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ハイルドライバーを搭載した、無二の存在

圧倒的な低域は得難いもの、oBravoのSignature AMTを聴く

2018年12月31日 14時45分更新

文● ASCII

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万能ではないかもしれないが、得難い音を出す機種

 とはいえ、Signature エアモーションは万能な機種ではない。

 なぜなら、この低域の深さと強さはソースに合えばいいが、合わなければ閉口してしまうほどひどく感じてしまうからだ。例えば、ジャズや打楽器の演奏とは比較的相性がいいものの、ボーカル曲に関しては苦手だ。

 ノラ・ジョーンズの『It Was You』(24bit/96kHz)のようなシンプルなジャズボーカルであればまだしも、フラットでモニター的な特性のほうがいい、J-POPやアニソンとは相性が合わないように思えた。特にバランス駆動では、調整を失敗したサブーウーファや、音の悪いライブハウスと同様に、中域が痩せて、低域ばかりがズンドコと目立つケースが多かった。ボーカルは遠くに小さく鳴り、曲としておいしいはずの中低域もマスクしてしまう。

ノラ・ジョーンズの『It Was You』

 そういう意味ではクセのある製品でもある。女性ボーカルをアカペラで聴くと、雑味のない音色で、解像感も高く、子音やブレスの息づかいなども繊細に伝わってくる。ハイルドライバー自体は高性能だと思うのだが、ベースやドラムが入って曲になった瞬間、その良さが埋もれてしまうのは残念だ。

 低域の太さはオーケストラ演奏に良さそうだが、サントリーホールでライブ録音した、ネッロ・サンティ指揮/NHK交響楽団の『ベートーヴェン:交響曲 第7番』(第4楽章)も低弦やティンパニーなどばかりが目立って、ストリングスの響きが聞こえにくかったりした。

付属品。調整用のキットとトルクスドライバーが見える。

 そういう点を想定してか、パッケージには、ドライバーとキャップを同梱している。どうやらハウジングを分解し、通気口にキャップをはめることで、低域の量を調整できるようだ。メーカーの公式情報では初期状態が、最も低域が強い状態。200時間程度の鳴らし込み後の調整が推奨されているので、今回は試さなかったが、この調整によって上に書いたような問題が改善するかもしれない。

 以上、Signature エアモーションは、なかなかにとんがった機種であり、どんなソースにも合う「オールラウンド」の製品を求めている人にはおススメしにくい面はある。しかしながら、ピッタリとはまるソースでは、過去に聴いたどの機種も遠く及ばない“エキサイティング”で“リアル”な体験が得られた。これはとても貴重な体験だったし、機材を返却したいまでも、あの音をもう一度聴いてみたいと思ったりする。

パッケージには3ヵ国語で書かれたお礼状も同梱されていた。

 仕事柄、数千万円クラスのオーディオシステムを聴くこともある。(もちろんヘッドホンでは再現できない要素が別にはあるが)大型のスピーカーを駆動力のある、高出力のアンプで再生しても得難い低域の再現力を持った機種である。ハイゲインのバランス駆動では、その実力が存分に発揮される。ほかにはない音を求め、この音を気に入った人にとってはかけがえのないものになるだろう。

 自分の趣味に合ったものを、とことん追求するのがハイエンド機の醍醐味でもある。何でも平均的に鳴らせるヘッドホンではつまらない。そんな人にこそ勧めたいのがSignature エアモーションである。その振り切った偏り感は、使いこなす楽しみにもなりうるだろう。

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