『AeroFONE Si4905』を使った携帯電話機の主基板のリファレンスデザイン | 片手にSi4905のサンプルボードを手にした、シリコン・ラボラトリーズ副社長 アジアパシフィックリジョンのジェームズ・ベイツ氏 |
シリコン・ラボラトリーズ(株)は1日、GSM/GPRS携帯電話機のコアコンポーネントを1チップに集積したワンチップ・ソリューション『AeroFONE Si4905』(以下Si4905)を発表した。中国やロシア、アフリカ諸国でニーズの高い、40ドル(約4640円)以下の低価格なGSM/GPRS携帯電話機をターゲットとする。現在はサンプル出荷中で、量産出荷は2006年第2四半期の予定。価格は未公表で、評価用プラットフォームは5000ドル(約58万円)。
Si4905のイメージ写真 | Si4905とパワーアンプ『Si4300』、メモリーを実装した携帯電話機のコア部分のサンプル |
GSM/GPRS方式の携帯電話機は多機能・高性能な携帯電話機のニーズが高い日本や韓国ではマイナーな存在であるが、欧米や中国ではまだ広く使われている。Si4905についての説明を行なった米シリコン・ラボラトリーズ社副社長 アジアパシフィックリジョンのジェームズ・ベイツ(James Bates)氏は、低価格なGSM/GPRS携帯電話機市場について、30ドル(約3480円)以下の通話機能のみを備えた“超低価格”携帯電話機や、40ドル以下で低解像度のカラー液晶パネルやFMチューナーなどを備えた低価格携帯電話機は、GSM市場の中では最も伸びていると述べ、市場が拡大している分野であるとした。一方でこうした市場はコストに対する要求が高く、利益が出にくい市場でもあるとした。そしてベイツ氏は携帯式の時計が、大柄の懐中時計から小型の腕時計に変化していった例を挙げ、高集積化されたソリューションの登場により、機能の少ない携帯電話機は小型化が進み、腕時計のように身近なものになるとの見解を示した。
Si4905は、全世界で2億2500万個を出荷したという4バンド対応(※1)のRFトランシーバー“Aero IIトランシーバー”や、ARM9Eマイクロプロセッサーと米Ceva社のCeva Teak DSPコア、GPRSの通信方式クラス1~12に対応するデジタルベースバンドサブシステム、さらに音声サブシステムや電源管理ユニット(PMU)など、従来は多数のチップなどで構成されていた機能を1チップに集積している。特にベイツ氏は、同業他社のソリューションと比較して、PMUまで内蔵したのはSi4905だけであると述べ、高い集積度を実現したことを強調した。
※1 GSM 850、E-GSM 900、DCS 1800、PCS 1900の4種類Si4905のブロックダイアグラム。コアコンポーネントと多彩なインターフェースを1チップ上に集積している(シリコン・ラボラトリーズ配布資料より引用、以下同) | 現在の低価格帯GSM/GPRS携帯電話機と、Si4905を使ったソリューションを比較したスライド。複数のチップと合計200を超えるパーツが、ここまで小さくシンプルにできるとしている |
Si4905と他社製の統合ソリューションの比較表 |
Si4905は0.13μmのCMOS製造プロセスで製造され、パッケージはサイズ12×12mmで459ピンのBGAプラスチックパッケージである。サンプルとして示されたGSM/GPRS携帯電話機のコアとなるボードでは、Si4905とメモリーチップ、パワーアンプのSi4300 PAを実装した状態で、ボードサイズは6.1cm2、コンポーネント数は58個を実現しているという。製品説明会にて配布された資料に記載されていた、Si4905を使用した携帯電話機のリファレンスデザインでは、VGA解像度の内蔵カメラ、128×128ドット/約6万5000色の液晶パネル、IrDAやUSBインターフェース、FMチューナーなどが仕様として挙げられていた。実際にターゲットとなる携帯電話機も、似たようなスペックになると思われる。
またベイツ氏はSi4905の特長として、集積化による部品コストの低減や設計の容易さだけでなく、ソフトウェア開発の期間削減と、入力感度のパフォーマンスを重視して開発されたと述べた。特にパフォーマンスについては、基地局が少なく携帯電話会社が設置コストをかけたがらない中国やインドの地方などでは、感度の悪い携帯電話機は安くても売れないと述べ、電波の弱いエリアでも十分な感度を確保できるパフォーマンスが重要であるとした。
Si4905と他社製ソリューションの受信感度の差を計測したグラフ。E-GSM 900方式では2dB程度優れた感度を持ち、これが大きな差となると言う |
またアプリケーション開発についても、携帯電話機メーカーが既存のアプリケーション資産を流用しやすいよう留意したという。その例として、既存の他社製プロトコルスタックソフトを利用できるように、ハードウェアとプロトコルスタックを結ぶインターフェースを公開したという例が述べられた。アプリケーションプロセッサー用の内蔵CPUも、組込用途ではメジャーなARM9シリーズをベースにしているため、既存資産を流用しやすいとしている。
Si4905ベースの携帯電話機でのソフトウェアアーキテクチャーのブロック図。プロトコルスタックやミドルウェアは、他社製のソフトを利用できる |
Si4905自体はGSM/GPRS携帯電話機向けの製品なので、日本で流通している携帯電話機に使われることはないが、ベイツ氏はSi4905で実証された、同社のCMOS RFトランシーバーを中核とした高密度1チップ化技術を用いれば、W-CDMAなどへの展開も可能として、同様の1チップ化ソリューションを3G携帯電話へも提供できる可能性を示唆した。
AeroFONEシリーズのロードマップ。中国やロシアでニーズの高い、GSM/GPRSベースの多機能携帯電話機向けのソリューションなどが、発表予定となっている |