コルグの製品は常に予想外の角度からやってくるが、ある日、iPadで「KORG iMS-20」を起動したら、こんな画面が表示された。
背景にはノブとレバーの並ぶ機材が一部だけ写されており、「CUTOFF」「PEAK」というシンセサイザーのパラメーターらしき印字があった。4月6日と言えば、ドイツで毎年行なわれる楽器ショー「フランクフルトミュージックメッセ」の開催日。ここにKORGが何らかのアナログ機材を持ってくるのだろうと、世界中のシンセマニアの間で話題となった。
そして実際にお目見えしたのが、件の「monotribe」であった。子供用の弁当箱ほどの筐体に、シンセサイザーとリズム音源を内蔵し、それを8ステップのシーケンサーで駆動するという、同社の「Electribe」に近いの構成のグルーヴボックスだ。
ただし、その音源はリズムも含めてすべてアナログ。シンセサイザー部は1VCO/1VCF/1VCA/1LFOという構成で、去年発売されたミニチュアアナログシンセの「monotron」を彷彿とさせる。ただし、VCO波形はノコギリ波、三角波、矩形波の3種類が選べ、6段階のオクターブレンジを切り替えられる。変調用のLFO波形もVCOに準じたバリエーションがあり、EGのカーブも選べるようになったし、音源にはノイズも加わった。小さいながらもゴージャスな仕様に進化したと言える。
それを設定する操作系がメカニカルな回転ノブとレバーというのも、今時の機材としては珍しいところ。ただし音程入力はmonotronと同じリボンコントローラーで、白鍵と黒鍵は画に描かれているだけ。正確な演奏性は期待できないと思いきや、この画に描かれた鍵盤は「ド、ド♯、レ、レ♯、ミ、ファ、ファ♯……」と、安定したピッチでクロマチックスケール(半音階)の演奏ができる。驚いたことに、発音が無段階だったmonotronのリボンコントローラーのように、適当に押さえても調子外れになることがないという。
秘密は往年のアナログポリフォニックシンセのように、オートチューニング機能を持っていること。アナログ音源ながら、VCOに送るCV(制御電圧)はデジタルで制御されていて、リボンコントローラー上の位置を音程のデータに置き換えているらしいのだ。
ACアダプターの他、単3形電池6本でも動作し、本体に小型スピーカーも内蔵しているので、スイッチを入れればどこでも演奏できる。電力事情の先行きが読めない昨今、電力会社が電気の供給を止めても、電池だけで14時間は動作するというのは素晴らしい。
このmonotribeをミュージックメッセで見たらしい人物が、Javaを駆使してmonotribeのシミュレーターを公開している(こちら)。操作と音の変化の関係、シーケンサーの動作などは、どうやら本物そっくりに仕上がっているらしい。
発売は2011年5月28日。リテールプライスも出始めていて、2万円を切る価格で売られるようだ。これは安い。ただ発売前なので、実際にどんな音が出るのかが分からない。それにmonotribeは同期信号の入出力端子を持っていて、monotribe同士や他の機材との同期ができると言うが、その動作もシミュレーターでは確認できない。
そこで東京は稲城市にあるコルグ本社にお邪魔し、開発のお三方とともにmonotribeをいじり倒してきた。シンプルな作りに見えるが、実際には相当複雑なことをやっていることに驚いた。
取材に応じてくれた株式会社コルグの皆さん
高橋達也さん monotribe 開発担当
坂巻匡彦さん monotribe 企画担当
大田祐樹さん monotribe サウンド・デザイン担当
(次ページに続く)
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