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トラスコ中山のビジネスイノベーション事例も紹介、インテリジェントエンタープライズの必要性を訴え

日本企業の変革をさらに後押し、SAPジャパンの2019年戦略

2019年02月22日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 SAPジャパンは2019年2月21日、東京・大手町の「Inspired.Lab」で、2019年の国内ビジネス戦略に関する記者説明会を開催した。代表取締役社長の福田譲氏が出席し、2019年にフォーカスする3つのテーマを説明したほか、その実践例として顧客企業であるトラスコ中山における取り組みも紹介した。

SAPジャパンが2019年にフォーカスする3つのテーマ

SAPジャパン 代表取締役社長の福田譲氏。2014年の就任から4年半が経過した

“SAP=ERPベンダー”から転身を遂げた10年間を振り返る

 福田氏はまず、グローバルのSAPにおける業績や方向性について説明した。

 かつてのSAPビジネスは、福田氏が“ERPの一本足打法”と表現するようにERP製品だけに強く依存したものだった。その脱却を図るべく現在のSAP経営陣が変革に着手したのが10年前の2009年のこと。これが功を奏し、2018年の総売上は10年前の2.3倍に成長している。ちなみに日本法人の具体的な業績は公表していないが、直近3年間はグローバルの成長率を上回るなど好調で、総売上は4年間で53%の成長を果たしたという。

 成長の原動力のひとつとして、クラウドビジネスの立ち上げと成長が挙げられる。10年前のポートフォリオには存在しなかったクラウドサービスのユーザー数は現在1億8600万人以上を数え、クラウド事業の売上高はおよそ50億ユーロ、2018年の対前年比成長率は10%となっている。

 クラウド事業においては、調達(Ariba)、人事(SuccessFactors)、経費精算(Concur)、マーケティング(Hybris)、専門人材(Fieldglass)といった各SaaS市場ですでに高い実績を持つクラウドサービスを買収、統合する戦略を取っている。これにより、コアERPの前段階にある業務にもカバー範囲を広げ、エンドトゥエンドで支援することを可能にしてきた。さらに昨年にはCRM分野への拡大を目的にQualtrics、CallidusCloudの買収を行っている。

 「たとえば調達業務の場合、ERPが処理するのはサプライヤーや購入額などが決まり、取引が始まってから後の業務。しかし現実にはその前に、新規サプライヤーの開拓だったり、価格交渉だったりという業務もある。クラウドサービスでそうした業務まで、エンドトゥエンドでカバー範囲を拡張している」

この10年間のSAPビジネスの拡大。ビジネスクラウドサービスの買収と統合、そしてSAP HANAやS/4HANA、Leonardoといった新テクノロジーが成長を牽引してきた

 新たなテクノロジーへの取り組みも継続してきた。特に、HANAプラットフォーム上にERPを載せた2015年の「SAP S/4HANA」リリースは、SAPにとって23年ぶりとなる主力ERP製品の刷新であり、高速/リアルタイムな分析とアクションを可能にしたことで、企業におけるERPの役割を再定義する製品となった。現在、S/4HANAの顧客企業数はグローバルで1万社を超えており、「S/4HANAは日本国内でもグローバルと同じペースで展開が進んでいる」と福田氏は説明する。

 そのほか、過去10年間ではクラウド化の推進、特にS/4HANAのパブリッククラウドでの提供なども大きな出来事として挙げられる。福田氏によると、グローバルではすでに新規顧客の半分以上はクラウドサービス顧客であり、日本でも3分の1以上がそうなっているという。

トラスコ中山のイノベーションを例に、2019年の事業テーマを説明

 続いて福田氏は、今年2019年にSAPジャパンとしてフォーカスするテーマを紹介した。「インテリジェントエンタープライズ(Intelligent Enterprise)」ビジョンに基づくアーキテクチャの普及、日本市場に適したイノベーションフレームワークの構築、協働イノベーション(Co-Innovation)を起こしていくためのデジタルエコシステム作りという3つだ。

 実際にはこれらの施策はSAPジャパンとして「一昨年くらいから取り組んできた」(福田氏)ものであり、たとえばシリコンバレーやグローバルでの知見に基づくイノベーションフレームワーク、あるいは協働イノベーションのための国内企業コミュニティ「Business Innovators Network」といったものはすでにスタートしている。したがって、それらを引き続き日本の市場と企業に提案し、定着させ、深化させていくことがテーマだ。

 福田氏は、こうしたビジョンと取り組みを理想的なかたちで実践している顧客企業として、トラスコ中山を取り上げた。トラスコ中山は、工場や建設現場などで使われる多様な工具や消耗品、備品をメーカーから仕入れ、全国の拠点に在庫し、ホームセンターやネット通販企業などの販売店へ迅速に届ける卸売企業である。SAP ERPのほか、SAP HANAも導入して在庫管理や営業支援などに生かすリアルタイム情報基盤を構築している。

 そのトラスコ中山が新たなサービスとして現在実装を進めているのが「MRO STOCKER」だ。いわば“富山の置き薬”の工具版というイメージで、トラスコ中山があらかじめ建設現場に備品や消耗品をストックしておき、必要なときには現場スタッフがいつでもすぐに購入/使用できる仕組みを提供する。現在一般的に行われているホームセンターなどへの買い出し、あるいは通販などでかかる時間と手間を省けるのがメリットだという。

トラスコ中山「MRO STOCKER」のイメージビデオより。データ分析に基づいてその日の現場に最適なモノをストックすることを目指す

 重要なポイントは、MRO STOCKERでは常に同じモノだけ、あるいは現場から要望のあったモノだけをストックするのではないという点だ。たとえば現場の規模や施工状況、天候といったデータに基づいて、限りのあるスペースに最適なモノを最適な数だけストックする。紹介ビデオによると、将来的には「他の同様の現場で生産性向上に役立ったモノ」を提案するような機能も検討されているようだ。

 福田氏は、この新たなビジネスモデルがデザインシンキングフレームワークから生まれたものであること、SAPも立ち上げに参画した建設現場向けIoTプラットフォーム「LANDLOG」との協働により現場のデータ収集を可能にすること、インテリジェントエンタープライズのアーキテクチャを通じて多様なデータを統合管理し、「SAP Leonardo」を通じてリアルタイムな分析と予測を行いアクションにつなげることなどを説明した。

 「たとえば天気予報データを参照して、その建設現場が明日、雨の予報であれば今日中にレインウェアを届けておきたいし、猛暑の予報ならば塩飴のストックを増やしておきたい。そう考えると、今出発したトラックがどの商品を何個積んでいるのかという情報までリアルタイムに連動していないと、今日中に現場の在庫を最適化することはできない」

 この事例に基づいて、福田氏はあらためてインテリジェントエンタープライズのアーキテクチャ構築が必要である理由を語った。多様なデータを受け入れて統合管理するデータレイヤー、それをリアルタイム/自動的に高度な分析処理を行うインテリジェントテクノロジー、その分析結果を実際のビジネスアクションにつなげるアプリケーション、アクションによる結果も含めて収集し次の分析へとつなげるデジタルコア(=S/4HANA)が組み合わさることで初めて、破壊的なビジネスモデルの変革が可能になるからだ。

インテリジェントエンタープライズのアーキテクチャ。データレイヤー(下)、インテリジェントテクノロジー(中)、ビジネスアプリケーションとデジタルコア(上)がひとつながりになることで、ビジネスのリアルタイムな分析とアクションが実現する

 最後に福田氏は、SAPが現在開発に取り組んでいる「SAP Business Network」についても紹介した。たとえばAribaでは年間250兆円規模の膨大なB2B調達取引が行われている。その取引データを分析し、たとえば業界の平均と自社の現状とを比較することで、顧客企業は企業活動を最適化していくことができる。現在はまだ部分的なデータ分析にとどまるが、福田氏は「他社と比べてどうか、という部分は相当に関心が高い」「これを活用するかしないかで競争力に大きな差が出てくる」と述べ、今後のさらなる機能強化などへの期待を促した。

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