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松村太郎の「西海岸から見る"it"トレンド」 第261回

WWDC19で感じたのは、体験をもとにアップルがサービスの整理整頓を進めているということ

2019年06月07日 09時00分更新

文● 松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII編集部

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4日(現地時間)に行なわれたWWDC19冒頭の基調講演。iPadOSの登場など、例年と比べても盛りだくさんの内容でした

 この原稿を書いているのは、カリフォルニア州・サンノゼ。シリコンバレー南端に位置する最大の都市です。

 最低気温14度、最高気温31度でカラリとした天気ですが、イベント会場の中は日本人である筆者にとっては極めて強い冷房が効いており、凍えないようセーターは常備です。朝セーターを着て出かけて、会場の中で着たまま。お昼に外に出るときに脱いで、再び会場に戻って着込むという不思議な調節を求められます。

 6月3日からサンノゼで開催されている開発者会議「WWDC19」の取材で滞在しています。今年も世界中から開発者が集まり、そしてiOS、watchOS、tvOS、macOSが発表されましたが、今年はさらにiPad向けの派生OSとなるiPadOSも発表されました。

 AppleがApp Storeを発表した2008年から11年が経過しました。

 iPhoneは世界のスマートフォンのシェアを15%以下にまで落としていますが、依然としてApp Storeでの積極的な購買は、Androidを倍の規模で上回っており、Appleの“スマホ飽和”時代の成長の源泉となっています。

GAFAが世界において果たした役割

 シリコンバレーを中心とした巨大テクノロジー企業に対しては、世界から厳しい目が向けられるようになりました。

 GAFA各社はうまくお互い住み分けながら、検索と広告、Eコマース、人のつながりと広告、そしてスマートフォンと、各社それぞれの得意分野が世界を支配するとともに、富とデータと人材を吸い上げているという批判は、トランプ政権が是正に奔走する米国が抱える貿易赤字よりも重大に見えます。

 その一方で、その差はテクノロジー自体によって広げられている部分もあります。

 Googleであれば、今まで知識を得るためにかかっていた時間やお金を飛び越えて、知りたいことをすぐに調べられます。Amazonはほぼあらゆるモノを手元で吟味して買えるようになりました。Facebookで頻繁に会えない人ともスムーズにキャッチアップできます。そしてAppleは、モバイルを前提とした生活基盤を創りました。

 今までの生業を飛躍的に効率化したり、不可能だったことを可能にしている部分がたくさんあります。しかしそれらの変化は必ずしも多くの人に認識されているわけではないかもしれません。

 世代によってはそれが当たり前になっていて気づかない人もいますし、テクノロジーに対応していなかったり、使いこなせていなかったり、そもそも知らない人もいるでしょう。

 そうした人たちにとっては、スナップショットで今を切り取れば、GAFAの独占と写ることにも納得がいきます。しかしWWDCに来てみて近年急速に変わる景色を見ると、GAFA企業が取り組んできたことで生まれた世代が着実に増えていることにも気づかされます。

 WWDCは世界中の開発者の中から抽選で選ばれるのですが、やはり増加が目立つのは若者と女性です。ここ数年を見ても、年々増えてきたことに気づかされますが、25年ほどWWDCを取材してきたジャーナリストの林 信行さんは開発者像がまったく変わったとその変貌ぶりをふりかえりました。

「体験から作る」の徹底

 今回のイベントでもさまざまな技術が登場し開発者を沸かせていた一方で、OSの機能やアプリの刷新は、開発者に対してAPIをどのように活用するかというデモでも、一般のユーザーからすれば、秋からのiPhoneの使い勝手がどうなるかという関心事になるわけです。

 細かい新しい要素は、別途「アップル時評」の連載でご紹介したいと思います。

 注目したいのは、Appleがこだわったわかりやすさでした。今回、いろいろな「再構成」を施しており、その基準が体験に沿うことという基準に徹底している点です。

 まず、iPadOSを登場させました。iPadOSはiPhone向けのiOSと分離され、iPadとしての独自の進化の道をたどるというイメージを想起させます。

 それも将来的には確かにそうなのでしょうが、今回に関しては「マーケティング的なネーミング」とというに留まっていると思います。基本的にはiPadOS 13は、iOS 13そのものであって、iPad向けに制限を解除した部分を含むという印象です。

 それでも、iPadOSが分かれることで、iPhoneとは異なる体験を追究していくことをアピールすることにつながりました。

 同じようなわかりやすさ重視の施策が、Apple Watch向けのApp Storeの登場です。どうも活性化が進んでいなかったWatchアプリですが、独自のストアの登場で、アプリに関してはApple Watch向けに独立して存在することができるようになりました。

 Appleのアプリエコシステムの中で、最も小さい画面サイズのアプリを作ることができるストアが登場したのです。これも、きちんとデバイスや用途を分類した上で名前や場所を与えることで意味づけをし、時計という体験に集中したアプリ開発を促す、もう1年早くやるべきだったとすら思えるよい施策だったと思います。

 そしてMacでのiTunesアプリの解体。iTunesは当初音楽だけでしたが、そこに映画、テレビ番組、それらのレンタル、本、アプリと、次々に扱うコンテンツの種類が増えていきました。iOSではすでにコンテンツの種類でアプリを分けてきましたが、それをMacでも実現してわかりやすくしました。

多様な機能や横断したコンテンツを扱っていたiTunesは3つに分けられました

 こうした整理整頓を、今年一気に推し進めた、片付けの年だったという振り返りをしています。

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