メルマガはこちらから

PAGE
TOP

AI×ロボットで極厚の鉄板を熱して曲げる!!

【2月16日、17日開催】NEDO「AI NEXT FORUM 2023」で展示される最新AI技術(1)

特集
NEDO「AI NEXT FORUM 2023」

 本特集では、2月16日・17日に開催されるNEDO「AI NEXT FORUM 2023」でも展示される、社会実装に向けた最前線のAI技術を、全10回にわたって紹介する。第1回はものづくりにおけるAIの研究開発で、分厚い鉄板を加熱して曲げるAI×ロボットだ。

NEDO「次世代人工知能・ロボットの中核となるインテグレート技術開発」プロジェクト
「曲面形成の生産現場を革新するAI線状加熱による板曲げ作業支援・自動化システムの研究開発」

加熱と冷却で鋼板を曲げる
ぎょう鉄(線状加熱)の自動化を目指して

 大阪公立大学大学院 工学研究科 航空宇宙海洋系専攻 准教授の柴原正和氏らは、ものづくり、特に「造船」にAIを使ったアルゴリズムを適用しようとしている。

大阪公立大学大学院 工学研究科 航空宇宙海洋系専攻 柴原正和准教授

 鋼板を曲げるには、ハンマーなどで叩く、プレス機で押して曲げていく方法だけでなく、加熱する方法がある。分厚い鋼板は加熱して曲げるしかない。「ぎょう(鐃)鉄」と呼ばれる金属加工技術だ。鋼板に対して加熱と冷却を繰り返すことで、熱膨張による圧縮応力と熱収縮による引張応力を発生させて、鋼板を曲げ、曲面を形成していく特殊な技術である。

 実際の工程では鋼板をアセチレンバーナーであぶり、水をかけながら曲面を作っていく。線状に焼いていくため「線状加熱」という。たとえば船の前後、船首と船尾は複雑な形状をしている。このような複雑な形を様々なパターンで加熱して曲げていく。

プレスでは曲げられない分厚い板材を、バーナーで線状に加熱して、それを冷却して曲げていく

曲げ型を使って、予定した曲面を形成できているかを測定する

 この作業、現在は熟練技能者が手で行っている。ほぼ100%人手の作業だ。だが熟練者は常に人手不足である。そこで何とかして自動化し、またサポートできる技術を開発することが、柴原氏らの開発目標だ。造船会社のジャパンマリンユナイテッド株式会社(JMU、 https://www.jmuc.co.jp)と共同で進めている。

 船の船首・船尾だけでなく、任意形状を自在に作れるアルゴリズムを目指している。特徴はAIの教師データを独自の高速シミュレータ技術によって製作するところ。従来技術の100倍の速度で、1000以上の教師データも1日で作ることができるという。大学で開発したアルゴリズムをもとに、ジャパンマリンユナイテッドの造船所では自律移動ロボットを使ってガスバーナーと水を使って実際の動作を検証している。柴原氏は「現場ニーズに合わせてアルゴリズムの変更を行っている。良い成果が得られている」と語る。

AIによる
線状加熱の自動化

 線状加熱は、アセチレンバーナーで鋼板表面を加熱し、熱膨張させ、さらに冷却・収縮させることで変形させる曲げ加工技術だ。加熱する線パターンを適切に選ぶことで、複雑な形状を成形できる。三次元曲面をもつ船体の曲がり外板の製造に用いられる。

 大きく4種類の変形がある。加熱線に対してV字に曲がる角変形、縮む横収縮、線に沿って曲がる縦曲がり、縦収縮である。これらを使い分けて曲げや絞りを行い、曲面を作っていく熟練の技である。造船業の熟練事業者は曲げと絞りを使い分けて形状を成形するが習得には10年以上かかるとされている。

 そこで柴原研究室ではFEM(有限要素法)解析とAIを使って、自動化を検討した。目標は、プロの職人と同等の精度で曲げ加工ができるAIを作ること。つまり、目的形状を与えると鋼板のどこをどう焼けばいいか計算し、ロボットで加熱して形状を自動製作するシステムである。

 既に実証実験には成功している。ロボットはガストーチを持って鋼板の上をゆっくり動きながら加熱していく。ガストーチを左右に振るウィービング動作なども自動で行える。鋼板のどこの位置を加熱するのかはAIが指示している。

デジタルツインで
ループを回す

 システムは解析空間上でどこを加熱すればいいかを決定し、製造現場でロボットによって加熱する。そして実際の結果を形状計測して、また解析空間に戻して誤差を修正する。この加熱と修正を、現場と解析空間からなるデジタルツイン上で繰り返すことで目的形状に近づけていく。加熱シミュレータは、鋼板情報、加熱の始点終点、入熱量、加熱速度を入力とし、鋼板サイズや端部影響など要素ごとに固有ひずみを算出し、要素ごとに割り当てる。それをFEM解析して、変形量や残留応力を計算するという流れだ。

 実際に、船に用いられる2m×4m、厚さ16mmの鋼板で、最大たわみ量220mmで実証試験を行った。曲げステップ、絞りステップ、修正ステップを経てAIは加熱方案を作り、ロボットによる加熱を経て計測を行うと、解析空間と実空間で形状が一致し、形状作成ができることがわかった。

 最終的な目的形状と計測結果も一致した。誤差はほぼ±5mm以下。実際の造船現場で用いられている基準は、誤差領域が80%以下ならOKとされている。この実験では93%の領域が±5mm以下だったので、かなり高精度に目的形状の算出が得られた。

 さらに解析空間と実空間の誤差を小さくするための検討も行った。鋼板の中央と端部で変形が異なることを考慮することで、ある程度、固有変形を抑えることができるようになった。

目的とする形状に対して、デジタルツインで事前に解析した結果をもとにロボットで加熱して加工。結果を計測する

解析結果をもとに、どのように加熱すべきかという方案を設定し、実際にその通りに鋼板を加熱。誤差は規定の範囲におさまっている

高速シミュレーション技術を活用、
大規模変形データベースと予測AIで変形予測

 デジタルツインを回す、すなわち解析空間を実空間に近づけるために、高速シミュレーションとAIを組み合わせた。具体的にはどのような手法を用いたのか。

 まず一般的に、溶接の変形を導き出すには「熱弾塑性解析」という方法が用いられる。精度良くシミュレーションするには「静的陰解法FEM」という手法が用いられるが、この手法には、解析規模が大きくなるとメモリ使用量と計算時間が膨大になってしまい実用時間で計算が難しくなるという弱点がある。

 柴原研究室が開発している「理想化陽解法FEM」は、静的平衡状態に達するまでは「動的陽解法FEM」という手法を用い、さらに各計算ステップの計算量を小さくすることで、高速に解析を行えるようにした独自手法だ。従来手法の約100倍の速度で計算ができる。並列化にも適しており、業界では一番高精度・高速な溶接変形のシミュレーション技術として複数社で用いられている。だが、時々刻々と変化する温度場・応力場を正確に計算して一つの解析条件を試すのに時間がかかってしまうところは、やはり課題となる。

 そこで今回、入力と出力の関係から変形データベースを作り、最終状態のみを予測する機械学習モデルを構築する方法をとった。具体的には、まず、高速計算が可能な理想化陽解法FEMを使って教師データを大量に作成。そのデータを用いて大規模なデータベースを構築し、そして入出力の関係から未知の条件でも内挿できるAI予測モデルを構築した。つまり高速シミュレータとAIの組み合わせだ。

 こうすることでデータベースの類似データからユーザーの欲しい条件の固有変形の変形・残留応力を高速で予測できるようにした。要するに、溶接最終状態のみの予測が可能なため、ユーザーは、欲しい変形結果を高速に得ることができるのだ。

8時間38分かかった
計算が2秒で

 実際には、有限要素法の鋼板メッシュモデルを準備し、様々な位置を焼いた解析を行い、実際の変形のデータを収集してデータベースを作り、変形・残留応力を予測した。正確に予想する熱弾塑性変形解析を用いた方法では 5,566秒かかっていたものが 2秒で予測できるようになったという。

 このシステムを線状加熱に適用した。すると、従来の熱弾塑性解析では変形結果を得るのに8時間38分(31,080秒)かかっていたが、機械学習を用いる今回の方法では、わずか2秒で得られるようになった。このシステムを使うことで、人手作業と遜色ない曲げ加工ができるようになった。

複雑な形状への適用も可能

 さらに、このシステムを使うと、一枚の板のなかに何個も凹凸があるような複雑形状も作ることができる。現在の造船現場では一枚の板のなかに一つ山がある加工しかできない。それ以上の複雑な形状の作成は、人間には難しいからだ。つまり、従来は一つ一つ個別に作った部材を組み合わせなければならなかったような複雑な構造物であっても、一挙に作れるようになる可能性があるのだ。構造部材溶接時の変形修正加熱も自動でできるようになるという。

 また、現在の現場では設計形状と製造された製品との誤差によるズレを現場で合わせているが、より正確なものづくりができるようになり、そのような誤差を減らすことができれば、部材の残留応力も減らすことができるし、手戻りが少なくなれば作業時間自体も短縮でき、生産効率も上がる。

複雑な凹凸など、人手では不可能な形状も、AIによる線状加熱で可能になってくる

 さらに、現在の実証実験ではロボットは一台しか使ってないが、複数台のロボットを同時に動かすことで一気に大きな部材を曲げることができるようになる可能性もある。現時点で最大4台まで動かせる見込みだという。

 柴原氏は「人間の手では山一つくらいしか焼けない。山がボコボコあるようなものは人間の手では難しい。そういうところができるようになったら完全に人間の手を超えている。シミュレーションとAIの組み合わせで人間の手では作れないものができる。まだまだ発展性がある」と語る。もともと、線状加熱は日本のお家芸でもある。それを継承すると同時に、新たな技術を付加できる可能性があるのだ。プロジェクトはまだ一年ある。

 

開催概要
名称:AI NEXT FORUM 2023-ビジネスとAI最新技術が出会う、新たなイノベーションが芽生える-
日時:2023年2月16日(木)、17日(金)10時00分~17時00分
場所:ベルサール御成門タワー「4Fホール」(〒105-0011 東京都港区芝公園1-1-1 住友不動産御成門タワー4F)
アクセス:都営三田線 御成門駅 A3b出口直結、都営大江戸線・浅草線 大門駅 A6出口徒歩6分、JR浜松町駅 北口徒歩10分、東京モノレール 浜松町駅 北口徒歩11分
参加:無料(事前登録制)
内容:AI技術に関する研究成果を実機やポスター展示などにより対面形式で解説(出展数:最大44件)、各種講演やトークセッションを実施(会場参加とオンライン配信のハイブリッド形式)
主催:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
運営委託先:株式会社角川アスキー総合研究所

「ASCII STARTUPウィークリーレビュー」配信のご案内

ASCII STARTUPでは、「ASCII STARTUPウィークリーレビュー」と題したメールマガジンにて、国内最先端のスタートアップ情報、イベントレポート、関連するエコシステム識者などの取材成果を毎週月曜に配信しています。興味がある方は、以下の登録フォームボタンをクリックいただき、メールアドレスの設定をお願いいたします。

バックナンバー