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「ハイブリッドIT」や「コンポーザブル」などを提言してきたHPEが考える、次の世界

HPE CEOのネリ氏が予言? 「クラウドレス」とは何なのか

2019年06月24日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 Hewlett Packard Enterprise(HPE)が2015年にスタートして4年目に入った。昨年からCEOを務めるアントニオ・ネリ氏は、「ハイブリッドIT」や「コンポーザブル」といったHPEの方向性に自信を見せる。そして、ネリ氏が次に見据える世界は「クラウドレス(Cloudless)」になるという。それはいったいどんなビジョンなのか? 「HPE Discover Las Vegas 2019」の会場で、現時点で明らかになっている情報を集めてみた。

Hewlett Packard Enterprise CEOのアントニオ・ネリ(Antonio Neri)氏

これから5~10年後、クラウドが「見えなくなる」世界に

 ネリ氏はまず「ハイブリッドIT、コンポーザブル、インテリジェントエッジ――。すべてHPEが最初に宣言したものだ」と胸を張る。

 たとえばコンポーザブルは2015年、「HPE Synergy」の発表とともに打ち出したコンセプトだ。そのHPE Synergyは現在、15億ドル規模のビジネスに成長しているという。インテリジェントエッジではAruba Networksを買収して傘下に収めたほか、2016年には単なるIoTゲートウェイではなくエッジに処理能力を持たせた“コンバージドIoTシステム”の「Edgeline」を発表している。

 ネリ氏は「われわれは市場に先駆けている」と強調する。現在のシリコンバレーを生んだと言われるHewlett Packard/HPEにとって「発明」は企業のDNAであり、こだわりのようだ。同社は数年前から、現在のメモリとプロセッサの関係を逆転させたメモリ主導型アーキテクチャの研究プロジェクト「The Machine」も進めている。

 そして今回の「クラウドレス(Cloudless)」ビジョンだ。“-less”は“~がない”という意味の接尾語だが、クラウドレスの世界はクラウドが“ない”わけではない。「サーバーレス(Serverless)」の世界におけるサーバーの存在と同じように、クラウドの存在が“見えない”“意識されない”ようになるという理解が正しいようだ。

 基調講演の中でネリ氏は、クラウドレスのビジョンを次のように紹介した。

 「これから5~10年後、世界はまだハイブリッドだが、(環境どうしをつなぐ)インターコネクトは変わる。この新しいインターコネクトによって、クラウドの敏捷性やシンプルさは維持されつつ、そこにセキュリティと相互運用性も加わる。われわれはこの新しいビジョンを“クラウドレス”と呼んでいる」

ネリ氏は基調講演の中で「クラウドレス」ビジョンを紹介した

 クラウド間を隔てる壁がなくなる――つまり現在のように、AWSやAzure、GCPなどのパブリッククラウド間の壁、さらにパブリッククラウドとプライベートクラウドの間の壁が完全に“見えなくなる”世界を「クラウドレス」として描いていると言えそうだ。

 クラウドレスを実現する3つの要素として、ネリ氏は「トラスト(信頼)」「コネクティビティ(接続性)」「バリュー(価値)」を挙げる。

 まずトラストについては、複数のクラウド環境間を行き来するため「ゼロトラスト」の世界を前提と考える。デバイスやソフトウェアは検証済みのもの(=信頼できるもの)だけがアクセス可能で、データはすべて暗号化したうえで通信/保存される。HPEでは「HPE ProLiant」サーバーなどでシリコンレベルからセキュリティ機能を組み込んでおり、ゼロトラスト実現のフレームワークを作っているという。

 コネクティビティでは、データセンター/クラウド/エッジを結ぶネットワークに、自動化、インテリジェンス、耐障害性といった技術要素があらかじめ組み込まれる。

 そしてバリューはエコシステムの構築を指す。ネリ氏は「モダンなコンピューティングやクラウドに不可欠なコンポーネントを開発するクラウドネイティブ企業は約700社存在しており、その価値は合計で7兆ドルに相当する。クラウドレスが実現すると、その数は爆発するだろう」。クラウドレスの開発はHPE単独で行うのではなく業界と協調し、中でもオープンソースコミュニティと進めていく方針だという。

クラウドレスの実現によって「まったく新しい市場が誕生する」

 ネリ氏はクラウドレスのメリットについても語った。

 「(クラウドレスの世界が実現すれば)まったく新しい市場が誕生し、クラウドネイティブのスタートアップ、開発者、ISVなどに大きなチャンスが生まれる。企業はクラウドがもたらすイノベーションの速度を享受できる。ベアメタル、仮想マシン、コンテナ、サーバーレス――最終的にはすべてがクラウドレスになり、ITから解放される」

 「The cloud goes "cloudless"(クラウドは“クラウドレス”へ)」と題したHPEのブログ記事では、クラウドレスの世界が実現することでアプリ開発者は「最高のインフラ、ツール、サービスをプロセスと製品に統合できる」、またユーザーは「選択肢と敏捷性を最大化できる。最新のハードウェア、ソフトウェア、データへのアクセスのためのコストを最小化できる」と説明している。

HPEブログ記事「The cloud goes “cloudless”」では、現在のクラウドとクラウドレスの違いについても説明している

 ネリ氏は、ハードウェア側で開発を進めるメモリ主導型コンピューティングを引き合いに出して、「5年後、クラウドレスは『世界が機能する方法』に、またメモリ主導型コンピューティングは『その世界の土台』になるだろう」と予言した。本当の意味ですべてのシステムがシームレスにつながり、なおかつリアルタイムに処理される世界というわけだ。

 もっとも、クラウドレスはまだビジョンでしかなく、HPE Discoverの会場を見渡してもそれらしきものは探せなかった。しかしネリ氏は「プロトタイプはすでにある。2020年のHPE Discoverでは披露したい」と約束している。

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