手軽さや価格を重視した一般消費者向けのオーディオ機器を「ゼネラルオーディオ」と呼ぶが、いまやゼネラルオーディオの代名詞と言えばパソコンである。
日本レコード協会が2月25日に発表した統計調査(2009年度「音楽メディアユーザー実態調査」)によると、パソコンで日常的に音楽を聴くと答えた回答者が最も多く、全体の57.5%。2位のコンポ型ステレオ(48.2%)を大きく上回った。
ゼネラルオーディオと対になる概念と言えば「Hi-Fi」(ハイフィデリティ)である。
メタタグを使った検索やアルバムをまたいだプレイリストの作成など、利便性の面で大きな魅力を持つパソコンだが、高音質な音楽再生にパソコンを使うことには、まだまだ懐疑的な意見を持つ人が大半だろう。確かにパソコンが放つ騒音や振動。さまざまな電気的なノイズは音質に悪影響を及ぼす。
一方で、音楽制作のプラットフォームとしてパソコンは広く扱われており、音楽CDの16bit/44kHzを上回る「より情報量の多い」データを扱うことができる。スタジオマスター音源などと呼ばれる、こうした音源を販売するサイトをオーディオメーカーが開設する例もあり、記録フォーマットに関してはCDの情報量を超えた新しい世界が広がりつつある。
しかし、その潜在力を活かす再生環境は、長期に渡って用意されなかった。
2007年秋、時代が動いた
こうした状況に大きな変化が生まれたのが3年前だ。2007年秋、イギリスの高級オーディオメーカーLINNが「KLIMAX DS」という画期的なネットワークオーディオプレーヤーをリリースしたのだ。
価格は294万円。ハイエンド・オーディオシステムに組み込むことを前提としており、パソコンに保存した音源をSACD/CDに変わる次世代のソースとして位置付けた。パソコンとそこから派生したネットワークオーディオの世界に、「最高級の音質」という新たな評価軸を追加したと言っていい。
KLIMAXは同社フラッグシップ機のシリーズ名。DSはDigital Streamの略である。DLNAの技術を利用して、NASやパソコンに保存してある楽曲データを、高性能なDACに読み込んでアナログ信号に変換する。PCとネットワーク関連の標準技術を応用しているが、ノイズや干渉を極限まで排除した純粋なオーディオ機器として設計されている。
LINNはマルチルームシステムに古くから取り込んでおり、ネットワークに目を付けたきっかけも、部屋ごとに設置された複数のオーディオ機器を集中的に管理するために有効と考えたためだった。しかし、その取り組みを進めるうちに、その利便性の高さとオーディオ的な素生の良さに気付いた。
TCP/IPは信頼性の高いエラー訂正の仕組みを持ち、データを欠損なく確実にプレーヤーに伝えられる。光学ディスクの読み取りに派生する音質低下の要因(読み取りエラーやジッター、ドライブの振動、ピックアップの劣化など)をなくせるのである。
多くのオーディオファイルがKLIMAX DSに関心を持った背景には、この音の良さがあった。両立しないと思われていた2つの要素──パソコンの「利便性」とピュアオーディオの「音質」を、高い次元で融合したことが画期的だったのだ。
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