Java Business Expo/COMDEX Enterpriseレポート機能だけでなく、ライセンスモデルや標準化プロセスなども改良された「Java2」
1998年12月14日 00時00分更新
■2つのイベントが同時開催
12月7~10日、米国New York、Jacob K.Javits Convention Centerで「Java Business
Expo」と「COMDEX Enterprise」が同時開催された。展示会場のSunブース.全体的に展示会場は閑散とした印象だった |
Javaは、最近、従来のThin Client中心の取り組みからEnterprise JavaBeansやIIOP、JDBCをはじめとするエンタープライズ向けの企業情報システムへと主要ターゲットを移しており、ちょうどカバーする範囲が上手く重なりあう形となった両展示会だが、残念ながら展示会場を見る限り、来場者数はあまり多くはないようであった。これには、クリスマス前の一番賑わう時期を迎えているNew
Yorkの宿泊費の高さが原因ではないかとする説もあったが。
COMDEX Enterpriseに出展されていたIBMブース.こちらも満員盛況というわけではなかった |
■JDK1.2は、Java2として公開
Ed Zander氏は,基調講演で「Java2」という新名称と,新しいライセンスモデルを発表した |
8日の基調講演で、Sun MicrosystemsのCOO、Ed Zander氏は、最新のJavaプラットフォームが「Java2」という名称になることと、誰でも無償でソースコードにアクセスできる新しいライセンスモデルを採用することを公表した。これにより、4日に正式版としてWebで公開された「JDK1.2」は、その名称を「Java2」と変更されることになった。しかし、WebサイトにはいまだにJDK1.2の文字があちこちに残っており、やや混乱した印象も受ける。Java2のリリース文では、JDK1.2は「以前のコード名」という説明がなされていたが、Java
SoftwareのPresident、Alan Baratz氏は、この名称変更について「主としてマーケティング上の問題」とコメントしている。
■新しいJavaのライセンスモデル
また、オープンソースの流行と関連して注目されるJava2の新しいライセンスモデルだが、従来からの主な変更点は、(1)ソースコードに無料でアクセスできるようになった、(2)Sunに対するロイヤリティ支払いはソースコードに基づいて作成したバイナリ製品を出荷する時点で発生するもののみとなった、という2点だ。まず、ソースコードへのアクセスだが、これはWebサイトで公開されるソースコードを誰でも無料でダウンロードできるというもの。ただし、単純な「自由にお持ち下さい」という形式ではなく、その場でライセンス契約を「ポイント&クリック」で締結する、ということだ。この契約では、前述の(2)に当たる、バイナリ製品出荷時のロイヤリティ支払いのほか、公開されたソースから作成した製品は、出荷前に互換性テストを受け、合格しなければならないなどの条件がつくという。このほかには特に制約はなく、入手したソースコードを改変することも、改変した結果を第三者に再販することなども自由にできる。改変結果をSunに戻す必要もないし、バイナリ製品をリリースする場合以外には、Sunに対するロイヤリティ支払いも発生しない。従来のライセンスでは、まず最初に契約料を支払い、次にSunから受けるサポートに対するサポート料金を支払い、最後に製品出荷時のロイヤリティを払うことになっていた。新しいモデルでは、最初の契約料がなくなり、サポート料金はオプショナル、つまりサポートを希望する場合は料金を支払ってサポートを受ける、という形になった。最後のロイヤリティ支払いに関しては、金額は以前のライセンス契約での規定と同じで変更はない。
この新しいライセンスモデルの主な狙いは、Javaの開発に関わるデベロッパのコミュニティを拡大する一方、Javaの主要な特徴であるプラットフォーム間でのアプリケーションの互換性の維持を両立させることである。この新しいモデルの採用により、従来クリーンルーム形式でJava互換製品を開発していたベンダーは、苦労してクリーンルーム形式での開発を行なう必要がなくなり、Javaコミュニティの一員として参加する道が開けた。8日夜に開催されたJava2の「Launch Event」では、こうしたクローンメーカー3社(Insignia Solutions、Tao Group、Connectix)が新たにライセンシーとなり、Javaの市場拡大に協力していくと表明した。
このほか、JavaのAPI策定プロセスも変更され、オープンで開発者のコミュニティが自由に参加できる形式に改められた。これは、SunがJavaに対する支配権を強めつつあるとする批判に対応したものと思われるが、プロセス自体が厳密に定義され、公開の場で手続きが進められるとともに、第三者機関にそのプロセスの査察を依頼し、公正な手続きでAPIの作成が行なわれていることを保証するようになった。この変更は、即SunがAPI作成の主導権を失なう結果につながるわけではないが、API策定の各場面で関心のある開発者が意見を述べ、検討する機会が保証されることで、外部の協力を得やすい透明性の高いシステムになったことは間違いない。
■Jiniの正式発表は1月25日
Scott McNealy氏の基調講演には,お約束(?)のベストテンリストが登場 |
9日の基調講演に姿を見せたSun MicrosystemsのCEO、Scott McNealy氏は、新しいJiniのデモを披露した。クレジットカード大の基板にWebサーバの機能を組み込んだもので、これを電源に組み込み、Jiniデバイスをインターネット経由でWebブラウザからコントロールしてみせたものだ。これを応用すると、かつて夢の住宅として語られていたような統合的なホームオートメーションの制御が、たとえばTVに接続したセットトップボックスなどからも可能になる。
Jiniのデモでは,Scottの背後に並んだ各種Jiniデバイスを,Webから制御するシステムが披露された |
なお、McNealy氏はJiniの正式発表について、'99年1月25日という日程を示した。この日に何が飛び出すかも注目である。
■Java関連の主な発表
Java2の新機能「Java3D」を使ったビジネスグラフ表示システムのデモ |
このほか、8日を中心にJava関連のさまざまなリリースがSun
Microsystemsより発表されている。主なものを紹介すると、
・JavaPC 1.1出荷開始 | ||||||||||||||||
・JMAPI(Java Management API)仕様の改良 | ||||||||||||||||
・JavaLoad 1.0(Javaの負荷テスト/測定ツール)のリリース | ||||||||||||||||
・Java Workshop(Java開発ツール)のソースを無償公開 | ||||||||||||||||
・Java3D、JNDI(Java Naming and Directory Interface)、Java Servlet、JavaMail、JMF(Java Media Framework)等の各種API群をリリース | ||||||||||||||||
・Java2対応製品のリリースロードマップ
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■主な新機能
JavaのAccesibility機能を使った「ATM(現金自動引き落とし機)」。開発者の女性は本当に目が不自由な方らしく、足下にいるのは盲導犬だという |
最後に、Java2の主な新機能/拡張/変更点を整理しておこう。
(1)コアAPIの再編成
コアAPIとして、applet、awt、beans、io、lang、math、net、rmi、security、sql、text、util、accessibility、swing、corbaの15のクラスライブラリが編成された。swingなどのような新しい要素も、早速コアAPIに加えられた点は興味深い。
(2)JFCの整備
従来JDKとは別コンポーネントとして提供されていたJFC(Java
Foundation Classes)が完全に統合、実装された。一般には、Swingコンポーネントとして知られるライブラリ群である。
(3)Java Extensions Framework
エンタープライズアプリケーションの配布やJavaプラットフォームの拡張を容易にする「Java
Extensions Framework」がサポートされた。Enterprise JavaBeansのような新技術をコア部分に容易に統合でき、拡張部分がJVMに最初から含まれていたかのような利用環境を実現できる。これにより、コアAPIの仕様をフィックスした上で、新技術の追加が可能になる。
(4)相互運用性の向上
CORBAサポートが追加されたほか、JDBCやJNI(Java Native Interface)により、既存のソフトウェア資産と統合して運用できる。これには、特に企業システムでの利用をにらみ、既存資産を保護しながら段階的にJavaへ移行する道筋を用意することで導入の敷居を下げることも目的にあると思われる。
(5)セキュリティモデルの変更
かつてSandboxモデルと言われていた比較的単純なモデルから、セキュリティポリシーに基づいて柔軟な設定/運用が可能なモデルへと進化した
(6)パフォーマンスの向上
JIT(Just-in-Time)コンパイラの改良などにより、1.1に比べて大幅な性能向上が実現した。一方、HotSpotはJava2と切り離して単独でリリースされることになった。一般ユーザー向けリリースは'99年4月の予定。なお、プラガブルVMアーキテクチャにより、HotSpotがリリースされた際には、ユーザーが簡単にVMを交換できるようになっている。
(7)Java Plug-inによるブラウザサポート
ブラウザに対するプラグインの形でVMの実装ができる。以前「Java
Activator」という名称で提供されていたもの。ユーザーが使用しているブラウザの種類に関わらず、同一のJava実行環境が提供できる。このため、ブラウザベンダーの対応を待たずに、ユーザーが独自にJava2対応を実現することができ、企業ユーザーにとってはJavaの実行環境を揃え、各ユーザーの作業環境を共通化するための強力な手段となるものだ。
(8)Input Method Frameworkのサポート
日本語、中国語、韓国語をサポートする。これが整備されるのを待って本格的にJavaに取り組むと表明していた日本の開発者も多く、逆にJava2(JDK1.2)のリリースが遅れたことで、こうした開発者の参入の機会を逸した可能性もある。待望のJDK1.2がJava2という形で登場したことで、日本のJava市場がどう育っていくか興味深いところだ。