11月22日に早稲田大学で開かれた国際CIO学会主催の「第6回ワセダCIOフォーラム」(関連記事)。「会社を変えるCIO」と題したパネルディスカッションでは、企業改革を推進してきた2人の現役CIOが「抵抗勢力」の問題を中心に語った。
会社を変えた2人のCIO――オムロンの樋口氏、大成建設の木内氏
パネラーとして登壇したのは、オムロン執行役員事業プロセス革新本部長の樋口英雄氏、大成建設 理事で情報企画部長の木内里美氏、そして早稲田大学 大学院商学研究科教授で同学IT戦略研究所長の根来龍之氏。モデレータは、日経情報ストラテジー編集長の多田和市氏が務めた。
大企業を中心に企業におけるITの導入・活用が進み、ITと経営、事業活動との関係が切り離せないものになって久しい。ITは事業活動のインフラとしての役割はもちろんのこと、新たなビジネスモデルの創出や事業戦略の実現をも担う機会も多くなった。これに伴い、CIOの役割も変わりつつあり、最近ではITにとどまらない、全社的なイノベーターとしての役割も強く期待されるようになっている。
今回のパネルディスカッションに参加したのは、こうした“会社を変える”CIOを代表する2人。大成建設の木内氏は、システムの全面刷新やシステム子会社の見直しに着手。ITの運用コストを当初目標だった3割を上回る4割もの削減を達成した。一方、オムロンの樋口氏は、ITに関わる部分だけでなく、SCM(サプライチェーン・マネジメント)のプロセス自体を見直し、FA(ファクトリー・オートメーション)部門において24時間のデリバリー体制を構築。文字通り、2人とも会社を大きく変えた実績を持つCIOだ。
現場に理解されるシステムで抵抗を乗り切る
この2人によるディスカッションで興味深かったのが、「抵抗勢力」をテーマとしたもの。「改革に抵抗はつきもの」とはよく言われる言葉だが、実際に2人が改革に挑む中でどのように抵抗勢力に立ち向かったのか。その解が会場で明かされた。
オムロンの樋口氏は、「当社の場合、IT部門は事業部門からのオーダーに基づき予算を得て活動する。そのため、基本的には大きな抵抗はなかった」としながらも、ある事業部門で成功したモデルを他部門に横展開する際にはやはり苦労したという。そこで、IT部門自らもムダを排除したスリム化を実現するとともに、自分たちの活動内容を“見える化”することで、現場への理解を求めたと説明する。
一方、「もっとも大きな抵抗勢力と感じたのは、IT部門の旧態依然とした文化」と打ち明けたのは、大成建設の木内氏。「これからの時代に自分たちが何をやっていかなければならないのか、マインドチェンジがなかなかできない」と嘆く。たとえば、事業部門の現場に入り込み、ITによる業務改善を提案する――といった積極的な活動に打って出ることは難しいのが原状だという。
また、事業部門の抵抗について木内氏は「目立った抵抗はなくとも、システムが変わることは『抵抗感』が生まれるもの」と説明。それを解消するには、「これからIT部門がやることをしっかり伝えることが大切」だという。実際に同社では全国の支店を巡回して、延べ1000名ほどの現場スタッフに対して説明を重ねた。
2人のCIOの発言を受け、早稲田大学の根来氏は、「抵抗とは結局のところ、“部分合理性”と“全体合理性”の2つのぶつかり合いだ」とコメント。システムを使うことにいくら全社的な合理性があったとしても、自部門や自分自身に直接的なメリットがなければ、その部分においては合理性がないと理解されるのだという。そこで、時には全体最適を押し切ることも必要だが、一方では全体最適が期待された効果を生まないことがあるのも事実。そのため、「CIOは押し切るだけでなく、意義を唱える人の声も正しく聞くことも大切。強引さと自己反省のナイーブさの両方が必要だ」と根来氏は指摘した。
また、オムロンの樋口氏は、「部分合理性と全体合理性は、バランスではなく“両立”こそが重要だと思う」と発言。根来氏もこれに同調する形で、「現場の業務に役立つシステムが、結果として経営にも役立つものになればこの問題は本質的に解決できる」と提案した。