2月18日、19日の両日、兵庫県・神戸クリスタルタワーにおいて“ベンチャースピリットで挑む新たなステージ”と題して、産業復興 NEXT
STAGE 阪神・淡路大震災5周年記念事業が開催された。
初日は午前10時のテープカットに始まり、(財)21世紀ひょうご創造協会地域政策研究所の所長、三木信一氏が開会を宣言した。
「ベンチャースピリッツで重要なのは、各々がかくあらねばならないと言う強い思いである。若い人には、わざ(技術)、美(感動する心)、気の3つを身に付けていただきたい。そして復興の意気をあげ、神戸を情報の発信源とするため、今回のイベントを大いに活用し欲しい」
21世紀ひょうご創造協会地域政策研究所の所長、三木信一氏 |
会場の様子から。学生たちも参加 |
デジキューブの鈴木流ベンチャースピリッツとは?
続いて、(株)デジキューブの代表取締役会長兼CEO、鈴木尚氏により、“21世紀に挑むベンチャースピリット”と題する基調講演が行なわれた。講演は、氏の自己紹介と生い立ちから始まった。デジキューブの鈴木尚氏 |
兵庫県宝塚市出身の鈴木氏は、大学在学中にゲーム会社のスクウェアを2人で創業した。スクウェアと言えば、ヒット作『ファイナルファンタジー』シリーズだけで800万本を出荷している業界最大手のゲームメーカーであるが、鈴木氏はそのゲームをさらに売りたいと思うようになり、'96年に新しい会社を設立した。それが現在のデジキューブである。
鈴木氏は、ソフトウェアの流通としてコンビニエンスストアに目を付けた。POSデータによると、ゲームの半数以上が夜間に売れている。24時間営業のコンビニならば、お客が買いたい時に買えるので、販売のチャンスロスがないというメリットがある。現在、コンビニでの販売“デジ・プレキューブ”では、スクウェア以外のソフトハウスのゲームも販売している。
こういった新しい着目点で、ソフトウェア流通体制に大きな変革をもたらした鈴木氏だが、ほかにもユニークな発想を披露した。
株主の日曜総会を開いたのもスクウェアが初めてだった。これを鈴木氏が発案したとき、すべての役員が反対したという。しかし株主には非常に好評だった。今ではすべての役員が賛成したのだと言っているそうだ。総会には子供たちもやってきて、開発中のゲームで遊べるような工夫をしている。「いつか子供が親にスクウェアの株を買って」とねだるようになれば、という思いからである。
鈴木氏は会場の学生たちに向かって、「自分の考えを安直に合理的だと思わないこと。自分を見詰め直し、できるだけ多くの選択肢を考え、合理的な判断を下していくことが重要だ。また、いろいろな人に会い、いろいろな本を読むことが自分のためになる」とアドバイスをした。
質疑応答の時間には、会場からたくさんの質問があった。その中で、“少年犯罪とゲームとの関連性”という質問について、「すべてTVゲームが原因だというのは短絡的だと思う。ただし、今後のゲーム展開としては、ネットワークを使って人と触れ合えるようなものを考えていきたい」とした。
また、スクウェア創立に対する質問には、「初めからゲームを創ろうという目的があった。タイミング良くパートナーにも恵まれていた。ビル・ゲイツ氏もソフトを作るという目的が見つかったから大学を辞めたんだ」と答え、目的を持って行動することが大切だと説いた。
3つのベンチャーから学ぶ、起業の心構えと発想
第2部のトークセッションでは、NHKのエグゼクティブアナウンサー、宮田修氏をホストに、阪神地域で活躍する3人の若き起業家が情熱を語った。NHKの宮田修氏 |
まず登場したのは、『アドカラックス』というポストカード広告を展開している(株)ドリームアンドモア代表取締役の杉本悟氏。
ドリームアンドモアの杉本氏 |
杉本氏が考え出した事業は、若年層をターゲットにしている企業の広告をポストカードに入れ、彼らが集まるスポットで無償配布するというもの。好きなものを好きなだけ持ち帰れるうえ、部屋に飾ったり人に送ったりできるので、広告に持続性があり、口コミなどでも効果を上げられる。きっかけは、サラリーマン時代に米国へ出張し、無料配布のはがきを見つけたことだという。そのときカード広告という存在を知り、自分で事業にしようと考えた。この事業は広告業が主な目的ではなく、若いアーティストに仕事の場を作ることだと考えている。
今でも飛び込みで営業をしているそうだが、杉本氏自身が人と会ったり、話したりするのが好きだからこそできる事業なのだろう。
続いて、インターネット上のデータをパソコンに取り込み、整理できる『Think
Book』の開発、販売をしているメディアポリス(株)の代表取締役社長、松岡広宣氏が登場した。
メディアポリスの松岡氏 |
このソフトは、論文を書く際の資料を効率良く整理するために発案された。自分で製品をイメージし、それをプログラマーに頼んで開発したという。会社を起こすにあたっては、いろいろな企業セミナーに参加し、たくさんの人と知り合い、兵庫県からの出資を得た。学生で出資を受けた第1号だったそうだ。
現在、インターネットでソフトを販売しているが、やはり効率は良いとは言えない。そこで広告をソフトに表示する仕組みなど、次のステップを考えているという。松岡氏は「自分がやってみたいことがあるなら、少しずつでも行動を起こすことが大事。やってみれば、必ず何か得るものがある」と会場の学生を鼓舞した。
最後に、福祉介護サービス業の(株)シルバージャパン代表取締役、中林弘明氏が登場した。
シルバージャパンの中林氏 |
中林氏は大手コンピューター会社に、以前勤務していた。その後、両親が経営する看護婦家政婦紹介所を手伝っていたが、両親とは別にシルバージャパンを立ち上げた。福祉や介護について暗いイメージがあり、サービスも提供者主導であることに、当初から疑問を感じていたからである。現在は介護サービスのほか、『ケアメイト』という介護事務をサポートするソフトウェアの開発、販売をしている。
「これから老人社会に向かって介護サービス業のマーケットは広がっていくが、多くの業者が参入することで競争も激しくなるだろう。昔に比べて今は介護職に人気がある。そこでイメージ戦略をとり、キャッチフレーズは“温かい心”としている」
中林氏は会場の学生に向けて「すぐに結果を求めるのではなく、その過程をどれだけ作っていけるかが大切。また事業を起こすには、考え方が理にかない、発想力があれば、学歴などに関係なく道が開けていくはず」と語った。