「キャリア」とは、そもそも何をもってキャリアと言うのでしょうか。どのような職業や職務に就くかということ。それだけではありません。キャリアとは、歩んでいる人生そのものを指しても言うのです。ここではSEとしてハッピーな人生を送るためのキャリアデザインについて、一緒に考えていきたいと思います。
残業代ゼロ!? オフショア!? 時代の波に翻弄されるSEの現実とは
ドッグイヤーという言葉に象徴されるIT業界。政府においては2001年のe-Japan戦略、2003年のe-Japan戦略2での成果と課題を総括し、2006年1月に「IT新改革戦略」を策定しました。それによって、IT活用による少子高齢、安全・安心社会の実現を2010年までに確立することを目標に掲げています。具体的には、医療分野のレセプトの100%オンライン化(注1)やITS(注2)による安全な道路交通システムの構築、電子政府化によるオンライン申請率を50%に引き上げる、経営のIT化による競争力の強化などが挙げられています。
(注1)医療分野のレセプトの100%オンライン化
平成17年12月に政府・与党医療改革協議会の「医療制度改革大綱」において、「レセプト(診療報酬明細書)について、平成18年度からオンライン化を進め、23年度当初から原則としてすべてのレセプトがオンラインで提出するものとする」ことが決定された。
(注2)ITS (Intelligent Transport Systems)
ITSとは、最先端の情報通信技術を用いて人と道路と車両とを情報でネットワークすることにより、交通事故、渋滞などといった道路交通問題の解決を目的に構築する新しい交通システム。
また、2005年6月に社団法人日本経済団体連合会が提言を行ない、2006年6月に厚生労働省が素案を示した「ホワイトカラーエグゼンプション(White-Collar exemption)」は、労働現場に大きな衝撃を与えました。これは、年収400万円以上のホワイトカラーを裁量労働制とみなし、労働時間規制を適用免除(exempt)することであり、実質的に限りなく「残業代ゼロ」に近づける提案です。早ければ2008年度にも法律として施行される可能性があります。
情報システムの規模の大きさや複雑化に伴って分業が進み、アジア諸国へのオフショア(注3)も年々進んでいます。業務知識をそれほど必要としないプログラミングやテストなどの下流作業は、一層オフショアでの開発が増加していくと言えます。
(注3)オフショア(off shore)
開発先(システム導入先)に行かずに、(自分の会社等から)リモートで開発すること。具体的にはインドや中国などアジア諸国の技術者へアウトソーシングすることを指す。社員を派遣する必要がないのでコスト(出張費等)がかからず安価に開発が可能なため、年々増加傾向にある。
予期せぬ出来事ばかり どう乗り越えたらいい?
さてこのような激動の時代にあって、自らのキャリアをどう考えていけばいいのでしょうか。IT業界は、他の業種と比べても変化が多い業界であることは間違いありません。そんな中においても「将来のあるべき自分の姿」を描きながら、「仕事と自分の心地よい関係」を築いていきたいものです。このことを「キャリアデザイン」と言います。
たとえば今まで、SEのキャリアパスと言えば、直線的なものでした。プログラマからSE、そしてプロジェクトマネージャーへ。しかし、技術の多様化によってオフショアが加速する現在では、求められる人材像も、経営課題を分析して提案、解決ができるゼネラリスト的な要素へと変化してきています。「情報サービス産業白書2005」によると、「事業展開に不足している人材」は、1位がプロジェクトマネジメント、2位がセールス・マーケティング、3位がコンサルタントの順になっています。この上位3位は、上流の作業ができる人材だということが分かると思います。
このように動向変化の多い業界では「予期せぬ出来事の連続」から、SEのキャリアにも紆余曲折が見られるようになってきています。また、IT業界の変動の激しさだけでなく、終身雇用制の崩壊、天災や人災により生活環境が大きく変わる可能性もあります。 以前に比べ確固とした将来像を描きにくい時代となったといえるでしょう。予期せぬ出来事によりキャリアの方向転換をせざるを得なくなる機会も多くなってきているのです。
そこで注目されているのが、米スタンフォード大学のクランボルツ教授による「計画された偶然性理論」というキャリア理論です。要約すると、「キャリア開発をいくら綿密に計画しても、予期せぬ出来事によって修正せざるを得ないときがある。そんなとき、自分を取り巻く新しい状況の中で、積極的な行動を起こしてチャンスを切り開けば、偶然の出来事を必然として生かすことができる」ということです。
実際、変化が多い現代においては、「目標設定から実行、そして達成へ」という直線的な枠組みにとらわれず、らせん状に変化に対応しながら積極的な行動を起こした結果、成功できたケースが多いようです。
クランボルツ教授の偶然をチャンスに変える5つのスキル
人生に予期せぬ出来事はつきものです。しかし、何も行動しなければ不平不満だらけの人生になってしまうかもしれません。不慮の出来事を成功に転換させるためには、以下5つのスキルを身につけるとよいでしょう。
- (1)好奇心 何事にも好奇心を持ち、学ぶ機会を増やして感度を高め、広げていく
- (2)粘り強さ すぐに諦めたり投げ出したりせず、何かの結果が見えるまで取り組む
- (3)柔軟性 一度意思決定したことでも、環境・状況の変化に合わせて行動を変えていく
- (4)楽観性 先を明るく見る気構えを持つ。前向きな人の意見に耳を傾ける
- (5)リスクテーキング 悪い結果を憂うより、挑戦し、敢えて新しく得られる何かに賭ける
「やりたい仕事」とは生涯をかけて探し続けるもの
変化の多い業界に身を置いているだけに、SEの方からは、自身のキャリアに対し不安を覚えるという話をよく聞くようになりました。「本当にやりたい仕事がわからなくなった」「これから先、何を勉強していったらいいのかわからない」というのです。「やりたい仕事」は、少なくとも転職のノウハウ本や職業解説本を読めば見つかるというものではなく、また「やりたい仕事」が生涯変わらない、という保証もどこにもありません。
村上 龍の「13歳のハローワーク」がいまだに売れ続けています。仮に13歳の時点で「やりたい仕事」が見つかったとしても、30歳で、あるいは40歳で、それが「やりたい仕事」であり続けるとは限りません。むしろ、「やりたい仕事」とは生涯をかけて探し続けるものであり、それが「キャリアデザイン」の大切な一部です。だから今、何かに思い悩み、迷うのはきわめて自然なことかもしれません。そんな自分をありのままに受け止め、その結果、たとえ「転職」という選択をしても、クランボルツ教授が説くような何かを探していこうという主体的な「行動」があれば、きっと次のキャリアを手に入れることができます。
転職、最初から「自分らしさ」こだわらなくとも大丈夫
初めはイヤでイヤで仕方がないと思っていた仕事でも、経験を積むうちにいつの間にか面白くなった、という方も多いのではないでしょうか。たとえば転職した後なら、仕事を楽しくするきっかけは無限にあって、まずは「ちょっと楽しそうだな」と思って続けられることを見つけられればいいでしょう。最初から「自分らしさ」にとらわれて仕事に入るのではなく、やり始めてから夢中になれ、自分らしくなっていくこともあるかもしれません。長期にわたってコツコツやり続けていくモチベーションを持続させることができれば、最初はイヤだったとしても、そのまま会社に留まることも、選択肢となっていきます。
転職する・しないはさまざまですが、このようにキャリアはそもそも変化や悩む自分を受け入れながら築いていく「らせん」であってよいのです。
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