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導入2社が紹介する「Slack+Salesforce連携」によるビジネス活性化【前編】

「情報の蓄積はSalesforce、浸透はSlack」リバネスの活用事例

2021年09月06日 08時00分更新

文● 指田昌夫 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 Salesforce.comがSlackを買収したことで、両社のサービスを利用するユーザー企業にとっては、これから両社ツールがどのように連携していくのか、どのようなメリットが生まれるのかが気になるところだろう。

 2021年8月24日に開催されたSlack主催のオンラインセミナー「Why Slack?」では、まさにその「Slack+Salesforce 連携」をテーマに掲げ、SlackとSalesforceの両方を使いこなす2社が高度な連携の手法を披露した。

 今回はまず、リバネスで取締役CIOを務める吉田丈治氏による講演をレポートする。

リバネス 取締役CIOの吉田丈治氏

Slack、Sales Cloudの両ツールを積極的に使い込む

 リバネスは、科学教育(NEST教育:Nature、Engineering、Science、Technology)や研究者のキャリア形成支援、大学発ベンチャー創業支援のコンサルティングといった事業を展開するベンチャー企業だ。2001年に吉田氏ら15人の理工系学生によって創立され、現在の従業員数はおよそ60名である。

 徐々にビジネスを拡大していったリバネスだが、売上増加に伴って顧客管理に苦慮するようになり、創業から12年経った2014年にSalesforceの「Sales Cloud」を導入。さらに翌2015年にはSlackを導入した。

 導入の理由について「最初は“あたらしもの好き”という部分もあった」と吉田氏は振り返るが、導入後は両ツールを積極的に使い込んできた。その結果、たとえば2019年にはSalesforceが米国で開催する年次イベント「Dreamforce」のAIキーノートにゲスト登壇するなど、“ツールの使いこなし”で内外に知られるところとなっている。

 Slackは、現在のリバネスにおいて「仕事中の利用頻度No.1アプリ」と位置づけられているという。「社員が最も長い時間使うアプリがSlackだ。コミュニケーションをはじめ、情報のインプットを行う基盤として定着している。どうせ長時間使うのであれば、できるだけ効率良く使いたいと考えて、さまざまな工夫をしてきた」。

 そもそもなぜリバネスはSlackを選んだのか。同社では、Slack以前に「Google Hangouts」や「Salesforce Chatter」といったコミュニケーションツールも利用していたが、それぞれに課題も感じていた。

 「まずHangoutsで問題だったのは、(参加の承認が)ホワイトリスト形式で、チャットルームに招待されなければ内容を読めなかったこと。オープンなコミュニケーションを目指していた当社には、合わなかった」

 また、Salesforce Chatterを商談中の社内連絡に活用することにも取り組んだが、活用は進まなかったという。「一言コメントしたいだけなのに、その都度Salesforceを開くのは業務上『重たい』。もっと軽くてオープンなツールがないか探していたところ、Slackと出会った」。

 その期待どおり、Slackの動作は軽快だった。また、公開チャンネルに投稿すれば社内の誰でも見ることができ、検索も早い。「情報の風通しはとても良くなった」と吉田氏は語る。今ではChatterの使用頻度はかなり少なくなっているという。

Slackは「浸透」、Salesforceは「蓄積」――似た機能をどう使い分けるか

 今回のテーマであるSlackとSalesforceについてはどう考えているのか。吉田氏は、次のような視点で役割を分けていると語る。

 「Slackだけで情報処理はできないが、軽快に使えて検索性が高い。また情報の即時性や浸透性も高いので、社員間での日々の情報のやり取りを中心としている。一方のSalesforceは、情報を整理、処理して蓄積するために使っている」

リバネスにおけるSlack、Salesforceの「使い分け」のイメージ

 たとえば商談についてのやり取りでは、Salesforceに案件情報をまとめたうえで、そのURLをSlackに貼り付け、メンションで他のメンバーに知らせるという使い方が多いという。部門ごとのチャンネル内で会話が進むため、その案件を直接担当していない人でも、どんな案件が進行しているのか内容をチェックできる。

 「たとえば承認申請の仕組みはSlackでも作ることができるが、当社ではSalesforceの承認申請機能に統一している。このように、双方の特徴を生かして使うことで強力なタッグになる」(吉田氏)

 SlackとSalesforceを使い分けるだけでなく、機能連携も積極的に行っている。吉田氏はまず、SalesforceからSlackへの情報配信から説明した。

 リバネスではSalesforceを「情報の解析基盤」と位置づけている。Salesforceに蓄積されたデータを、プログラム言語のApexでデータ解析し、そこで得られた結果をAPI連携でSlackに表示(メッセージ投稿)させる。最終的にSlackに結果出力する部分がポイントだ。

 「たとえば売上と営業の達成目標をSalesforceで自動的に計算して、Slackのチャンネルに流している。それまではSalesforce内でダッシュボードを作って、それをメンバー各自が確認しに行かなければわからなかった。Slack上に流れることで、チーム内で同じ情報を共有できる」

 またTableauによるデータの可視化も、独自にSlackとの連携プログラムを開発して実装している。これについては、今後Salesforceが公式の連携ツールを出すことをアナウンスしており、リリース次第そちらに乗り換えたいと述べた。

 吉田氏がデータ連携で重視していることは「ないものを見つける」ことだという。

 「当社では社員に週報の提出を義務づけている。だが人間は、出されたレポートの確認はすぐできるが、出ていないものを見つけようとすると結構面倒くさい。そこで、週報を出していない人にはSlackでメンションする仕組みを取り入れている。システムに催促させることで、角が立たないこともメリットだ」

Slackを“Salesforceの軽快なインタフェース”として利用

 SlackからSalesforceにデータ連携をしている部分もある。Salesforceは多機能であるがゆえに、動作が重い場合がある。そこで、日常的に行うSalesforceのちょっとした操作は、Slackをインタフェースとして実行できるよう開発にあたっている。

 その一例が、勤怠管理のクラウドアプリであるTeamSpiritとの連携だ。リバネスではTeamSpiritをSalesforce内に組み込んでいるが、出退勤を打刻するたびにSalesforceにログインするのは手間がかかり、打刻を忘れてしまうこともある。そこで、一定時刻までにTeamSpiritで打刻がない社員には、Slackのダイレクトメッセージを送信し、その返信に出勤時刻を書き込むだけで、TeamSpiritに記録される仕組みを開発した。

 片方向だけでなく双方向の情報連携も実現している。それが週報Botだ。Salesforce上で用意している週報のフォームに書き込まれた内容は、Apexのプログラムで再構成されたうえでSlackに書き込まれる。それを見た別の社員が、たとえばその取引先の詳しい情報をSlackでコメントすると、その内容はSalesforceに追加される。

 Slack上でコメントすることで、そこからすぐに議論が始まることが重要だと吉田氏は説明する。「データを見て、議論からアクションまでのプロセスを最短距離で進めることができる。これがSalesforceとSlackが連携する効果だと感じている」。

 さらに、社員の心理的安全性を意識したプログラムも開発している。「Slackは便利だが、24時間365日いつでもやり取りできてしまう。かと言って、通知を手動でオフにすることは忘れがちだ。そこで自動化プログラムを作っている」。これは、Googleカレンダーの予定に「休暇」と入れておくとBotが起動し、休暇中はその社員へのSlack通知をオフにし、メンションがあれば「休暇中です」と自動返信するプログラムだ。休暇明けには、休暇中に届いたメンションをすべて再送してくれる仕組みもある。

 吉田氏は「SalesforceとSlackを両方使っているのなら、それらを連携すると、今まで実現できなかったことができるようになると思う。ぜひチャレンジしてほしい」とまとめた。

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