アドビ システムズ(株)は16日、都内の本社会議室に報道関係者を集め、企業の文書(document)の“記録(records)”化における電子文書フォーマット“PDF/A”の標準化についての説明を行なった。
説明会には記録・情報管理に関して、相互の情報交換、法規制への対応などを図る非営利団体“ARMA International”の東京支部理事兼自治日報顧問の西川康男氏、アドビ システムズのマーケティング本部ナレッジワーカー部部長の市川孝氏が出席し、それぞれ記録管理の重要性と、それに関してのPDF/Aの有効利用・標準化について説明した。
ARMA International 東京支部理事兼自治日報顧問の西川康男氏 | アドビ システムズ マーケティング本部ナレッジワーカー部部長の市川孝氏 |
まず西川氏が個人情報などの漏洩事件や情報公開制度での各省庁の“文書不存在”問題などによる法規制の強化(新会社法における内部統制システムの義務付けなど)について説明し、それに対し経営者が財務報告に係わる内部統制を評価するためには“文書化”が必要であり、記録管理の国際標準規格“ISO15489-1”での定義に基づいて、後から修正・変更ができない“記録”としての文書化が求められていると説明。
規制強化に合わせて新しい記録管理プログラムの構築が必要 | 西川氏は「“文書”と“記録”の違いをきっちりと認識することが大事」と説明した |
さらにIT社会となった現在では、物理的な文書のほかに、電子文書としての記録も必須と説明し、長期保存や多様なプラットフォームでの閲覧が可能なPDF/Aが、文書の安全な電子化において適合していると語った。
また、電子文書で保存する際の課題として、
- 真正性(Authenticity):記録が本物であること
- 信頼性(Reliability):許されないものからのアクセスの禁止
- 完全性(Integrity):記録媒体の経年齢化、消失防止、改ざんの防止と改ざんの事実の判断ができること
- 利用性(Usability):検索できる機能を有すること
の4つが挙げられ、PDF/Aではこのうちの真正性と完全性、利用性の3つが適合していると説明。信頼性については、アクセスを禁止できるようなシステムで対処するのが好ましいと語った。
電子文書の4つの課題のうち、3つがPDF/Aで適合 |
最後に「欧米では、政府やビジネスでの戦略的な記録管理の適用が始まっているが、日本では国際標準化に遅れていることもあって、まだまだこれからであり、来たる電子化社会を支えるためにも早急な対応が必要である」とまとめた。
次に市川氏がPDF/Aの技術的な仕様について説明した。PDF/Aは、PDF 1.4をベースにした“長期保存のための電子文書フォーマット”であり、PDF 1.4の一部(サブセット)である、と説明した。長期保存や可読性を妨げるような機能を制限しており、万が一パスワードを紛失した場合に読み出せなくなってしまう暗号化や、外部リンク先の情報をPDF内に表示するなどの“PDF単体で完結していない処理”は禁止事項として設定されている。
PDF/AはPDF 1.4に包含される | ただ、PDF/Aは通常のPDFに比べて、多くの制限事項や禁止事項が設定されている |
そして現在、PDF/Aは2005年9月13日に“ISO 19005-1”として標準化された“PDF/A-1”を経て、視覚的情報を長期にわたって利用可能にした“PDF/A-1b(ISO 19005-1 Level B”、Level Bに加えて、論理構造や意味をつけるタグを含み、検索などが行なえるようにする“PDF/A-1a(ISO 19005-1 Level A”まで標準化が進んでいる。また、2007年にはPDF 1.6をベースにした“PDF/A-2(ISO 19005-2)”が標準化される予定で、電子署名などの機能が盛り込まれる。
また、PDF/Aは、オーストラリアのビクトリア州公文書館で利用が必須とされているほか、フランス施設省、財務省、厚生省で事実上の標準として採用されているといった例を発表し、こういった行政での利用や公文書としての利用にも適合していると説明した。
2007年にはより進んだPDF/A-2が登場する予定だ | オーストラリアやフランスで公文書としてPDF/Aが採用されている例も |
最後に「PDF/Aは、現在世界的に求められている電子文書による記録管理という概念にもっともよく適合する“より安心”なフォーマットであり、アドビとしても業界からのニーズや要望に基づいて標準化に取り組んでいる」とまとめた。