「光の道」についての新提案
このコラムでは今までソフトバンクの「光の道」について、提案の事業主体が不明だと批判してきたが、10月25日にソフトバンクは新提案を発表した。今回は初めて「アクセス回線会社」の株主が明記されたが、国が2000億円、NTT、KDDI、SBが1000億円出資することになっている。これでは半官半民の国策会社になり、国やNTTが合意しない限りソフトバンクの計画は実現しないが、そういう合意が成立する可能性はゼロである。
しかし孫正義社長は、記者会見で「国やNTTが一緒にやらないのであれば、ソフトバンクが1社でもやる」と表明した。これに対して私が「ソフトバンクがNTTを買収しては?」と言ったところ、孫社長は「池田さんが政府を説得して来れるなら買収資金は用意しますよ」と答えた。これはNTT法を廃止してNTTの買収が可能になれば、という意味である。
私が政府を説得できるとは思えないが、政府の中でそういう検討は進んでいる。総務省が次の通常国会に出す予定の情報通信法案は、当初はNTT法や放送法などの通信・放送関連9法をすべて廃止して総合的な法体系に統合する予定だった。しかし関係業界の反対で、NTT法も放送法も電気通信事業法も残ることになり、情報通信法はほとんど中身のない法律になってしまった。
ところが先ごろ閣議決定された放送法の改正案では、放送業界が強く反対した番組制作部門とインフラ部門の「水平分離」が可能になるなど、情報通信法の考え方が盛り込まれている。特にNTTだけを特殊会社として規制する法律は、政府の裁量が強いため好ましくないという意見が政府部内でも多い。NTTもかねてから「特殊会社ではなく普通の会社として規制してほしい」と要請しており、むしろNTTの独占力が強まることを恐れる同業他社がNTT法の廃止に反対してきた。
したがってソフトバンクがNTT法の廃止に賛成なら、あとはKDDIや電力系の合意が得られれば廃止は可能である。このうち電力系はNTTのインフラを利用していないので、廃止に賛成する可能性もある。残るのはKDDIだけだが、情報通信法にシェアの大きいインフラにはインフラの開放についての非対称規制を盛り込むなどの措置をとればよい。ソフトバンクがNTT法の廃止を求めれば、総務省も含めて多くの専門家が賛成するだろう。
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