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仕事と生き方を変える、著名人の意見 第14回

社内の男女関係、人事はどう見ている?

男女関係と人事

2012年01月17日 09時00分更新

文● 城繁幸

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 ※この記事は城繁幸氏のメールマガジン「『サラリーマン・キャリアナビ』★出世と喧嘩の正しい作法」(「ビジスパ」にて配信中)から選んだコンテンツを編集しお届けしています。

 人間関係濃密な日本企業。セクハラ、職場内恋愛…人事はこれらにどう対応するものなのか?『若者はなぜ3年で辞めるのか?』などの著作で知られる城繁幸氏が様々なケースを紹介する。

 雇用環境が流動的な海外と違い、終身雇用制度はより閉鎖的な人間関係に基づいて成り立っている。それが良いか悪いかは別としても、仕事とプライヴェートの区切りはかなり曖昧で、アフターファイブの飲みニュケーションや社宅カルチャー、社内旅行といった日本オリジナルの文化も多い。実際、日本企業を離職した経験のある欧米出身者にヒアリングしてみると、離職理由の一つに「アフターファイブも含めた濃密な人間関係」を挙げる人は少なくない。

 こういう濃密な人間関係の中で、男女関係で色々なことが起こるのは当然だろう。本来、職場はそういう場所ではないのだが、これはもう終身雇用制度の副産物みたいなものである。というわけで、「人事と男女関係」について考察してみたい。

人事は、男女関係をどう見ているか?

 副産物みたいなものだと分かっているので、基本的におおらかに見ている。新人同士がいちゃいちゃしてても「おまえ生意気だぞ」ということはないし、とっかえひっかえしてるとか、何又かけてるとか評判になっても、なんの問題もない。

 むしろ、一昔前の日本企業は、ムラ社会型組織をむしろ利点だと考えていて、社内結婚を奨励していたほど。今でも調子のよいメーカーでは、そういった風土が残っている(要するに、長期雇用とチームワーク重視ということ)。 だから、気にせず大いに営まれることをおススメする。

人事が対応するケース、無視するケース

 ただし、すべてが許容されるわけではない。当たり前だが、企業コンプライアンスが問われかねないケースでは人事部も動かざるを得ないし、そこまでいかなくても、ムラ社会の掟に反するケースでは人事権の行使もありえる。いつも言っているように、ムラ社会には表と裏のダブルスタンダードがあり、その線引きは明文化されているわけではないのだ。 以下に、これまでに筆者が見聞きしたそれぞれのケースを紹介したい。

酔ってセクハラ→〇

 新人が入社後の打ち上げでハメを外し、酔い潰れた女子社員にセクハラ行為をしたとされ問題に。女性自身も酒席でのことだからと被害届もなかったため、一応社内調査の上、注意。あくまで形式的なもので、同席したその他の新人達の手前、示しをつけた形だ。

 ただし、未来ある新人だからこの程度で済んだという側面もある。これが査定成績が低いor勤務態度に問題がある中堅社員なら、待ってましたとばかりに懲戒解雇の対象となっていただろう。

セクハラ→〇

 派遣社員に対する所属管理職によるセクハラが発覚したケース。

交際を迫り、プレゼントを送る等、ぎりぎりのラインだ(管理者としての立場を利用したと認められればセクハラは成立する)。 ただ、問題の課長は優秀な人材であり、法も犯していないので、派遣社員に違う職場を斡旋するにとどまった。

セクハラ2→〇

 同じ事業部内で、交際申し込みを拒否されたリーダーが私怨を募らせ、無理な仕事の割り振りをしたり人前で失敗を過度に非難する等、過大なストレスを与えて、被害者を休職に追い込んだケース。

 こちらも現役のリーダー職であり、明確に違法行為があったわけではない。事実、事業部サイドはリーダーを全面的に擁護した。こういうケースではたとえ問題アリと判断しても、人事部はなかなか手を出せない。というわけで、やはり被害者側に別の事業部への異動を斡旋するにとどめた。

痴漢→△

 近年、耳にすることの多いケース。違法行為なので、起訴され有罪が確定した段階で懲戒処分の対象となる(まず解雇だろう)。

 ただ、実際にそこまでいくケースは稀で、たいてい示談金で済ませるため、会社側にはわからない。バレたとしても、普通の働きぶりを見せている社員であれば、処分対象にはならないはずだ。 (それでも人事記録は残り、同様の犯罪を起こした場合は処分対象となるだろうが)

不倫、職場内恋愛 →〇

 基本的にノータッチである。たまに人事部になんとかしてくれと関係者からクレームがくることもあるが、個人の問題なので何もできない。人事記録にいちいち「不倫」なんて残している会社もありえない。

 筆者の知り合いの人事マンでも、経験者が複数いるが、立派に働いて出世もしている。 まあ、あまり派手にやってしまうと、幹部候補選抜時などで悪印象となってしまうことはあるかもしれない。

独身、離婚の影響 →〇

 先に述べたように、かつては社内結婚を良しとするカルチャーがあり、30代にもなると所帯を持って当たり前、独身者は幹部候補選抜でマイナス点がつく、というような内規も珍しくなかった。

 ただ、そういった話は少なくともここ10年は聞いたことが無い。個人のライフスタイルの変化は、ムラ社会よりも強い流れのようだ。夫を支える専業主婦という昭和型家族モデルの崩壊も、ムラの流動化を後押しするに違いない。

職場内結婚 →〇

 社内結婚自体に問題はないけれども、同じ職場内にカップルがいるのは嫌がる企業が多い。 結婚はもちろん同棲でも、どちらか一方を異動させるという話はよく聞く。 たまに「社内結婚のせいで左遷された」ととらえる人もいるが、理由はもっと単純で、仕事に私事を挟まれたくないから、一方を移すというだけのことだ。左遷でも何でもないので気にする必要はない。

 ちなみに、他に移しようが無い研究職等の場合、結婚後も離婚後も同じ職場で働いていたりするから恐ろしい。

 こうしてみると、社内の掟は「仕事第一」でほぼ一貫しているのがよくわかる。 法律という社会のルールには従わざるを得ないが、出来れば社内の掟を優先したい。各種ハラスメントというのは、そのギャップに自生するカビのようなものだろう。

 仮に巻き込まれてしまい、社内の掟のせいで公平な処置が期待できそうにない場合は、人事部に直接相談するのがおススメだ。ムラの掟を考えれば相手側の処罰まで求めるのは難しいかもしれないが、職場の異動等、人事部なりの救済案を実施してくれるだろう。以前も述べたように、人事部はこの手のおせっかいを焼くのが意外と好きである。

今週のポイント

  • 流動性の低い組織は、その副産物としての男女関係には大らかな面がある。
  • 社会通念上のルールよりも、社内ルールが優先される。それは"仕事第一"。人事部もそれには逆らえない。
  • ただ、対象者の異動といった形での仲裁は可能である。

【筆者プロフィール】 城 繁幸

 人事コンサルティング「Joe's Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』等。 「ビジスパ」にてメルマガ「『サラリーマン・キャリアナビ』★出世と喧嘩の正しい作法」を執筆中。

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