子供の頃テレパシーが欲しいと思っていた
子供の頃、“人の心が読めるテレパシーがあればいいのに”、などと考えたものだ。だけど世の中には“わからないほうが幸せ”なことってたくさんある。
例えば“mixi”には、人と人がつながるためのさまざまな仕組みが用意されている。“足あと”がそのひとつだ。ところがこれが実に悲喜こもごもの機能なのである。
だれかのページを訪問すると、自分のハンドルが足あととして残る。で、来ましたよというお知らせの代わりになる。足あとをたどれば簡単に相手のページへ行けるし、友だちをふやすきっかけにもなる。
だがその反面、足あとがつかなきゃいいのにと思う場面も多い。特に友だち登録している人(マイミク)のページへ行く場合だ。
ふつうなら、あちこちのサイトを訪問するたびに挨拶文を残して歩くなんてことはない。だからこそ気軽にネットサーフィンができるのである。
だがmixiでは足あとが表示されるから、マイミクのところへ行くと、なんだか挨拶を書き置きしなきゃいけないような気分になってしまう。「私のところへ来たのに挨拶もないわけ?」と、相手が気を悪くするんじゃないかと感じるからだ。
こうしてmixiに入っていながら、いちいち挨拶するのがめんどうだから「マイミクのページには行かない」という奇妙な事態が発生する。こうなるともう何をやってるんだかわからない。交流を深めるための機能が、逆方向に作用するのである。
ああ、わからないほうが幸せなのに。
“くつを脱げたら”と思う瞬間
また見知らぬ人で、かつ、あんまり特徴のないネーミングの足あとも悩ましい。その足あとを自分が踏んだことを忘れてしまうからだ。
ある日、“Aさん”という足あとが残っていたとしよう。で、「ああ、知らない人だなあ」と思いながら、その足あとをたどって相手のページをのぞいてみる。すると今度はAさんが、また同じように私の足あと経由でこちらに来る。
さあ“Aさん”の足あとを見るのはこれで2度目だ。だけど私はそのハンドルを覚えていない。だからまたもや「ああ、知らない人だなあ」と思いながら、あっちへ行ってしまうのである。で、相手のページを見た瞬間、「しまった! ついこないだ来たばかりじゃないか……」と初めて気づく。
ひどいときにはこのやり取りを何度も何度もくり返し、意味もなく5回も6回も行ってしまうことがある。「相手はきっとヘンに思ってるだろうなあ」と恐縮するが、痕跡が残ってしまうものはしようがない。自分の記憶力の悪さを呪うばかりである。
やっぱりテレパシーはないほうがいい
またmixiでは写真の下に“最終ログインは○分以内”などと表示されるが、あれも生活パターンが丸見えになってしまわないかと不安になる。
例えばたまたますごい早朝にログインしたら、他人から「こんな朝早くにmixiやってるのか!?」と白い目で見られるかもしれない。
あるいは真っ昼間なら、「昼間から仕事もせずにmixiか……」。はたまた夜中だと、「いったい何時まで起きてるんだこの人は!」と思われてしまうぞ……。なんだか監視されてるような気分である。
ほかにも困るケースはある。たとえばメッセージ(メール)をもらったときだ。
人間だれしも、いまは手紙の返事を書く気分じゃない、ってときはある。できればまだ読んでないフリをしたい。なのに最終ログインは○分以内などと暴露され、「この人はメッセージを読んでいますよ!」と告げグチされてしまうのだ。
もちろんだからといって相手が「読んでるんだろ? 早く返事をよこせよ」と催促してくるわけじゃない。だけどあんまりいい気はしてないだろうなあと思うと、落ち着かない気持ちになる。
こう見てくるとインターネットには、そこそこの“ゆるさ”があったほうが気楽だ。人間の五感でわからないものは、わからないほうがいいこともある。リアルの世界だけでなくネット上でも、テレパシーはないほうが無難なようである。
(ASCII24:2006年12月19日掲載記事より転載)松岡美樹(まつおかみき)
新聞、出版社を経てフリーランスのライター。ブロードバンド・ニュースサイトの“RBB TODAY”や、アスキーなどに連載・寄稿している。著書に『ニッポンの挑戦 インターネットの夜明け』(RBB PRESS/オーム社)などがある。
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