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2019年の「不況」は設備投資のストック調整がカギを握る

文● 河野龍太郎(ダイヤモンド・オンライン

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写真はイメージです Photo:PIXTA

 世界的な株安傾向が2018年10月以降、続いており、2019年年初の株価急落もその流れだ。

 米国経済が好調だったこともあって、世界経済は順調に拡大を続けていると考える人も少なくなかったはずだ。しかし、実際のところは、景気が堅調なのは、トランプ減税の効果がでている米国だけで、昨年の年明け以降、欧州も中国も成長ペースは鈍化していた。

 そうした海外の成長減速もあって、日本の実質輸出と生産は、2018年前半から横ばい傾向が続いている。それでも日本の景気がなお緩やかな拡大局面できたのは、好調な企業収益を背景に設備投資が拡大を続けていたためだ。

 だが今年も景気拡大は持続するのかどうか。カギは製造業の設備投資だ。

世界経済の減速は続く
「封じ込め」で中国には逆風

 昨年から米国を除く多くの国で景気拡大がペースダウンしていた理由は幾つかある。

 まず、景気拡大局面が長く続いたことで資源価格が上昇するなど、多くの資源輸入国で交易条件が悪化した影響が現れていたことだ(米国は資源国なので、交易条件は悪化していない)。

 また、米国を中心に市場金利が上昇していたことも、総需要を抑制している。ドル金利の上昇は、資金流出に直面する新興国経済の下押し圧力ともなっていた。

 これらのことは、2009年6月に始まった世界経済の拡大が10年目を迎え、かなり成熟してきたことの現れとも言える。

 また、多少の金利上昇で総需要の拡大ペースが落ちているのは、自然利子率が依然、低いままであることを示唆しているのかもしれない。

 世界経済のもう一つの大きな減速の理由は、2017年秋以降、中国がその宿痾である過剰ストックや過剰債務、バブル問題の解決を図るべく、構造改革(緊縮政策)を強化したことだ。

 米中貿易戦争が始まった直後の2018年3月頃から中国経済の減速が目立ったのは、貿易戦争の影響ではなく構造改革の影響だった。経済規模の大きくなった中国が緊縮策を進めたため、多くの国にその影響が波及したのだ。

 米中貿易戦争が始まって以降、中国では緊縮政策が緩められているが、その一方で貿易戦争の悪影響が中国経済に広がり始めている。

 関税引き上げ前の駆け込みで、昨年中の中国の対米輸出は堅調だったが、足元では鈍化し始めており、また貿易戦争を巡る不確実性の高まりから、内外の企業が中国での設備投資に慎重になっている。

 米中貿易戦争には、2020年の再選を目指すトランプ大統領がアンチ・グローバリゼーションで保護主義の旗を振っていること以外にも理由がある。

 それは、国家資本主義のまま急膨張を続ける中国を封じ込めるというワシントン・コンセンサスの存在である。

 ついに米中で「新冷戦」が始まったのであり、仮に2020年の大統領選挙で自由貿易を重んじる新大統領が誕生したとしても、米中貿易戦争は継続すると見られる。

 1990年代に始まった第二次グローバリゼーションで最も恩恵を受けた中国経済に、今度は強い逆風が吹きつける。当面、中国経済は減速が続くと予想される。

 加えて、世界経済の調整局面入りが濃厚な理由として、景気拡大を続けている米国経済がこれまで通りにいくのかも見通せなくなっていることもある。

 米国経済が2018年に入って成長ペースを加速させていたのは、トランプ減税の効果だ。

 景気過熱で市場金利が上昇し、住宅販売や自動車販売が減少し始めているが、昨秋までは、減税効果に加えて株高や不動産高による資産効果も総需要をかさ上げしていた。

 低金利局面で、国外に流出していた資金が米国内に還流していることも、新興国の犠牲はあるが、米国の市場金利の急騰を抑え、景気拡大の長期化に役立っていた。

 しかし、それがいつまでも続くわけではない。まず、昨年10月をピークに資産市場のブームが終焉を迎えた可能性がある。

 90年代以降、米国はバブルの醸成なくしては完全雇用を達成することは難しくなっていた。

 また、2019年の年明け以降は、減税の効果が徐々に剥落し、年後半には、効果は完全に剥落する。各国と同様、米国経済も成熟局面にあり、減税の効果や資産効果が剥落すれば、景気減速は避けられない。

日本の輸出、生産は
2018年の年明け以降、横這い

 さて日本はどうなるのか。

 日本経済は海外経済の拡大ペースが鈍化していることもあって、輸出と生産は2018年の年明け以降、横這い傾向にあった。

 経済が好調な米国向け輸出も、米国自動車販売が金利上昇の影響で減少していることもあって、横這い傾向だ。

 欧州向け輸出は、船舶輸出が大きく落ち込んだこともあるが、欧州経済の成長ペースが滞っているため、減少している。

 欧州景気の減速は、イタリアの政治問題もさることながら、中国経済減速の影響も小さくないと思われるが、今後、政情不安に見舞われたフランスの景気減速も懸念される。

 中国向け輸出もついに減少が始まった。中国国内で工場建設などの固定資産投資は落ち込んでいるが、昨秋までは、米国からの経済制裁を受け、中国国内でサプライチェーンを完結しようともくろんでいるのか、日本からの資本財の購入は増えていた。

 しかし、固定資産投資そのものが大きく減速しているため、日本からの一般機械の輸出はいよいよ減少し始めている。

 一般に、輸出の回復が滞ってくれば、景気拡大にブレーキがかかった感覚が広がるのだが、近年、日本ではそうした空気にまではなっていない。理由の1つは、実質輸出が横ばいでも、円安傾向が続いていたことがある。

 円安が企業業績を下支えしているわけだが、米経済の先行きの見通しが悪くなれば、FRBの金融政策の方向性が変わり、円高が進む可能性が高い。

 景況感が変わらないもう一つの理由は、近年、国内の設備投資が好調を続けていたことがある。

 問題は世界経済に陰りが出てきた中で、企業経営者に先行きの業績懸念が広がれば、設備投資を先送りする可能性があることだろう。

 一方で今回の景気拡大局面で大きく増えているのは建設投資であり、こうした投資は必ずしも世界経済にリンクしている訳ではないという楽観的な見方もある。

 だが、どうだろうか。

2019年を左右するのは設備投資
牽引役の製造業の動向がカギ

 景気循環のメカニズムをシンプルなケインジアン・クロス(総需要と生産量の均衡点を示す45度分析)で考えてみよう。

 日本では長い間、個人消費の堅調な回復は見られていないが、民間の貯蓄を、(1)公的需要(財政赤字)、(2)外需(純輸出)、(3)設備投資のいずれかの手段でスムーズに吸収できた時、景気回復が可能となる。

 不況からの立ち上がりは、拡張財政で財政赤字が拡大することによって、民間貯蓄が吸収される。また、世界経済が回復すると、外需(純輸出)で民間貯蓄が吸収される。

 外需主導の回復が続くと、業績の回復した企業が設備投資を増やすため、民間貯蓄が吸収され、景気拡大が加速する。

 逆に、景気後退に陥るのは、急激な財政健全化によって公的需要が落ち込み、民間貯蓄が吸収できなくなるケースだ。

 あるいは、世界経済が悪化し、外需によって民間貯蓄が吸収できなくなるケースであり、それらは設備投資の悪化を招くため、民間貯蓄をますます吸収できなくなり、景気はさらに悪化する。

 ケインジアン・クロスを使って、2019年の日本経済を展望しよう。

 10月に消費増税が実施されるため、ポイント還元など、さまざまな対策が打たれても、個人消費が堅調に拡大するというのは、まず期待できない。

 ただ、ネット増税が2兆円であること、それに対して2兆円規模の消費増税対策が打たれることから、公的需要(財政赤字)は増税にも拘わらず、おおむねニュートラルとなる。

 外需は、前述した通り、現段階ですでに拡大が止まっており、2019年以降は、むしろ一段の減少が予想される。

 公的需要(財政赤字)が横這い、外需(純輸出)が減少だとすると、もし設備投資が増えなければ、民間貯蓄を十分吸収できなくなり、貯蓄投資バランスが崩れ、日本は景気後退局面に陥る。

 楽観的な見方をする人は、オリンピック関連だけでなく、インバウンド関連、不動産関連などの建設投資の増加が続くため、民間貯蓄の吸収が可能で、2019年も景気後退局面は避けられると考えるかもしれない。

 実際、ここ数年、設備投資が堅調に推移してきたのは、非製造業部門の建設投資が拡大を続けたためだ。しかし、急増が続いた結果、非製造業の建築着工は、既に2017年末にピークアウトしている。

 一方、逆に増えてきたのが、業績好調を受けた製造業の設備投資だ。

 景気拡大が長期化したことで、企業の間で楽観が広がっているのか、日銀短観などでも示される通り、大企業・製造業の2018年度の設備投資計画は高い伸びを示していた。

 建築着工でも製造業が増えており、工場建設の増加がうかがわれる。

 ただ、昨秋以降、株価は世界的に大幅な調整局面を迎えており、製造業は計画通り、設備投資を進めるのだろうか。

 2018年度については、軌道修正できず、設備投資を計画通り、実行するのかもしれない。しかし、海外経済の悪化が明確になれば、過剰ストックの積み上がりが懸念されるようになり、設備投資に急ブレーキがかかる可能性がある。

 もちろん、一部には、ロボティクスなどデジタル革命を受けた国内の無人工場の増設もあるだろう。第三次グローバリゼーションでは、新興国から先進国への生産拠点の再シフトという新しい動きが加速する。

 ただ、2018年度の設備投資計画は、昨年春先までの世界経済が絶好調な下で作られたバラ色の計画であったはずだ。

 こうしたことから、2019年は、設備投資で民間貯蓄を吸収することが難しくなり、日本経済は景気後退を避けられないと考える。

高い期待成長率もとに過大な投資
避けられないストック調整

 実は、経済全体で見ると、すでに現段階で、過大な設備投資が行われているとも言える。

 まず、設備投資比率(名目設備投資÷名目GDP)を見ると、過去4度の景気循環のピークとすでに並んでいる。

 だが、生み出した付加価値のうち、投資に回す比率が過去の景気循環のピーク水準まで上昇している。これは、バランスを欠いた、過大な投資が行われ始めた証拠ではないのか。

 資本ストック循環を見ても、仮に資本係数が横這いのままだとしても、現在の設備投資や資本ストックの伸びは、1.5%の期待成長率に対応したものとなっている。

 これは、筆者の推計する潜在成長率0.9%の2倍弱であり、持続可能とは言えない。

 資本係数の変化率が過去10年のトレンドで推移すると仮定すれば、現在の設備投資は2%もの高い期待成長率に対応しており、これは過剰ストックの大幅な積み上がりを意味する。

 つまり、景気拡大の最終局面で、楽観的な予想を企業が持ち始め、過大な資本蓄積をすでに始めた可能性があるのだ。

 慣性が働き、しばらくは設備投資の好調が続く可能性はあるにしても、いずれ設備ストック調整が訪れる可能性が高い。

 2012年の景気後退が軽微だったことを考えると、2009年から始まった長期の設備投資の拡大サイクルの調整が訪れるということなのだろう。

 そして単なるITサイクルの調整や製造業サイクルの調整だけでなく、過剰な設備ストックの調整ということになれば、軽微なものでは終わらないのかもしれない。

 この間に増えた設備投資の中には、日本銀行の極端な金融緩和でファイナンスされた収益性の低いものも少なからず含まれている。不良債権化する融資も増えてくるのだろう。

 もちろん、大幅な人手不足に対応して、日本の企業部門が資本集約化を進めているから、投資比率や資本ストックの伸びが高まっている、という解釈も可能かもしれない。

 人手不足を補うためのロボティクスやAIの装備がそれを後押ししているという見方も説得力があるだろう。第3次グローバリゼーションのフェーズに入りつつあることも、そうした動きを後押しする。

 とはいえ、これまでも「構造変化もあって、今回はこれまでとは違う」といった主張がしばしばされてきたが、実際、今回だけは違ったということがあっただろうか。

 仮に幸運が続いて、2019年は設備投資の拡大が続くとしても、それはより大きな調整が2020年に訪れることを意味するのではないか。

次の不況では日銀は脇役
金利政策は役に立たない

 景気の落ち込み具合は、政府による追加的な財政需要の規模に依存する。

 ケインジアン・クロスでの分析で不満なところは、経済対策の規模が大きければ大きいほど、景気の落ち込みが避けられるという論理展開になるところである。

 確かに短期的にはそうなのだが、追加財政の効果の本質は、赤字国債の発行を通じた将来所得の先食いであって、将来、返済を逃れることができないことを肝に銘じておかなければならない。付加価値が新たに生み出されるわけではない。

 無理に規模を追求すれば、借金返済で首が回らなくなり、必要な時に必要な政策が打てなくなる。

 実際、景気拡張期にも積極的な緩和を続けた金融政策は弾薬が尽きかかり、次回の不況期で、ほとんど出番はないと見られる。

 銀行業への副作用が大きいため、マイナス金利の深掘りや10年金利の誘導目標の引下げは難しく、主力の金利政策は殆んど役には立たない。

 イールドカーブコントロール(YCC、長短金利操作)を通じて、追加財政がもたらす金利上昇圧力を吸収するのが、主な役割となるのだろう。

 もちろん、マクロ安定化政策を担う中央銀行が何も行わない訳にはいかないだろうから、弊害を承知で、ETFなどリスク資産の購入拡大が実施される可能性がある。

 しかし、大幅な円高が訪れた場合、それを回避する手立ては全く残っていないのだろうか。

 世界経済が減速する中で、大幅な円高は輸出セクターに大きなダメージをもたらす。一方で、円高を避けるためのマイナス金利の深掘りは、金融機関の経営に大きなダメージをもたらす。

 一つ考えられるのは、日銀がマイナス金利での資金供給を行って金融機関に一種の補助金を供与した上で、マイナス金利を深掘りすることだ。

 これが現段階で考えられる日銀に残された手段である。

(BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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