「有害無益」なネット規制
今、自民党と民主党と総務省が、競って「青少年有害情報」を規制する法案を国会に出そうとしている。
特に民主党案と、高市早苗氏を中心とする自民党の内閣部会の青少年委員会が提案している「青少年の健全な育成のためのインターネットの利用による青少年有害情報の閲覧の防止等に関する法律案」は、文言までそっくりだ。このまま放置すると、与野党が一致してインターネットを規制する法案が成立するおそれが強い。
この法案における最大の問題は、フィルタリングなどをすべてのウェブサイト管理者やISPに義務付けたうえで、違反者には6ヵ月以下の懲役、または100万円以下の罰金という罰則を設けているという点だ。
今、行なわれている携帯電話のフィルタリング(関連記事)は自主規制だが、今度の法案では、インターネット上の情報を「青少年健全育成推進委員会」という公的機関が審査し、「青少年有害情報」と認定したものをフィルタリングするという義務をISPに課すことになる。必要な場合はコンテンツの削除を命じたり、立入検査もできる。
また有害かどうかを判定する基準も「〜を誘発するもの」とか「〜おそれがあるもの」など曖昧で、委員会の裁量の余地が大きい。こういう法律が施行されると、個人情報保護法のように、ISPが過剰反応して予防的に怪しいコンテンツを削除する萎縮効果が強い。携帯フィルタリングでさえ混乱しているのに、そういう技術が定着しない段階で公権力が介入するのは、有害無益である。
ネット上では「絶対反対」が圧倒的だが……
この法案について、私がブログの記事で紹介したら、コメントやほかのブログなどで多くの反響があった。そのほぼ100%が「いかなる規制も絶対反対」という意見だ。
しかし、一般の世論は逆だ。内閣府の世論調査によれば、インターネット上の有害情報について「規制すべき」が69%、「どちらかといえば規制すべき」が22%。合計90%以上が、何らかの形で「規制すべきだ」と考えているのだ。
世論がインターネットにこれだけ冷たいのは、「2ちゃんねる」などで人権を侵害する匿名の卑怯者が多いためで、ある意味では自業自得だ。この状況で「何も規制するな」と言っても「4.5%の意見でしょ」と門前払いされるのが落ちだろう。このコラムの第2回でも書いたように、自由とは「やりたい放題」のことではないのである。
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