹部が述べたという発言が悲しい現状を物語っている。「Tizen向けにアプリを開発するアドバンテージは、プレミアムデバイス(=Samsung Z)上に表示される半分空っぽのアプリストアの上位に、開発したアプリが並ぶことだ」。
そもそもロシアというのも不思議だったが、それすら変更の末だ。Samsungは5月にロシアとインドの2市場でのローンチを発表しており、その後にロシアに絞り込んだ。このように不可解な部分が多いSamsung Zのローンチだが、延期となったことで市場のイメージは悪い方向に向かってしまった。
Tizenの3年間は黒歴史だらけ?
Tizenの歴史は延期の繰り返しだ。2011年秋、IntelとSamsung、それに非営利団体Linux FoundationがTizenを立ち上げてから3年近く、Tizenベースの製品はカメラとスマートウォッチというニッチ分野にとどまっており、いまだにスマートフォンは登場していない。
スマートフォンについては2013年2月の「Mobile World Congress」で、NTTドコモ、Orange(フランスの大手キャリア)、Samsung、Intelらがプレス向けのイベントを開催し、NTTドコモは発売時期を2013年秋とした。だがTizenスマートフォンは待てど暮らせど登場せず、NTTドコモは最終的に2014年1月に無期限で見送ることを発表した。
一方で、同じ2013年のMWCで気勢をあげたMozillaの「Firefox OS」陣営は(販売台数はともかく)順調に計画を進め、欧州、南米、そしてアジアと世界地図を少しずつ塗っている状態だ。新しいモバイルOSではこのほかにもJollaの「Sailfish OS」とCanonicalの「Ubuntu for phone」があるが、主要オペレーターとメーカーが参加している点ではTizenとFirefox OSが有力視されていた。
しかし、Jollaは2013年11月に端末を発売し、今年7月には香港ローンチも発表。Ubuntuも中国とスペインで地元メーカーとの提携を発表し、秋のローンチを計画している。Samsung Zは年内に登場しないという憶測もあることから、どうやら4つのOSのうち、最も有力企業が集まっているようにみえたTizenが最後尾となってしまう可能性は高そうだ。
Tizenそのものについて言うなら、Tizen Associationのプロジェクトの進め方も気になる。今年2月のMWCでSamsungはTizenを搭載した「Gear 2」を発表したが、発表当日の早朝までTizenチェアマンの杉村領一氏(NTTドコモ プロダクト部技術企画担当部長)は知らなかったと語っていた。
Samsungの市場での力があまりに強く、プロジェクトとして機能しているのかが気になる。なお、Nokiaがまだ最大手だった時、自社プラットフォームとして育てようとした「MeeGo」(Tizenの前身でNokiaがIntelと立ち上げたオープンソースのモバイルOSプロジェクト、Tizen同様にLinux Foundationがホスティングしていた)はうまくいかなかった。Tizenを採用した製品にコミットしているメーカーがSamsung以外にない点も、Nokia以外に製品が登場しなかったMeeGoと類似している。
(次ページでは、「シェア低下のSamsungは不振から脱出できる?」)
この連載の記事
-
第341回
スマホ
世界で広がる学校でスマホを禁止する動き スマホを使わない時間を子供が持つことに意味がある? -
第340回
スマホ
対米関係悪化後も米国のトップ大学や研究機関に支援を続けるファーウェイの巧みな戦略 -
第339回
スマホ
ビールのハイネケンが“退屈”な折りたたみケータイを提供 Z世代のレトロブームでケータイが人気になる!? -
第338回
スマホ
ファーウェイはクラウドとスマホが好調で大幅利益増と中国国内で復活の状況 -
第337回
スマホ
米司法省、アップルを独禁法違反の疑いで提訴 その中身を整理する -
第336回
スマホ
Nokiaブランドのスマホは今後も出される! バービーとのコラボケータイ、モジュール型などに拡大するHMD -
第335回
スマホ
ファーウェイスマホが中国で好調、次期HarmonyOSではAndroid互換がなくなる!? -
第334回
スマホ
Nokiaのスマホはどうなる!? HMD Globalが自社ブランドのスマホを展開か -
第333回
スマホ
アップルがApp Storeで外部決済サービスを利用可能に ただし手数料は27% -
第332回
スマホ
米国で特許侵害クロ判定で一時は米国で販売停止のApple Watch、修正は認められるか? -
第331回
スマホ
2023年は世界で5Gが主役になった年 世界の5G契約数は16億に - この連載の一覧へ