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AIをバリューチェーンに組み込み、経営の最適化と高速化を実現

AIを経営の中心に据える「AI経営」、PwC Japanグループが支援サービスを開始

2020年09月10日 11時30分更新

文● 大河原克行 編集●大谷イビサ

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 PwC Japanグループは、「AI経営」を実現するための包括的支援サービスの提供を開始すると発表した。AI経営は、同社が新たに提唱したコンセプトで、AIを経営の中枢に据え、企業活動のバリューチェーンにAIを組み込み、状況把握から意思決定、実行までを高速化するものと位置づける。

経営においてAIが当たり前の世界を支援

 発表会に登壇したPwC Japanグループ エクスペリエンスセンターマネージングディレクターの馬渕邦美氏は「これまでのAI活用やDXは、特定の課題を解決したり、最適解を出すものであり、部門間をまたいだ活用が難しかった。AI経営は、フレームワークを描き、データ基盤を作り、アジャイルにソリューションを展開していく点が異なる」と説明。また、「AI経営が実現されると、経営者は意思決定を行なう上で必要となるデータをバリューチェーン全体から収集し、分析、インサイトが導出されたダッシュボード形式でリアルタイムに把握でき、経営の高速化、最適化を図ることができる。PwC Japanグループは、企業が経営ビジョンを描き、AI による経営革新を実現し、経営においてAIが当たり前に存在している世界を、エンドツーエンドで支援することになる」とした。

PwC Japanグループ エクスペリエンスセンターマネージングディレクターの馬渕邦美氏

 ビジョンの策定やロードマップ策定、ソリューションの提供、AIガバナンス、監査、M&Aに至るまで、AIトランスフォーメーションに必要なケーパビリティを、エンドツーエンドで提供していくものになるとしている。

 「AI経営」を実現するために、策定するビジョンを言語化するとともに、将来像をビジュアル化。複雑な組織、人材、テクノロジーなどの経営における複合課題をまとめ、概念実証から経営管理の次世代化の実現までのロードマップを策定し、それをもとにソリューションの提供や、経営改革に関するコンサルティングを提供するという。

 企画、開発、製造などの様々な領域で発生している業務データや、各種外部データを統合的に活用する基盤を作ることに加えて、これらのデータを活用し、業務領域ごとの可視化、将来予測、意思決定の最適化、AIを使ってレコメンドをダッシュボードに表示。これを活用して、情報収集、意思決定、リソース投下、伝達、実行といった活用につなげる。具体的なアプローチとして、約1~2カ月間をかけたワークショップにより、現状を認識したあとに、ビジョン策定やロードマップ作成を行ない、プロトタイプを作成。その後、ソリューションをもとにしたトランスフォーメーションに取り組むという。

 PwCコンサルティング データアナリティクスリーダー パートナーの藤川琢哉氏は、「40種類の業務テンプレートを活用することで、迅速に、各業務に対するAI経営の導入を、PoCから本番運用まで支援することになる。また、1400件以上のAIのユースケースをデータベース化しており、これも活用できる。テンプレートは広く適用できるものだが、個別案件ごとのユースケースをもとにしたカスタマイズができるのがPwCの特徴である」とアピール。馬渕氏も「同時に、組織構造の改革、業務プロセスの改革、人材育成といったところにも取り組み、AIによる変革と、チェンジマネジメントを同時に提供し、最適な経営判断プロセスの設計を行なう」と語る。

PwCコンサルティング データアナリティクスリーダー パートナーの藤川琢哉氏

 経営管理のテンプレートである「Data-driven Performance Management」では、売上減少をAIが予測し、データをもとに減少要因を特定。改善策が検討可能になるという。改善策による効果をシミュレーションする機能も備えており、意思決定がどう経営に影響を与えるかがリアルタイムで把握することが可能だという。

 また、組織管理のテンプレートである「Workstyle Analysis」では、従業員に対する定期的なアンケートや、働き方ログをもとに、組織の生産性とモチベーションがリアルタイムに把握可能であり、データをもとに原因を特定。AIによる改善策のレコメンドと、その効果のシミュレーション機能によって、組織管理をデータドリブンで判断することができるという。

組織管理テンプレート

 さらに、PwCでは、BXT(Business、Experience、Technology)と呼ぶフレームワークを採用しているが、ここにおいても、「BXT Works AI」と呼ぶ新たなAI 経営ワークショップを用意。BXTグループセッションやデータ分析を体感する活動などのほか、これを活用した経営ビジョンの策定にも取り組むという。

「ビジネス課題の整理から実現するアイデアの優先順位を設定し、経営管理の全体像を構想するとともに、実装に取り掛かる概念実装の評価基準を設計。また、The BXT アジャイルアプローチにより、BXTマインドセット、アジャイルプラクティス、自動化を組み合わせることができる。PwCが提供してきたコンサルティングの枠を超えて、あらゆるエンゲージメントに、迅速に価値を提供することになる」(馬渕氏)と述べた。

 なお、AI経営の考え方については、2020年11月にオンラインで開催予定の「AI Summit 2020 Virtual Events」で詳しく説明するほか、企業との継続的なコミュニケーションを図るために、AI経営Salonを設置する計画も明らかにした。

データとAIを使い倒している企業が既存市場を破壊している

 同社では、2020年におけるトップ10社の時価総額の総計は、2010年に比べて約5倍となる10兆6770億ドルに急拡大しており、データとAIを使い倒している企業が、既存市場そのものを破壊し、成長していることを指摘。「米国のテックジャイアント企業には、デジタルトランスフォーメーションという考え方は存在していない。データとAIを使うことが当たり前であり、AIが経営を次の時代へ導く道標となっている。テクノロジーを用いた創造的破壊型イノベーションの新時代が到来しており、過去のルールに捉われず、ビジョン主導の企業改革を苦としない企業が生き残っている」(馬渕氏)と、AI経営が重視されている背景を示す。

日本企業は創造的な破壊ができているのか?

 そして、経団連が示した「AI-ready化」の観点からは、AI-Ready化着手前である段階を「レベル1」から、すべての事業や機能にデータとAIを用いて、業界そのものに本質的な破壊を常時仕掛けているテックジャイアントなどのAI-Powered企業を「レベル5」とする5段階評価において、「日本の多くの企業がレベル1か、レベル2の水準にある。AI活用が部分的であったり、実証実験の段階であり、社員が自由にAIを活用できる段階にはない」と指摘したほか、PwCの調べでは、既存ビジネスをAIが破壊し始めることに対して十分に準備できている企業は、米国では82%が準備済みであるのに対して、日本では50%に留まっていることを示した。

 さらに、AI活用の目標達成に向けたデータ基盤の構築に関しては、日本の企業が、データの標準化やデータの整備という段階に留まっているのに対して、米国ではデータからビジネスインサイトの獲得という戦略的な利用に移行していること、AI活用における目標の明確化においても、日本の企業が大きく遅れていることを示した。

「PwC Japanグループのターゲットを考えると、幅広い業種の大手企業が対象になるが、日本の国力を底上げするためには、AI経営は、中小企業でこそ実現されなくてはならないといえる。官公庁が主導しているデジタル化政策を通じて、AI経営を支援していきたい」(藤川氏)と述べた。

 PwCコンサルティング 常務執行役 テクノロジーコンサルティングリーダーの桂 憲司氏は、「新型コロナウイルスが社会に大きな影響を与える一方、デジタルテクノロジーを活用して、中長期的に競争優位を確立することが求められている。人々の価値観やニーズが変化し、企業は、顧客や従業員、取引先との関係を維持するためにAIやデータの活用を加速する必要がある。PwC Japanグループは、AI経営を提唱し、それを実現する包括的なソリューション群を提案する」と説明する。

PwCコンサルティング 常務執行役 テクノロジーコンサルティングリーダー 桂 憲司氏 

 その上で「AI経営とは、企業がAIを経営の中心に据えて、経営革新を実現することを意味している。経営管理や人事、サプライチェーン、データ基盤といった各モジュールのなかにAIを使い、経営を的確に判断することができる。経営の意思決定の精度向上や、高速化が実現でき、AI活用事例のテンプレートとして、1400種類以上を用意し、PwCのアセットを使いながら、AI経営の成果を生み出すことができる。また、コンサルティングだけでなく、AIガバナンスや監査、AIにおいて不足するケーパビリティを補うためのM&Aなども必要になるが、こうした部分にもPwCが有する専門家を活用できる。長期的な経営支援を行なっていく仕組みとして提供する。AI経営は、意思決定の速度を高めていくことができるものであり、日本の企業やビジネス与えるインパクトは大きなものになる」とまとめた。

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