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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第1回

「100万円出してもライブに行きたい人」はどうすれば?:

チケット不正転売禁止法 何をしてはダメなのか

2018年12月17日 11時00分更新

文● 小島寛明

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 アイドルのライブやスポーツのチケットの不正転売を禁止する法律ができた。フリマアプリなどで、数十万円もの高額で転売される例が相次ぎ、規制強化を求める声が業界団体などから上がっていた。法律ができたことで、来年6月からチケットの不正転売は処罰の対象になる。

●「ダフ屋」の歴史は古い

 転売は、古くて新しい問題だ。

 チケットを転売するのを職業にしていた人たちは「ダフ屋」と呼ばれていた。そういえば、最近はほとんど聞かなくなった。もう死語と言っていいのかもしれない。

 筆者が中学生のころ、東京ドームに来日したロックバンドのライブに行くと、いい顔のお兄さんが、小声で「チケットあるよ、チケットあるよ」と繰り返しつぶやきながら会場周辺を歩き回っていた。

 おぼろげな記憶だが、大きなライブだったので、当然ながら警察官も警備に出ていたし、周辺にはダフ屋行為の禁止を告げる張り紙もあったと思う。当時はまだ、おおらかな時代だったのだろう。

 当時も、プロ野球の巨人戦や、大物外国人タレントのコンサートなど、チケットを大量購入できれば、大もうけできる可能性はあった。しかし、当時はまだ限界があった。

 まとめて買おうにも、販売の予約窓口が電話だったからだ。チケットの販売が開始される午前10時になると同時に、電話をかけて、運がよければチケットを予約できるが、つながらなければ、予約できない。

 チケットを予約する時代には、興行の世界と裏の世界のつながりで、いわゆる裏ルートでダフ屋に回るチケットが一定の割合あったようだ。

 しかし、インターネット、そしてフリマアプリの登場で、チケットの転売をめぐる状況は大きく変わった。

●「転売ヤー」の時代に

 チケットキャンプは、チケットの取引に特化した転売サイトで注目を集め、2015年3月には、ミクシィが運営会社のフンザを買収している。

 以前は、カタギでない人たちの職業だった転売は、普通の人たちも簡単にできるようになり、「転売ヤー」と呼ばれる人たちも登場した。アカウントの自動生成プログラムなどを使って、チケットの大量購入をはかる業者もいたようだ。

 結果として生じたのが、転売価格の高騰だ。普通の人たちが、行くつもりがなくても、人気の高いイベントのチケットを買い、ネットで転売する。ジャニーズ事務所の所属アイドルグループのコンサートなどは、50万円を超える高値で取引されることもあった。

 こうした状況に、2016年8月には、業界団体やアーティストが高額の転売をやめるよう呼びかけを始め、転売ヤーへの批判の声が高まる。

 2017年12月には商標法違反と不正競争防止法違反の疑いで、兵庫県警がフンザを強制捜査。2018年5月にチケットキャンプは閉鎖に追い込まれた。

 こうした流れで、浮上したのが、不正な転売を処罰の対象とする法律の制定だ。

●継続反復して転売すると違法に

 12月8日に開かれた参院本会議で、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律案」が、全会一致で可決された。

 12日に開かれた、超党派の「チケット高額転売問題対策議員連盟」の会合では、自民党の石破茂元幹事長が、「何がどう変わるのかということが、よく理解されないといけない。何がよくて何がいけないのか、分からない人がまだ圧倒的に多数だろう」と述べている。

 石破氏の言うように、「何がいけないのか」の部分はけっこうややこしい。

 法律の不正転売には1年以下の懲役や100万円以下の罰則が規定されているが、買ったチケットを転売するとただちに違法となるわけではない。今回の法律の柱は、次の2つだろう。

・販売価格を超える価格で、業としてチケットを転売すること
・不正転売の目的で、譲り受けること

議員連盟の会合では、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会スポーツディレクターの室伏広治氏もあいさつした

 ポイントは「業として」の部分だ。有斐閣の『法律用語小辞典(第5版)』で「業」を調べると、「社会通念上事業の遂行とみられる程度に、ある種の行為を継続反復して行うことをいう」とある。

 継続反復して転売をするのは違法となり、譲渡を受ける側も違法になりうるが、急な仕事で行けなくなったチケットを販売価格で売るのは違法にはならない。

 この法律、悪質な転売を防ぐうえではとても大きな一歩だろう。ただ、気になる点が1つある。

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