生活の中のあらゆるところにネットワークに繋がったコンピュータがあり、いつでも誰でも使える「ユビキタス社会」。その実現に向けて、ICタグや無線技術を利用した製品の開発、人体通信の研究などが行なわれている。しかし、開発が進むにつれて、電源をどのように確保するかというインフラの問題が大きくなってきているようだ。そのインフラ問題の解決策として期待されているのが発電技術「振動力発電」である。その研究を行なっている株式会社音力発電の代表の速水浩平さんに「振動力発電」について聞いた。
振動を電気エネルギーに変える
慶應技術大学の藤沢キャンパスの敷地内にある慶應藤沢イノベーションビレッジ(SFC-IV)では、多くのエンジニアによってIT分野における最先端技術の研究が進められている。速水さんもその一人で、振動力発電の研究から、動きや振動を電気エネルギーに変える発電機「発電床」を開発した。振動力発電とは、力を加えて変形させると電圧を発生する「圧電素子」を利用した発電方法で、板状の発電床の内部には、圧電素子が敷き詰められている。上部から振動(力)を加えると、圧電素子が変形して電圧が発生し(圧電効果)、また、変形した電圧素子が元の形に戻るときにも電圧が発生するという仕組みだ。
「振動力発電は、“捨てられているエネルギー”を効率よく回収して利用しようという発想のもとに開発した発電方法です。例えば、人が歩いているときに床に発生する振動は、普段は人に見向きもされずに捨てられていますよね。自動車やトラックが道路を走っているときに発生する振動もそうです。その振動エネルギーを電気エネルギーに変換して有効利用できれば、とてもエコな発電になるというものです」
速水さんはこの発電を「究極のエコ発電」と呼ぶ。この発電方法が優れているのは、人間が生活するあらゆる場面で発生している振動を使って、その場をすべて発電所にしてしまえるという点だ。
「エネルギーを消費する場所の近くで発電できるというメリットは大きいですね。わざわざ遠くの発電所から電気を運ぶと、電気にロスが生じますし、電線などを整備する必要があります。その点、発電した場所の近くで使うという『地産地消』の考え方は、エコの観点ではとても大切なことだと思います。それに、地産地消のエネルギーというのは、ユビキタス社会のインフラとして期待できると考えています。ユビキタス社会では、机やイス、部屋の壁など実に身の回りのさまざまなものにコンピュータが組み込まれていくでしょう。でも、実現にはその点在するコンピュータの電源をどうやって確保するかが課題になっています。乾電池では取替えが必要になるし、太陽電池では暗い部屋の中や太陽が出ていない日には使えない……。振動力発電なら、部屋を歩く振動で発電させたり、座ったときにイスにかかる圧力で発電したりできます」
その場に使う人がいなければ、必要ない電力は多い。振動力発電では「必要なときにその場所で必要なだけ発電する」ということが可能なのだ。
「また、ユビキタス社会のインフラとしての利用以外にも、2つの利用法が考えられます。1つは、『チリも積もれば山となる』という考え方で、圧電素子1つ1つの発電量はそれほど大きくなくても、集まれば膨大な電気量になるということです。実際に、現在首都高速道路に発電床を埋め込み、自動車やトラックが引き起こす振動で発電するという実験を進めています。そしてもし首都高速全体で発電すれば、原子力発電1基分の発電量が見込めるという試算も出ました。もう1つは、山道や山間部など、滅多に自動車が通らない場所などの外灯です。電線を引っ張ってくるのではなく、発電床を道路に埋め込み、自動車が通過した10メートル先の外灯を点灯させることや、ガードレールを光らせるなどできれば、余分な電力消費を抑えることができるでしょう」
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