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麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第33回

2019年最初に聴くハイレゾ名盤:カーペンターズ、YMO、クラプトンなど名盤多数

2019年01月07日 17時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●HK(ASCII)

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 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。音楽の秋に合った優秀録音をまとめました。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

『Carpenters With The Royal Philharmonic Orchestra』
カーペンターズ、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

特選

 エルヴィス・プレスリー、ロイ・オービソン、バディ・ホリーのオーケストラバージョンを本欄で採り上げたが、その最新盤がカーペンターズ。ニック・パトリックのプロデュースも共通だ。e-onkyo musicの特設ページのインタビューでリチャード・カーペンターはこう述べている。

 「オリジナルのサウンドを生かしつつ、アレンジなどに新しいアイデアを加え、リフレッシュさせたニュー・アルバムです。特にフル編成のオーケストラを使えたことは素晴らしい体験でした。オリジナルのレコーディングでもオーケストラは使っていましたが、それはずいぶん小さな編成でしたからね。長い間、オリジナルのアレンジや雰囲気を逸脱しない範囲で、さらに理想的なサウンドへ近づけるための小さなアイデアを貯め込んでいて、チャンスがあればそれを実現したかったのです」。

 超ゴージャス!! 「1.オーヴァーチュア」からして、まるでハリウッドミュージカルの幕開きのような豪華さ。フルオーケストラとコーラスが、カーペンターズを迎える。カレンのトラックはオリジナルと変わらすだが、バンドはオリジナルと新録が混ざり、オーケストラは完全に新録だ。現代のハイレゾに合わせて、リマスターされているので、旧音部分もたいへん新鮮。まるでたった今、録ったような尖鋭さと輪郭感がある。音が前に飛びだしてくる、硬質なカーペンターズだ。これまでリリースされたハイレゾのベスト盤とは相当、コンセプトが違うと聴いた。そこで、聴き比べてみることにした。

 「シングルズ 1969-1981」(flac 48kHz/24bit)の「トップ・オブ・ザ・ワールド」はさわやかでクリヤー。音場も音像も透明感が高い。コーラスもきれいに美しいハモリを聴かせる。新版「Carpenters With The Royal Philharmonic Orchestra」は音が太く、響きの量も多い。シングルズは「透明感」がキーワードだが、新版は緻密さと、音の充填さ、音の重量感、切れ味、進行力……が、ポイントだ。

 「イエスタデイ・ワンス・モア」はすがすがしく、伸びがよく、クリヤーな「シングルズ 1969-1981」対して、新版は冒頭にハープが入り、ヴォーカルや楽器が太くなり、ベースの低音感もより堂々としてきた。音の進行は重たい。重量感がある「イエスタデイ・ワンス・モア」だ。

 「スーパースター」の「シングルズ 1969-1981」は実にクリヤーで、カレンの声はとても魅力的。ヴィブラートが美しい。新版はピラミッド的なF特で重たく、手前にぐっとせり出す。声も高域を強調し、「さわやかさ」より声の強さを押し出しているようだ。輪郭も切れ味がメタリック。新版と旧版がこれほど違うかに驚いた。リチャード・カーペンターの指揮で、アビー・ロード・スタジオ2で収録。

FLAC:192kHz/24bit
A&M、e-onkyo music

『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー(2018 Bob Ludwig Remastering)』
YELLOW MAGIC ORCHESTRA

特選

 YMO結成40周年記念として、アルファレコード時代の全アルバムを最新リマスタリングを施し、ハイレゾ配信するプロジェクトの一環。ヒットシングル「ライディーン」「テクノポリス」を輩出した「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」は1979年の第2弾アルバム。マスタリングエンジニアは、 1300を超える有名アーチストのアルバムを手掛けるボブ・ラドゥイックだ。

 ベースの偉容さ、電子音の旋律のラブリーな尖鋭さ、ドラムのビートの確実さ……ハイレゾ音は、YMOの「新デジタルメンバー」かと思うほどの、YMOとハイレゾの相性はよい。新時代のYMO現象は、本ハイレゾから始まると言っても過言ではない。ぜひ、イマーシブサラウンドで体験してみたい。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Direct、e-onkyo music

『Happy Xmas』
エリック・クラプトン

特選

 季節外れだが、素晴らしい作品なので紹介しよう。エリック・クラプトンにこれまでクリスマスアルバムがなかったのが不思議だが、まさにこれぞ、クラプトン節。メロディと歌詞はお馴染みのクリスマスソングなのだが、ここまでロック、ブルース調になると、一年の中でクリスマスシーズンだけに聴かれる季節ものではなく、季節を問わずにいつでも聴けるアルバムと言ってもいい。ヴォーカルも各楽器も音像がしっかりとし、クリヤーだ。ドラムスは切れ味がよく、ベースの低域の安定感もしっかり。ビートを効かせた「12.きよしこの夜」は、作曲者のグルーバーが聴いたら驚くこと必然だが、でもいまなら、こんな風にイエスの誕生を祝うのだ。

FLAC:96kHz/24bit
Polydor、e-onkyo music

『アルマ・エランテ ~さすらいの魂~(中南米ピアノ名曲コレクションⅡ)』
下山静香

特選

 素足でピアノに向き合う「はだしのピアニスト」下山静香による、4人のアルゼンチン作曲家作品集。いずれも初めて聴く曲だが、以前どこかで聞いたことがあるような哀愁のデジャヴ的メロディだ。ピアノ音は大きなコンサートホールで、ゆったりと聴いているような雰囲気。心地好く、厚い響きのなかで眼前的な聴感を味わうことができた。

 「10.ガト(ガト)」は躍動的なバッセージが横溢。倍音が多く放出され、響きの中に拡がる音響ドキュメンタリーのような臨場感だ。プロデューサーの山崎潤一郎氏の解説(e-onkyo music特設ページ)によると、「今回のレコーディングで下山氏は、ピアノの調整において"開いた音"を求めたといいます。楽器としてのピアノを知り尽くした下山氏一流の極めて感覚的な表現ですが、誤解を恐れず意訳すると、各弦の実音(下山氏は「地の音」と表現)はもちろん、その音が含むあらゆる倍音が過不足なく周囲の空気を震わせ、そしてピアノから放出される、そんなイメージだと思います」と述べている。私が聴いた「倍音の豊かさ」は、ピアニストが狙ったことであった。

FLAC:96kHz/24bit、192kHz/24bit
WAV:96kHz/24bit、192kHz/24bit
Pure Sound Dog、e-onkyo music

『ベートーヴェン:交響曲第9番《合唱》』
小澤征爾、三宅理恵、藤村実穂子、福井敬 、マルクス・エイヒェ、東京オペラシンガーズ、水戸室内管弦楽団

推薦

 小澤征爾が水戸室内管弦楽団を指揮したベートーヴェン交響曲シリーズ第4弾だ。

 音源的には、2017年10月13日&15日の水戸室内管弦楽団第100回記念定期演奏会での第九演奏だが、当日は世界最高のホルン奏者のラデク・バボラークが第1、2楽章を、小澤が第3,4楽章を指揮した。後日、小澤指揮で第1、2楽章をセッション録音。第1楽章冒頭は三度抜き5度ならではの緊迫感溢れる開始。そのままテンション高く、第1楽章を突っ走り、第2楽章のアレグロを経て、第3楽章のアダアジォの安らぎ、安寧が心に染み、第4楽章では軽みと粘りが交互に出現する、

 ここから、チャプターがエピソードごとに分割される(チャプター4から11まで)。だから、聴きたい部分を取りだして聴くのにたいへん便利だ。「喜びの歌」が低弦から高弦に移るパッセージを聴きたい時はチャプター5を選べばよい。音は最新録音らしい鮮明さと質感の高さ。合唱の明瞭さはいまひとつ。

FLAC:96kHz/24bit
Decca、e-onkyo music

『「we are here」-40 years have passed and we are here-』
GONTITI

推薦

 GONTITI、結成40周年、デビュー35周年 を記念したアルバム。堂々の(?)のギターサウンドだ。オーケストラをバックに大きな音像の二台のギターがファントムセンターに明確に位置し、あたりを睥睨する。ギターサウンドはひじょうにクリヤーで、音の輪郭がとても丁寧に描かれる。アコースティックな味わいがとても好ましい。「2.beso lindo」は快適なリズム、シンプルなメロディが愉しい。バックの弦のピッチカートもエコーと共に弾む。「13.Tree Rings」は木陰で気持ち良くまどろんでいるような雰囲気。

WAV:48kHz/24bit、FLAC:48kHz/24bit
ポニーキャニオン、e-onkyo music

『Wayfarer』
畠山美由紀

推薦

 「Wayfarer」とは道案内人、もしくは旅行者の意味。歌世界を旅するベテランヴォーカリストの最新アルバムだ。「 リズムの中にも憂いや揺らぎを宿す」のが畠山ヴォーカルの特徴といわれるが、アルト音域の感情表現が豊かな濃いヴォーカルは確かに魅力的だ。太く、安定して艶艶した声の質感が、心地好い。バックのエレクトリックピアノが快適な浮遊感を演出している。「10.愛はただここにある」は、畠山ならではの感情的な説得力が強い、叙唱だ。バックのオーケストラが左右に拡がる中で、大きなヴォーカル音像がセンターに定位する。

WAV:48kHz/24bit、FLAC:48kHz/24bit
Rambling Records、e-onkyo music

『Metheny Mehldau』
Pat Metheny/Brad Mehldau

推薦

 三作同時に配信されたPat Metheny作品のひとつ。共演するピアニストのブラッド・メルドーは、この欄で以前、バッハ作品を採り上げている。「息の合った共演」とはまさに本作のことを指す。パット・メセニー作が7曲、ブラッド・メルドー作が3曲だが、いずれも音楽的に緊密なパートナーシップが、全編を横溢している。二人のサウンドが中心だが、「4.Ring of Life」「7.Say the Brother's Name」は例外的にベースとドラムスが入る。ここでも楽器間のバランスが好適で、音場の描きが緻密だ。

FLAC:96kHz/24bit
MQA Studio 96kHz/24bit
Nonesuch Records、e-onkyo music

『Prays Ave Maria』
SINSKE

推薦

 「DSDは直しが不可能。だから、自分の一期一会の演奏はDSDで録る」というSINSKEの戦略はまったく正しい。音質が凄い。単楽器のマリンバでありながらF特的にも、Dレンジ的にも、また倍音的にも、これほど音の情報量が多い楽器なのかと、驚嘆する。世界の「アベ・マリア」を13曲演奏する、この手の「アベ・マリアアルバム」はこれまでも、各分野で存在したが、マリンバでは世界初だろう。企画の勝利で、同時に選曲、演奏、DSD録音の勝利でもある。「3.アヴェ・マリア~カッチーニによる~」は尺八との共演。このバタ臭い曲にはマリンバと尺八がよく似合う。

DSF:5.6MHz/1bit
キングレコード、e-onkyo music

『DELICIOUS ~JUJU's JAZZ 3rd Dish~』
JUJU

推薦

 2011年の「DELICIOUS」、 2013年「DELICIOUS ~JUJU's JAZZ 2nd Dish~」に次ぐ、 JUJUのジャズアルバム第3弾。素晴らしいサウンドだ。ゴージャスで音が多く、ビートが効いたビックバンドをバックに、心地好くスウィングするJUJUのヴォーカル。絢爛豪華なスタンダードの世界だ。ジャジイな表現力も素晴らしい。音的なバランスはヴォーカルひとりが音像的にフューチャーされるわけではなく、バックバンドも明瞭に存在感を確保している。大都会の夜の目くるめく、カラフルな世界観が独特だ。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Labels、e-onkyo music

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